第3話 遭遇
足音を立てながら、此方へ近づいてくる。
一瞥しただけで分かった、転送連合の連中だと。
コイツは転送連合職員に与えられる、薔薇のペンダントを身に付けているからだ。
背は俺より少し高くて、丸腰だ。
武器も持たずに来るなど、相当な自信があるのだろう。
強い、魔力感知もままならない俺ですら分かる。
ゴブリンとは比べものにならない程の魔力量だ。
これ程の魔力量、幹部クラスなのか?
一体、何の用で来たんだ?
そして、イアムが問う。
「アンタ、何しに来たんだよ?」
「俺はカルボ、イアム=リペゼスト、貴様を連合に連れ戻せとの、命令だ」
「ルリス、先に行ってろ、こいつ、強いぞ。」
やはり、目の前にいるのはただの職員ではないようだ。丁寧に名乗ってくれた。
多分、幹部だ。やばいな、勝てるか分からない。
「無理です!イアムさんを置いて行けませんよ!」
「だから、そんな事言ってる場合じゃ―――」
その時、カルボはかなりの速度でイアムを吹っ飛ばした、威力も凄まじいものだったが、イアムに意識はある。まあ、攻撃を喰らい、動けなくなっているようだったが。
「貴様は後で連行する、次」
そうして、俺の方へと向かって来る。絶体絶命!?
という訳ではない、策はある。
さて、この策が通用するかどうかだ。
実はさっき、魔法を1つだけ紹介し忘れていた。
この魔法は俺のスキルだから使える、俺だけの魔法。
防御魔法「逆転防御」
敵からの攻撃の正と負を反転させ、受ける。俺はスキルの特性上、負のエネルギーを吸収し、回復することができるのだ。
だがこれは攻撃が正のエネルギーである時しか、通用しない。もし、攻撃が負のエネルギーであった場合、そのまま攻撃が通ってしまうのだ。
しかし、改めて普通に考えてみると、負のエネルギーでの攻撃なんて勇者や魔王クラスしか出来ないだろう。もし、カルボが使えるのなら、かなり衝撃的だ。
だから、何も問題はない。
「逆転防御!!」
と魔法を発動させる。
「防御魔法か、甘いな、その程度の魔法、貫通させてやる!」
と、意気揚々に答えるが、結局、俺に攻撃を吸収されてしまう。
「なっ、何故、攻撃が効かんのだ!?」
奴の攻撃は負のエネルギーへと反転し、俺に吸収される。ノーダメージだ。たった一撃、無効化されただけなのに、カルボは取り乱している。
「お前の攻撃は、俺に吸収されたんだ」
「何!攻撃の吸収だと!?そんなこと、魔王ですら出来る訳が――」
「流闇!!」
闇の刃が出現し、カルボは焦る。
俺は奴の首を刎ねた。
だが、違和感がある。
「分身!?」
それは奴がほんの一瞬で作った分身だったようで、その分身は消滅していく。
逃げられた。何処に行ったのかも分からない。
やはり、強い。
即死しなくとも、致命傷を与える気で攻撃したのに。
「イアム!!」
俺が心配して、駆け寄る、回復魔法を使うことは出来ないが、大丈夫だろうか。
「問題ない」
そう言い、立ち上がり
「やるな、お前、強かったんだな」
と褒めてくれた、イアムが褒めるのは結構珍しいことだ。
◇◆◇◆
森の中に、敗走している男がいた。
その男は驚愕していた。
「アイツ、何者だ?」
あともう少し、分身を作るのが遅れていたら、間違いなく殺されていた。油断していた、自分の攻撃が完全に防がれたことなど、今までで一度もなかったのだ。
「魔力の精度がとんでもない訳でも、魔法が凄い訳でもない。なんだ、あのスキルは?」
カルボはルリスのスキルが異常だと分かった。
カルボのスキルは鑑定、見た者に関しての情報を得ることができる。名前、魔力量、スキル、才能などだ。
記憶を読むことはできない。
鑑定結果として、スキルは魔力が負のエネルギーに変化するというもの。一度でもルリスの攻撃を喰らってしまうと、それだけで、死に至る可能性さえあるのだ。
これ程のスキルは本来、勇者や魔王クラスが所有するもので、有り得ぬこと。いや、そのクラスでも、一部しか、所有していないようなものだ。
その事実をカルボは受け止めきれない。
「次はこうはいかんぞ、覚えておけ」
◇◆◇◆
漸く着いた、迷宮だ。
構造は想像通りのもので、中央に大扉が取り付けられている。
「行こう」
イアムはそう言って、大扉を開けて、入った。
続けて俺も入る。
中に入ると、奥に水晶があるだけ。だけど、そこからは何か、気配を感じる。
「これに、触れてくれ」
「触れると、どうなります?」
「迷宮攻略の始まりだ」
準備は出来ている。
それでは早速、触れてみることにする。
触れたと同時に発光し、魔物が出現する。気配の正体はこれだ。薄々分かってはいたが。
10体のゴブリンが出現した、このゴブリン達、妖精に格段に強化されている。攻撃を受けると、重い。
かなりの剛力だ。
だが、俺達の敵ではない。
数秒経たずに屠られてしまった。
迷宮にて出現する敵はボスを除いて、妖精が魔力で魔物を生成していて、そこには魂が含まれていない為、生物ではない。なので、心置きなく戦うことができるのだ。
次は5体のオークが出現した。
ここからはなかなか厳しいかもしれない、なんとこのオーク、スキルをもっているのだ。妖精から速度上昇のスキルを与えられており、俊敏な動きをする。
並の実力者なら見えない速さだ。
「このオーク、速いですね」
「いや、私からすれば遅いな、熱傷炎!」
これもなんとか倒すことが出来た。
オークを殲滅し、新たな敵が出現する。
「逃げるなら今の内だぞ、ボスだ」
「逃げませんよ」
禍々しい魔力に包まれながら、召喚されたのは、悪魔だった。