第7話 不平等
カヤムドが斬撃を放つ。
俺が奥の手を使おうとした時、ようやく、ジニムが復活し、驚きの声を上げた。まあ、驚くよね。
(どうしたの!?)
(どうしたって…見ての通り、戦ってるんだけど)
(いや、それは分かるけど……避けて!!)
俺はそれを聞いて、なんとか、攻撃を避けることができた。やはり、ジニムの魔力感知は、俺のそれより、性能が高い。ジニムは今、異空間にいるが、魔力で俺と感覚を共有することが可能である。
どうやら、魔力は十分に回復したようだ。
(ルリス、アイツ、疲弊してる。物量で攻めて、もっと疲れさせるのよ)
成る程、俺が使える、物量の魔法といえば、水乱打しかない。
俺は急いで、水乱打を発動する。
「クッ………」
(今よ!!ルリス!!!)
「流闇!!!」
カヤムドは倒れた。
遣る瀬無いまま。
◇◇◇
スキルを所有していない、カヤムドがスキルを習得しない理由を語るには、彼の人生について知る必要がある。
オレは、負けたのか?
………結局、何もできなかったじゃねぇかよ。
唯一、強いことが取り柄だったのに。
オレは、生まれた頃から負けたことがなかった。
だが、完璧ではなかった。スキルをもっていなかったのだ。皆んなもっていたのに。
でも、オレは気にしなかった。スキルなんて、なくとも、最強に成れる、と思っていた。
だから、迷宮の存在価値が分からなかった。
でも、違った。スキルをもっている者と、そうでない者には、大きな壁があった。絶対に越えることのできない、壁が。
あれは、確か、魔王だった。
魔王はスキルがない、オレに興味を示し、本部に招待した。その魔王の魔力感知は目を見張る性能で、オレの魔力を感じただけで、オレにスキルがないと、分かったのだ。
何をするのかと思えば。
ソイツはオレにスキルがなかったから、オレには価値が無いと言い、オレの目の前で、両親を殺してみせた。その後、オレは奴に、故郷へと転移させられた。
あの時の感情は今でも、はっきりと覚えている。
ひたすらに冷たかった。オレを心配してくれた、勇者だけが救いだった。勇者は、魔王を必ず倒すって、約束してくれたけど、今はどうしているのだろう。
魔王は討たれたのか?
いや、それはないだろう、勝てる筈もない。奴が何故、魔王と呼ばれているか
一瞬にして、分かった。
誰かが変えなければならない、この不平等を。
◇◇◇
カヤムドが立ち上がった。さっきの一撃で鎧は砕けて、顔が見えている、黒髪に水色の瞳の男だ。
「まだ、立つのかよ?」
「そりゃあ、立つさ」
カヤムドは即座に構え、答えた。
「打ってみてくれ、効かないから」
「後悔するなよ……灯撃斬!!!」
閃光が発生し、凄まじい轟音が鳴り響いたが、俺は無傷。そう、逆転防御だ。魔力コストが高いので、頻繁には使えないが、今のは仕方ないだろう。
さて、お返しだ。
「流闇!!!」
闇はカヤムドに攻め寄る。
「グハッ………」
(この子供の名………ルリスという名は、あの時の………)
奴は今度こそ、意識を失った。
懐かしそうな表情を浮かべながら。
それで、その後、すぐにドルムグラ魔導国の王、アゼ=ドルムグラに呼び出された。
あれ、これ、もしかして、やらかしちゃった感じ?
「其方、よくやってくれた!!!カヤムドを誰も倒せず、困っていたのだ。褒美として、金貨100枚を与えよう」
マジか!!太っ腹が過ぎるぞ!?これじゃあ、クエストで小遣い稼ぎをしていた、俺はなんだったんだよ!?
王からの説明によれば、カヤムドは、すぐに目を覚まし、あの場から逃げ去ったらしいが、俺が与えた、致命傷で被害は格段に減るとのこと。
褒美をちゃっかり受け取り、俺はその場を後にした。
◇◇◇
総統リルテムは驚愕し、溢れる感情を制御できず、目の前にあった机を蹴り飛ばす。
「カヤムドが負けただと!?有り得ぬ!!」
リルテムは報告に来た雑兵へと、問う。
「まさか、死んだ訳ではあるまいな?」
「はい、ですが、連絡がとれず、居場所も分かりません」
「奴は優秀だ、これからも働いてもらう必要がある、今すぐに見つけ出せ!!」
「はい、すぐに捜索を開始します」
(奴を失えば、連合の戦力は著しく低下する、何としても取り戻さなければならん)
カヤムドがもっているものは”スキルへの執着”だ。
カヤムドは勝てる戦いしかしない。
勝ち目の薄い戦いはしないのだ。
あの時、カヤムドは魔王と戦わないことを選択したのは、本能で勝てないと、理解していたからだ。
だが、カヤムドは仮にも、強者。
その強者を倒した、ルリスは注目されることになる。
それにより、戦いに巻き込まれることにもなる。
これは、カヤムドの初めての敗北であり、ルリスが大物となるキッカケでもあるのだ。
魔王は2人存在します。両方結構すぐに登場します。
それと、次の話から新章に入ります。