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恩返し勢が帰ってくれない  作者: エイ


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28/33

『心』が生まれた

 

「え、エサ……?」


 衝撃的な言葉に茫然とするアメリアを見て、メディオラはにんまりと口角を吊り上げる。


「その魔物がそばにいるのはあなたが美味しいエサだからよ。必死になって助けるのは、得難い大事な食糧を失いたくないから。決してあなた自身のためではないわね。フフ」


 その魔物、とメディオラが指をさすので、つられるようにすぐ隣にいるピクシーを見上げると、彼は顔色を無くしている。

 見上げるアメリアと目が合うと、くしゃりと顔を歪ませた。


「え……」

「可哀想にねえ! まさか人間のように魔物と仲良しの友達になれたとでも思ってた? そんなわけないでしょう。魔物にとってあなたはただのエサ。膨大な魔力量があるから食われても影響ないみたいだけど、いずれは生気まで吸い尽くされて、死ぬわよ」


 エサ? 死ぬ? 何を言っているか分からない。

 メディオラは嬉しそうにいずれ死ぬと何度も言っている。

 隣にいるピクシーをもう一度見上げると、泣きそうな瞳がそこにあった。いつも余裕のある彼のそんな顔は初めて見る。


 それだけで全部分かってしまう気がした。


「ああ、可哀想に。その魔物を信頼していたの? 愚かねえ、魔物とヒトは相容れない存在だって習わなかったの? もっと勉強すべきだったわね。魔物は人を惑わすもの、誑かすもの。これは人間の常識よ。仕方ないわね、無知なあなたの自業自得よ」


 クスクスと笑うたび、ひび割れた頬から皮膚が崩れ落ちる。おかしくてたまらないといった風にお腹を抱えてメディオラは笑い続ける。


「ホラ、アメリア。魔物に食いつくされるより私の体になって大切に使われるほうが幸せでしょう? 磨いて着飾って今よりもっと綺麗にして使ってあげるわよ」


 メディオラが一歩、また一歩と近づいてくる。

 ピクシーは何も言わず動かない。逃げなければ、と声をかけようとした瞬間、メディオラが後ろ手に隠していたナイフを振りかぶった。


「……ぐっ!」


 振り下ろされたナイフは、アメリアには届かなかった。なぜならナイフが振り下ろされる前にピクシーがアメリアを庇い、代わりに自分がメディオラの凶刃をその身に受けたからだ。

 ピクシーが己に刺さったナイフを握る手を素早くつかむと、メディオラの体が雷に打たれたようにビクンと弾け、白目をむき糸が切れたようにガクンとその場に崩れ落ちた。

 反撃する隙を作るためにわざと刺されたのか、ピクシーは『汚いもの触っちゃったわ』と言いつつメディオラを蹴り飛ばす。

 だがメディオラの凶刃は的確にピクシーの心臓を穿ち、メディオラを蹴り壁際まで遠ざけたところで限界がきたようで、崩れ落ちるように床に膝をついた。


「ピクシー!」


 ピクシーは刺された胸の傷から血が流れ、足元には大きな血だまりができている。胸に突き刺さっているナイフを引き抜くと、ドバっと血が溢れた。


「呪いのたぐいはかけられてない……みたいだけど」


 刀身を確認したところでピクシーは限界を迎えたようで地面に倒れ込む。アメリアは真っ青になって彼の傷口を押さえた。


「なん、なんで私を庇うの! ああ、血が……」

「……アメリアの魔力のこと、黙っていてごめんね。確かにアタシたちは、魔力のおこぼれをもらっていた……でも騙すつもりじゃなくて、それを言ったらアメリアに嫌われるんじゃないかと思うと、言い出せなくて……」


 アメリアは出血を止めようと強く傷口を圧迫するが、指の隙間からあふれ出してくる。ピクシーはただごめんと繰り返すばかりだった。



「そんなの……! 魔力が目的だったとしても、私は構わなかった!」


「でもね、これだけは信じてほしい。アタシたち誰もアメリアのこと、エサだなんて思っていない……。皆、不器用で優しいアメリアのことが好きだから傷つけたくなかった……そばにいたかっただけなの。黙っていて、ごめんね」


 嫌われたくなかった、傷つけたくなかった。だから言えなかった。

 そう呟くピクシーの言葉に、アメリアはボロボロと涙を流しながら首を振る。


「わた、私、みんなが一緒にいてくれて本当は嬉しかった。一人きりになりたいってずっと思っていたけど、本当は誰かと関わって、また傷つくのが怖かったの。遠ざけようと酷い態度をとってたのに、皆ずっと私のことを考えてくれていた。だから魔力のことをきいても、騙していたなんて思わないよ!」


「……そうね、もっと早く白状すればよかった」


 ピクシーは自嘲するように小さく笑う。そして震える手でアメリアの頬を優しく撫でた。


「好きよアメリア。あなたと一緒にいて、たくさんの感情を知ったの。ただの魔物だった私に『心』が生まれた。嫌われたらどうしようって、失うのが怖いなんて感情、昔は知らなかった。愛しいって気持ちも……」


 もういいからとアメリアが言っても、ピクシーは喋るのを止めようとしない。まるで最後に全て伝えようとするかのように言葉を絞りだす。


「私、ヒトらしくなったでしょう? あなたと一緒にいても、おかしくないくらい……」


 ずっとアメリアと一緒にいられるように、ヒトみたいになりたかった、と言うピクシーに、これまでの彼の行動の意味が理解できて、さらに涙が止まらなくなる。





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