第10話「再会、それは静かな余韻の中で」
観客のざわめきが、再びひときわ大きくなった。
「……あれって、IVORYじゃない?」
「え?うそ、なんで?リストに名前なかったのに……!」
会場の最前列──そこには、4人のアイドルグループ・IVORY。上品なブラックスーツに、さりげなくあしらわれたNOIRの新作アクセサリー。静かに座るその姿だけで、まるで“作品”の一部のようだった。
私は少しだけ目を見開いた。真正面の席に、律希が座っていた。うそ……IVORYが来るなんて聞いてないよ……しかも正面だ……どうしよう。緊張してきた……
ショーが始まっても、正直それどころではなかった。それでも私は平静を装い、ショーに集中する。NOIRの華やかな衣装をまとったモデルが、次々とランウェイを歩く。モデルを目で追うとその先で律希と目が合う。律希が私に気付くと彼は微笑んでくれた。あぁ、これが天使の微笑みなのね……来てよかった……
私の心は溶けて、ぎゅっと締め付けられる思いだった。それを表情に出さないようにするのに精一杯だった。もしかしたら少し表情が緩んでいたかもしれない。
ショーが終わり、ゲストが続々と退場していく中、私は一度だけ、勇気を振り絞って振り返る──と、視線の先に彼がいた。
「リマさん、お久しぶりです!」
声をかけてきたのは、律希だった。ショーの雰囲気そのままに、落ち着いたスーツ姿で、やわらかな笑みを浮かべていた。あぁ、この笑顔に何人の人が心を奪われたんだろう。
「……まさか、あなたたちが来てるなんて。」
「サプライズゲストとして呼んでいただいたんです。」
「……NOIRって、本当に演出がうまいのね。」
ふと、律希が私のドレスに視線を落とした。
「そのドレス、NOIRですよね。すごく似合ってます!」
え……どうしようそんなこと言われたら私永遠に生きれちゃう……!!……でも冷静に。
「……ふふ、ありがとうございます。今日はPommeの代表として、しっかり務めあげないといけないので」
私は律希に褒められて、顔が緩むのを抑えるのに必死だった。……ただの社交辞令よ!本気にしちゃダメ……!
そこに、ユウリが現れた。モデルとの撮影を終えた後らしく、どこか楽しげな表情を浮かべていた。
「お、リマ。とそちらはIVORYの律希さんだね」
「……わざとらしい。ユウリが仕掛けたんでしょ?」
「ふふん。バレてた?」
律希は、私たちの会話を聞きながら、ふと表情を和らげた。
「……あの、ユウリさん。今回の衣装提供、僕たちにとってすごく大きな出来事でした。ありがとうございます」
「ん?ああ、それは──俺なんかより、こっちの人にお礼言った方がいいよ」
そう言って、ユウリは私の肩を軽く叩いた。
「……リマさんが?」
ユウリの言葉に、私は肩をすくめて笑ってみせた。
「…ただ、タイミングがよかっただけ。たまたま紹介できたの」
そのとき──視線を感じた。ふと顔を上げそうになって、慌てて目を伏せる。……こっち見てる?律希……?
ドレスの裾をそっと整えながら、呼吸を整える。視線の熱が、少しだけ頬に伝わってくる気がした。だめ……顔が緩む……。
「……ありがとうございます。本当に」
律希の声が近くで響き、私は小さく首を振った。
「気にしないで」
できるだけ穏やかに、距離を保つように。
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