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恩返し勢が帰ってくれない  作者: エイ


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魔物が彼女を守る理由


 魂を抜き取ると一時的に肉体は絶命する。

魂の移管はそのあとだ。

六人の命を使って反魂術を発動させ、メディオラの魂はアメリアの肉体へと移る。

そうして大魔女メディオラは生まれ直すのだと、ひび割れた顔で嬉しそうに笑う。


「〝吸魂術〟」


 魔法を発動させた右手で、アメリアの額を掴む。

力が吸い上げられている感覚がして、手足が強張り、魂が抜き取られると本能で感じる。必死に抗おうとするが拘束魔法はびくともしない。

体の中からメリメリと嫌な音を立てて、魂と肉体が無理やり引き剥がされていく。死の恐怖が襲ってくる。


――――死にたくない! と心の中で叫んだ瞬間、メディオラの手がバチン! と感電したように弾かれ、その勢いで後ろに倒れ込んだ。


「はっ!? 術が弾かれた……? どうして……」


 己の術が失敗して驚くメディオラが呟いた疑問に答える声がした。


「それはアメリアの命がアタシたちとつながっているからよ。アタシたちとの魂のつながりを切らないと、彼女の魂を抜き取ることはできないわ」


声と共に目の前にいたメディオラが何かの力で弾き飛ばされた。そしてアメリアを縛っていた拘束魔法が引きちぎられ、優しく抱き上げられた。

 顔をあげるとそこには、ホッとしたように微笑むピクシーがいた。


「ピクシー……来てくれた……」

「遅くなってごめんなさいね。怪我はない?」


 見捨てず助けに来てくれた嬉しさと、巻き込んでしまった申し訳なさが交錯する。


「待ちなさい! そこの魔物が言ったことは本当なの? アメリアは、魔物と一蓮托生の契約をしたということ?」


 我に返ったメディオラが叫ぶが、アメリアは何か抗う術を使った覚えもないしピクシーの言った言葉の意味も分からないので戸惑うしかない。

恐らく魔物たちが何かの術を仕掛けておいてくれて、そのおかげで魂を抜かれずに済んだのだと予想するが、ピクシーがにやりと笑ってそのとおりだと肯定した。


「そうよ。アタシたちは、アメリアの命とつなぐ契約をした。残念ね、吸魂術では魂のつながりは断ち切れない。悪い魔女の思い通りにはさせないわ」


「魂をつないだだと!? アメリア、あなた余計なことをして! 手間を増やさないで頂戴! 契約している魔物を片づけないと儀式が始められないじゃない! もう時間がないのに!」


「悪いけど、もう他の魔物たちはこの屋敷から脱出しているわ。魔物たちを全て見つけて殺さないと、アメリアの体は手に入らないけど、それまであなたのその体がもつかしらね。もうそろそろ崩れるんじゃない?」


 ニヤリと笑うピクシーに、メディオラの怒りが爆発する。

 二人のやりとりをアメリアはハラハラしながら見守るしかない。すぐにでもこの場から逃げるべきだと思うのに、彼は余裕のある態度で話を続けている。


「魔物のくせに、私の新しい体をかすめ取ろうっていうの!? ……もういいわ、できるだけ傷をつけたくなかったけど、こうなったらもう物理的に殺すしかないわね。体はあとで修復すれば使えるようになるでしょう。まっさらな新しい体に傷をつけたくなかったのに……」


メディオラは壁に飾られている剣を手に取る。

魂の抜くのではなく、アメリアを殺して肉体と魂を切り離す作戦に切り替えたのだと分かり、ピクシーの顔がさっと青ざめる。


「物理的に殺すって手があったのね……! 死体を修復できるの? 滅茶苦茶だわ、させるわけないでしょそんなこと!」


 言い終わらないうちにピクシーはアメリアを抱えたまま走り出す。


「逃がすわけないでしょう。矮小な魔物に何ができるというの」


 逃げる先に次々と土魔法で壁を築いてアメリアたちの行く手を塞いでいく。

メディオラは魔法を放つたび、体にひび割れが走る様子を見ると、恐らくもうあの体は長くは持たないのだろう。


なりふり構わずドレスの裾を翻して二人を追ってくる彼女の姿は鬼気迫るものがあった。

風魔法がピクシーの背中を切り裂いたのを見て、たまらずアメリアはメディオラに向かって叫んだ。


「やめて! ピクシーを攻撃しないでください!」

「それならあなたがこちらに来ればいいだけよ」


 そう言い返され、アメリアに一瞬迷いが生じる。だがピクシーは、そちらには行かせないと腕にぐっと力を込めてアメリアを強く抱きしめる。


「しっ、死体でもいいなら他の体を使えばいいじゃないですか! 容姿が似ているだけで、私はなんの才能もないし、健康状態も良くないし! 美しくて健康な死体を探してください!」


 一縷の望みをかけて、大魔女の新しい体には貧相すぎてふさわしくないとメディオラに向かって叫んだ。

 見た目は似ているが、それでも別人には変わらないし、アメリアの体は魔物たちが散々言っていたように、この体は味覚が壊れていて痛覚や他の色々な部分で不具合がある。

死体でいいなら、こんな不健康な体よりももっと他に優良な体があるはずだ。

そう主張すると、意外なことにメディオラは攻撃を止め、不思議そうに首をかしげている。


「……何を言っているのよ。あなたの魔力量がないと、反魂術が使えないからその体じゃないとダメなのよ。六つある恩寵も、少ない魔力量の体じゃあどれも使えないから意味がないのよ」


「えっ、でも、私は魔法もロクに使えないですよ? 散々出来損ないって言われていたのを、あなただって知らないはずないでしょう!」


 諦めてくれるとは思わなかったが、多少の時間稼ぎになればと言っただけの話が別の方向に進んでいる。

 よく分かっていない様子のアメリアを見て、メディオラは困ったように笑う。


「あなたの体は、恩寵がないからうまく魔法に変換できないだけで、魔力量だけならどの魔女よりも多いわよ。魔法に使えないから体の中に魔力が溜まり続けて、溢れて止まらないくらいじゃない」


「魔力量が……多い? 私が? だって、誰にもそんなこと、言われなかった……」


 兄姉たちにも、歴代の家庭教師からも一度も言われたことがない。そもそも魔力の量は魔法を使ってどれくらいで底が見えるかで測るものだから、魔法がほとんど使えないアメリアには知りようがない。


「知らないわけないでしょう? だってそこの魔物も…………」


 そこまで言ったところでメディオラがはたと何かに気付いたようにピクシーに目線を向けた。

 メディオラに見つめられてもピクシーは表情を動かさなかったが、それを見て彼女は急に納得したように大きく頷く。


「ああ、てっきりアメリアがその魔力を引き換えに、魔物たちを従えているのかと思ったら、あなたが魔物のエサにされているのね。アハハ! 魂をつないだのも、魔物が食料を確保するためよ。あなたは何も知らなかったのね。騙されて、食い物にされていたなんて、なんて可哀想な子!」



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