プロローグ
人生で後悔したことはなかったけど、幸せとは言えなかった、そんなことを考えている。
それでは、俺の人生について、語るとしよう。
今日は珍しく外へと出掛けた。
高見懸は29歳、ついこの前まで無職だった。
今年、三十路になる。
結婚はしておらず独身であって、実家暮らしの引き篭もり。ずっと、ゲームや読書をしている。
寝たい時に寝て、大体、昼ぐらいに、いつも起きる。
堕落した毎日を過ごしていた。
だが、そんな俺でも、親は俺を責めることなく面倒を見てくれたのだ。俺はこの親で良かった、ここまで、優しく接してくれるのは、世界中を探しても、僅かしかいないだろう。
それで、俺が出掛けた理由は、会社へ出勤するためである。今まで引き篭もりニートであった俺だが、結構良い大学を卒業していたため絶望的ではなく、なんと、先日受けた会社の面接に受かっていたのだ!
しかもその会社は一流企業である。
起床し、スーツを着こなす。
偶然ではない、これは運命だ。
今日が初日、今日から俺の人生が変わる。そう思っていたのに……
自分の人生に機会が訪れ、期待を抱えながら歩みを進める。だが、悲劇は訪れる。
俺を嘲るように。
信号を渡っている時だった。その時、違和感があったのだ。
あれ………よく見ると何かが此方に突っ込んでくる。
それは、信号無視のトラック。どんどん俺へと近づいてくる。俺に気づいたトラックが急ブレーキをかけるが、もう遅かった。
避けられない。
「あっ―――」
トラックの勢いが止まることはなく、そのまま俺へとぶつかり、俺は痛みを感じる。弾き飛ばされたのだ。トラックは慌てて、スピードを上げて走って行った。
それと同時に周りの人々から悲鳴が起きる。救急車を呼ぼうとしてくれている人もいる、けど、間に合いそうにない。
回復することはなく、ただ意識だけが薄れていく。
俺は死ぬのか……?
今までの人生で後悔したことはない、自分の決断に後悔などしたくない。俺に何も残らなくなるからだ。
ただ、幸せではなかった。せめて結婚して子供の1人くらいは欲しかった。まあでも恋愛なんてしたことなかったんだけどね。
もし俺が金持ちだったら何をするのだろうか?
きっといろいろな物を買って、遊んで、遊びまくるんだろう。
子供の頃は家で読書をしていた。あの頃に戻りたい。
今と同じで、友達がいなくて、それで何が欲しかったんだっけ?
ああ、ゲーム機だ。親に買って貰って、壊れるまで遊んでいた。嬉しかった。
……そうじゃない。俺が欲しかったものなんてなかった。
俺はただ、生きていたくて、それで何も求めてなかったんだ。無欲だった。そうやって生きてきたんだ。もし、生まれ変わることができるなら、俺はやりたい事をして、自由に生きたい。
………やばい。
そろそろ俺の意識が―――――
そうして俺は死んだ。
いや、まだ死んでいない。生きている。
確かこの後、直ぐに目を覚ます。
周りの状況的には、数分後だったのだろう。
血が出ているが、死ぬ程ではなく、痛みもない。
「生き延びたのか……」
安堵した俺。
立ち上がろうとすると、痛み。
その痛みは、今までに感じたことのない、別物で、俺の力を奪ったのだ。
力を奪われ続け、また、意識がなくなる。
そして、俺は死んだのだ。
だが、これで終わりではない、続きがある。
これから高見 懸は、転生することになるのだ。
魔法の世界、異世界へと。