第8話 次の戦い
俺は王宮を後にして、宿屋でジニムと2人で話していた。
「それで、あの男は何者だったの?」
ジニムは最初から見ていた訳じゃないから、そりゃあ気になるよな。
「技術殺しって呼ばれてるんだ。報復のようなものらしい、俺も、王から少し聞いただけだから詳しくは分からん」
「そっか、詮索するのはやめておくわ。………そういえば、転移魔法はどうなったの?」
転移魔法は、完全に扱える訳ではないが、問題はない。
「場所がズレることも、あるけど、使えるようになったよ」
ジニムがあんぐりして驚いた。
「早いわね、普通、転移魔法を使えるようになるには、2ヶ月くらいは必要なのに、ルリス、才能あるわよ」
「そう言ってもらえると、嬉しいよ」
他にも、これからどうするかを夜が明けるまで、ジニムと話し合った。思わぬハプニングがあったのだ、眠気はなかった。
「ルリス、暇ね」
「うん」
朝になると、暇なので、ジニムと一緒に出かけるになった、ドルムグラ魔導国の観光である。
人はあまりいない、考えてみると昨日あんなことがあったのだ、当たり前である。
街を歩いていると、ドルムグラ魔導国名物の煎餅が売られている。有名になったのは、最近らしい。俺は、異世界にも、煎餅があるという、驚きとちょっとした違和感を感じた。
俺とジニムはそれを2つ買うことにした。
値段は1つ、銅貨1枚。両替を済ませて、代金を支払い、2人でベンチに座って、食べる。
俺は他にも、前の世界にあったものが、この世界にあるのか、興味をもち、食べ終わった、ジニムに聞いてみることにした。
「ジニム、俺、実は他の世界から転生して、この世界に生まれたんだけど、さっき食べたもの見覚えがあるんだ」
「それって、ルリスが前、住んでいた世界の物ってこと?」
「そういうこと」
「へえ、誰かが異世界に転移して、持ち出して来たんじゃない?よくあることよ」
「異世界に転移なんて、できるのか?」
「世界を移動するには、膨大な魔力が必要だけど、技術はいらないから、魔力量が多ければ、できるわよ。なんなら、ルリスもそのうちできるようになると、思う」
意外な発言だ。世界を移動するってくらいだから、もっと、難しい技術もいるのかと思っていたのに、いや、そもそも、別の世界に行くなんてことができるのか。
「そうなのか、ジニムはできるの?」
「できる訳ないじゃん……」
愚問だった。ジニムの性格的にできるのなら、自慢してきていただろうから。
話を終えて、立ち上がり、また歩き出すと、今度は、噴水があった。綺麗で、沢山の人が見上げている。
俺とジニムは何も言わず、ただじっくりと、それを見つめていた。
◇◇◇
水の剣の異名をもつ、ディル=フェルリアは焦っていた。
彼女が焦るのも、無理はない。
師匠のイアム=リペゼストが転送連合に捕らえられたのだ。彼女は急いで、イアムを助けに向かったが、無謀だった。
(結界!?それも、かなり頑丈なものだ)
イアムを奪還しようにも
イアムが留置されている場所、転送要塞は、結界で関係者しか、入ることはできない。
ディルは結界に剣を振りかざしたが、結界は壊れない。
(剣が弾かれる……私じゃ、駄目だ)
ディルは結界を破ることができなかった。
総統リルテムによって張られた結界だ。簡単に破れるものではない。
ディルでは不可能だったが、ルリスならできるかも、しれないと思い、必死でルリスを探す。
彼女がルリスのことを知っていたのは、イアムが、定期的にディルに送っている手紙に、ルリスのことを記していたからである。
その手紙の内容から、ディルは自分より、実力があると察したのだ。
異変に気がついたのは、2時間前の事、ディルは、急にイアムの魔力が消え去ったことから、イアムが転送連合に捕えられたと考えていた。
(確か、ドルムグラ魔導国で目撃情報があったはず……)
そう思い、ドルムグラ魔導国に転移した。
どのような魔力か、分からないため、魔力感知は使いものにならないが、顔は手紙にあった写真で知っている。
魔吸石でも、破ることができるが、
入手難易度が高く、ルリスを探す方が合理的である。
どうにかして、探し出すしかない。
疾走を続ける彼女。幸い、人が少ないので、見つけやすいのだが、それでも、ルリスが見つかる気配はない。
(仕方ない……こんな時に魔力を消費したくなかったけど、残された時間は少ない、捜索魔法を使うか…)
ディルは捜索魔法「サーチ」を発動する。
「サーチ」は、対象の位置を把握したい時に使う。
発動条件は、対象の顔を知っていること。
似顔絵では、条件を満たさないが、写真では可能である。
ディルの脳内に、一瞬にして、ルリスの位置が送られる。位置は感覚として、理解できるのだ。
(噴水が、ある場所は確か…………銀色の髪に黒の瞳!!あの子だ!)