表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
推しに全ぶっぱ!  作者: カナリオ
第1章 『リマ、推しをプロデュースする』
14/16

第14話「触れた髪と独占欲」

 撮影は順調に進んでいた。神社の静謐(せいひつ)な空気に、NOIRの衣装、そしてIVORYの存在感が完璧に調和していた。

 それを誰よりも理解していた私は、撮影スタッフに的確な指示を出しながら、終始冷静に立ち回ることができた。

 ──ただし、外側は、である。


 ……律希……ちょっと、ビジュアル良すぎませんか……ロングの金髪、鋭さの中に繊細さを感じる目元、ふとした瞬間に手で前髪を払う仕草。はあ……あれはもう、国宝……

 表情ひとつ変えずに現場を動かしながら、内心では律希のビジュアルに悶えていた。これに耐えられている自分を、むしろ褒めてやりたいくらいだった。

 そんな私の“限界オタク心”をよそに、現場の空気はさらに緊張感を増していた。撮影はクライマックスに近づき、スタッフの動きも忙しくなってくる。


「あっ、ごめんなさい!」


 忙しさの中、すれ違おうとした瞬間、私は誰かの胸にぶつかった。

 見上げれば──そこには、柊哉がいた。いつも無表情な彼が、ほんのわずかに眉を寄せ、私の足元へ視線を落とす。その目は一瞬で全身を確認し、安全を確かめるように動く。

 ……あ、これは……


「……ちゃんと前見て歩いてください。転びますよ」


 低い声とともに、私の肘をそっと支える手が添えられる。柊哉の過保護モードだ。これに捕まると、何もさせてもらえない。そのうち、おんぶされる。


「平気よ。それよりあそこのスタッフさんに、この資料渡してきてくれる?」


 唐突な指示に、柊哉がほんの一瞬だけ目を細める。


「……俺を撒こうとしてません?」


「…………何のことかしら?」


 軽く笑ってごまかしながら、私は柊哉の手をすり抜ける。せっかく解放されたこの数秒、無駄にはできない。

 その瞬間、視界の端に律希の姿が入る。カメラチェックの合間、首元のチョーカーを押さえ、きょろきょろと周囲を見回している。チョーカーに何か不備があるのかも。

 スタイリストを探すと、彼らは別のメンバーの直しにかかっていている。他のスタッフたちは皆、撮影の準備や機材移動で忙しそうだ。

 ──と、その視線が、まっすぐこっちに向く。


「……リマさん、これ……つけ直してもらえますか?何度やっても落ちてきちゃって……。」


 ……え、私?一瞬きょとんとしてしまう。

 見上げると、長い金髪が頬をかすめ、光を透かして揺れている。その端正な顔立ちの彼が、自分では何もできない赤子のように思えて、愛おしくなった。

 胸がふわりと浮く感覚に襲われて、気がつけば手が伸びていた。


「……後ろ、向いてください」


 ほんの数センチの距離で、指に金髪がふわっと触れる。彼の背中は予想外に肩幅があり、香水ではない、かすかに甘い香りがした。それだけで、心臓のリズムが一拍ずつ乱れていった。


「これで、どうですか?」


「いい感じです!全然落ちてこない!」


 律希はその場でジャンプしている。本当にこの人は……顔と行動が見合っていない。でも、その飾らない性格が、なにより魅力的だった。


「ふふ。良かったです」


 私は初めて、あの背中を独り占めしたいと思ってしまった──




 撮影が無事終了したあと、仕上がった写真は即日編集部へと送られ、数日後にはIVORYのビジュアルがSNSに解禁された。


「衣装完璧すぎない!?」

「神社のロケやばすぎ」

「NOIR×Pommeってやっぱり最強すぎる」

「ていうか律希……進化しすぎでは?」

「金髪ロングで息止まった」

「今回のビジュ、伝説レベル……」


 数えきれない絶賛のコメントが、トレンドを埋め尽くしていく。

 私は、手元のスマホでそれらを眺めながら、そっと微笑んだ。……すごい。やっぱり、彼らは世界に届く。

 そう思うほどに、自分の手が届かなくなる気がして──私は、ほんの少しだけスマホを伏せた。

最後まで読んでいただきありがとうございます!


ぜひ感想やブクマで推してくださると嬉しいです( ; ; )

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ