第11話「となり」
どうしよう、心臓の音がうるさすぎる。律希とユウリと別れ、私はひとりで悶えていた。律希を見つけてから、私の鼓動はずっと落ち着かない。私に向けられた律希の視線と、声がずっと頭から離れてくれない。
また、会えるのかな。そんな淡い期待が芽生えた瞬間、声がかかる。
「リマ様、少し外の空気でも吸われますか?」
振り返ると、NOIRの黒スーツを身に纏った柊哉が、どこか微笑むように立っていた。柊哉はショーの最中、私の後ろの席に座っていた。ショーが終わると関係者に挨拶をし、それがひと段落したところでリマのところに戻ってきた。
「……ん、そうね。ありがとう、柊哉」
エントランス近くのテラスに出ると、ほんのり夜風が涼しい。
控えめな照明に照らされた彼は、いつもよりずっと大人びて見えた。
「挨拶回りありがとう。疲れたでしょう?」
「そう思うなら、リマ様もご一緒してくださいよ。リマ様とお話したがっている方はたくさんいます」
「どうせPommeが狙いでしょ」
「そんなこと言わないでください。
それにリマ様の見た目は目立ちます。俺がいないところで、誰かになにかされたら……」
「柊哉、お父様みたい」
私は、ふふっと笑って見せた。
「とにかく一緒にいないと守れないんで。俺のそばにいてくださいね」
「はいはい、わかったわよ」
柊哉は私と二人になると、一人称が「俺」になる。私と柊哉は幼い頃から一緒だった。柊哉の桐生家は代々御影家に仕えている。
「律希様とお話しできて、よかったですね」
「えっ、見てたの?」
「見てました。……リマ様の表情まで、ぜんぶ」
「ちょ、ちょっと、それ怖いから……」
私がわざとらしく笑うと、柊哉も肩をすくめて見せた。
「ですが……あまり期待しすぎない方がいいかと。リマ様と彼は……」
「……わかってるわよ。自分の立場も彼の立場も。私はただ彼を推しているだけよ。特別な感情なんてないわ」
「……そうですか」
そう言って目を細めた彼の横顔に、ふとした切なさが混じって見えた。
***
そのやり取りを、律希は目撃していた。
律希と柊哉は御影邸で会ったきりだった。当時も彼の見た目は目を引くものがあったが、NOIRの衣装を完璧に着こなしていて、まるでモデルのような佇まいだった。そんな彼がリマと親しげに笑い合っている。
「……あのひと…ただの執事じゃ…ない…?」
律希は二人に声をかけずにその場を去った。
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