第12話「撮影見学」
数日前、人気ファッション誌でIVORYの特集が決まった。NOIRの新作衣装を使った撮影企画だ。その件で、ユウリから連絡が来た。NOIRが所有するアートギャラリーではなく、もっと“特別な場所”を探しているという。
数日後、ユウリが御影邸を訪れた。応接間に案内すると、彼はゆっくりと話し出した。
「今回は、ちょっと趣向を変えたいんだ」
そう言って、ユウリはiPadに数枚のイメージ写真を映し出す。映っていたのは、夜の森、朱塗りの鳥居、燃えるような赤と黒の衣装をまとったモデルたち。
「“神聖で静か、でも少し禍々しさもある場所”。
NOIRの新作テーマに合わせて、そういう空気を感じられるロケーションがいい」
その言葉を聞いて、すぐにいくつかの候補が頭に浮かんだ。
「……それなら、ひとつ思い当たる場所があるわ。…都心からは少し離れるけれど、Pommeの文化財管理部が連携している、非公開の神社があるの。撮影での使用も、私の方で調整できると思うわ」
ユウリはにやりと口角を上げた。
「さすが。やっぱりリマに相談して正解だったね」
彼の目はどこか探るようで、それでいて、からかうようでもあった。
「……本当に場所だけでいいの?」
私は少しだけ睫毛を伏せて、息を整える。
「あなたのことだから、最初からその神社に目星をつけてたんじゃないかと思ったけど」
「まさか」ユウリは肩をすくめて笑う。
「俺よりリマの方が、彼らに似合う場所、よく知ってると思っただけだよ」
「まあ…推しのことならね。ところでその撮影って、私も行ってもいい?」
「もちろんだよ。リマがいないと借りられない場所なんだから」
自分でも顔が緩んでしまうのがわかる。彼ら──IVORYが、そこで立つ姿を想像して。
撮影当日。
撮影が行われるのは、都心から少し離れた山中にひっそりと佇む、非公開の古い神社。
朱塗りの鳥居が幾重にも連なり、参道には黒石が敷き詰められている。
日の光は高い杉の木々の間から差し込み、社殿は黒と深紅を基調とした重厚な佇まい。
神聖さと、どこか禍々しさを感じさせる静寂。苔むした石灯籠と風に揺れる白い御幣が、空間に不思議な緊張感を与えていた。
Pommeの文化財部門が管理するこの場所は、通常は立ち入り禁止。私だけが知る“特別な場所”。今日はここでIVORYの撮影が行われる。
いよいよ始まる。律希にも会えるし、撮影だって見学できる。最高の一日になる——そんな予感が、胸を軽くしていた。
時刻は午前9時前、撮影スタッフによる準備が整えられていた。
そこへ—控え室の扉が開き、IVORYの4人が現れた。現場の空気が変わる。より明るく、でも緊張感もある。そして、私の心臓もありえない早さでドキドキし始めた。
4人は、クラシカルなモードスタイルに、アジアのストリート要素を融合させた雰囲気を纏っていた。
衣装のベースは黒。衣装の質感の違いで各メンバーの個性を引き出しながら、アクセサリーはシルバー×赤系を差し色にし、指輪やピアスで武装感を演出。
メイクも、目元にさりげなく赤やゴールドを入れて、“美しさと強さ”を両立させている。
その中でも律希は特に目立っていた。…やっぱり律希は違う。
律希は髪を肩まで伸ばし、なんと金髪に染めていた。その姿はまるで英国の王子様のようだった。こんなに金髪が似合うなんて聞いてない。そして無造作に流した前髪で片目を隠したスタイルは、ミステリアスな雰囲気を醸し出し、彼の中性的な顔とマッチしていた。
衣装は黒のビーニーをラフに被り、黒のショート丈スウェット×白のインナーで抜け感を演出。ボトムはレザーのハイウエストパンツに、ベルトの重ね付けでアクセントを。ビーニーにはNOIRのブランドロゴと、右手のフィンガーレスグローブが視線を引く。……スタイルと握手したい。
このとき少しだけ、見学に来たことを後悔していた。だって、すでに心臓は限界だったから。私はこのまま、耐えられるのか──
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