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恩返し勢が帰ってくれない  作者: エイ


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大魔女の正体


過去、メディオラになにがあったのか分からないが、本人には自分に呪術が施されていることを知らなかったようだから、周囲の者が命をつなぎとめるために秘密裏に行ったことなのだろうかと新たな問題が浮上し、皆に再び緊張が走る。


「その呪術を使ったのは誰なのです? ……一族の誰か、ですか?」


 恐る恐るヘレックがメディオラに訊ねた。

 魔女が死霊使いの呪術を使ったら、処罰されるだけでは済まない。良くて一族追放、内容によっては処刑されるほどの大罪である。

 メディオラを救うためとは言え、禁じられた呪術を使った者がチューベローズ家の身内か身近にいるのであれば、一族全体が処罰の対象になるかもしれない。


 自分たちの立場が危うくなる可能性を感じて、兄姉たちは顔を青くしている。だがメディオラはゆったりと首を振ってそれを否定した。


「少し違うわ。命をつなぎとめたのではなく、死者の魂を蘇らせたのよ。呪術を使ったのは、あなたたちのおじいちゃま、おばあちゃまに当たる私の両親よ」

「!!!」

 

 反魂術、とアメリアは口の中でつぶやく。

 死者の魂を蘇らせる呪術は、魔女の歴史書で反魂を試みた大罪人がいたという伝説が残っているだけで、実在するものだとは思っていなかった。


現在の魔女規約では、反魂術について検証することすら禁止している。魔女にとって死霊は祓うべき存在であり、死者の魂に触れることは魔女を穢れさせると言われている。


 メディオラの告白が事実ならば、ここにいる母は黄泉から戻った死者ということになる。


「ま、待ってください。祖父母が亡くなられたのは、我々がほんの子供の頃だったはず……では、母上はいつ、呪術によって蘇ったのですか? それを知る者は、他に誰が……」


 皆、てっきり後継者指名か遺産についての話だと思っていたのに、一族の根幹を揺るがすような事実を暴露され愕然として口がきけずにいるなか、モノリスが唯一立ち上がり母に疑問をぶつける。

 血縁が過去に禁術を使ったという事実を、秘匿するか公開するか決めなくてはならない。もちろん兄姉たちは隠し通す方向で話をまとめたい。


「両親が亡くなる時に、託された魔法書があったのよ。誰にも見せるなと言われていたそれは、隠し文字が仕込まれていてね。そこに全てが書かれていたの」


 メディオラの両親は、没落の一途を辿るチューベローズ家の再興を夢見ていた。


 一族はあまり恩寵に恵まれず、特に祖父母の世代では恩寵を持って生まれたのは一人だけだった。そのため、あの家の魔女は只人と変わらぬなどという誹りを受けるような有様だったので、祖父である当時のチューベローズ当主は、大金を支払って優れた恩寵を持つ者を輩出する家から嫁を娶った。

 生まれてくる子に家名の存続の期待を込めて、祖父母は新たな魔女の誕生を待ちわびていた。


 ところが、メディオラの母は酷い難産で、結果生まれてきた赤子は息をしていなかった。

追い打ちをかけるように、難産のせいで祖母は出産後に生死の境をさまよい、なんとか回復した時にはもう、新たに子を孕むのは難しい体になってしまっていた。

嫁を娶るために家の財産をほとんど失ってしまったため、もう子が望めないとなればチューベローズ家の断絶は決まったも同然である。


家の断絶の危機に陥った両親が、禁忌に手を染めた。


「チューベローズ家には、過去に封印された禁術が保管されていたの。まだ魔女協会が設立される遥か昔、呪術師と魔女の境界が曖昧だった時代に、反魂術をおこなっていた家系だったのよ。生贄を必要とする非人道的な術であるから、表沙汰になれば一族全て討伐されてしまう。だからずっと秘密裏に依頼を受けていたそうよ」


 それも、魔女協会の設立とともに完全に封印され、その存在は完全に闇に葬られたはずだった。だが秘術は本家の長子に、隠し文字で書き記された魔法書が引き継がれ続けてきた。

 メディオラの父はその隠し文字を読み解き、封印されていた反魂術を試みたのであった。


 ――――そうして生きかえった子が、大魔女メディオラである。





 かすれた声で過去を語り終えたメディオラが口を閉じると、静寂だけがその場を支配する。一族が過去、禁術を使い生計を立てる一族だったという事実も、尊敬する母が禁忌の子であったことも、衝撃的すぎて受け入れられない。


 アメリアもまたショックを受けていたが、ヘルハウンドが『あれは死者だ』と言っていた意味が繋がったことで、答え合わせをしているように感じて、他の兄姉たちよりも落ち着いていた。


「なぜ……その事実を、私たち全員に聞かせたのですか?」


 頭を占めていた疑問が、アメリアの口からこぼれる。

静まり返った部屋で、アメリアのつぶやきはよく響いた。祖先の悪事を葬ることに罪悪感を覚えたにしても、家から除名したアメリアにまでもこの事実を告げてしまうのはおかしいと感じる。


「ああ、あなたアメリアね。そう、私ねえあなたのことを誤解していたのよ。恩寵を持たず魔法の才能が全くない子が生まれてしまったから、使い道がないと思い込んでいたの。でもね、こうなってみて、ようやくあなたが生まれた意味が理解できたのよ。あなたは私のために生まれた子なんだって」


 母の言葉を受けて、喜ぶべきかと一瞬気持ちが高揚する。

もしかして、母はアメリアを愛していたと気付いたという告白なのかと期待しそうになったが、母の目を見て淡い期待は霧散していった。


 アメリアを、動き回る虫を観察するような冷たい目で見ている。どうやって足を動かすのか、どんな形態をしているのか、しっかりと確かめるような、そんな目で。



「私が、どう、メディオラ様のためになるのですか……?」

「そのままの意味よ。もちろん、他の子どもたちも私のためになるのよ。ひとりひとり、私の恩寵をひとつずつ受け継いだのは、全て私のためだったとようやく気が付いたの。良かったわ、あなたたちを産んで」


 にこり、と笑う母の頬に、ピシリとひび割れが走る。

 言っている意味も分からない。ただ異様な空気がこの場を支配している。

 先ほどから長兄が何も言葉を発しなくなったと気が付いて、ふと目線を送ると、モノリスは焦点の合わない目でゆらゆらと頭を揺らしていた。


「……えっ!?」


 驚いて他の兄姉たちを見回すと、彼らもまたぼんやりと天を仰いでいたりよだれを垂らして今にも倒れそうになっていたり、誰も正気ではない姿をさらしていて、驚いたアメリアが声をあげると、それをきっかけに次々と椅子から崩れ落ちていった。


「えっ!? な、ど、どうしたんですか!? 兄さんたち!」


 ガタリと椅子を倒して立ち上がると、メディオラが『あら?』と言いながら小首をかしげる。


「やあね。あなたお茶を飲まなかったの? せっかく良い茶葉を使ってあげたのに」


 ハッとして皆のティーカップを見ると、ほとんど飲み干されている。


「ま、まさか……お茶に毒を盛ったんですか……?」

「毒じゃないわよ。ただ良い夢が見られるお薬よ。害はないわ」


 床に崩れ落ちた兄を、そばに控えていた執事が表情一つ変えず引き摺ってどこかへと運んで行く。


 ――――逃げなくては。今すぐここから逃げなくてはいけない。

 

執事の目がアメリアに向いた瞬間、弾かれたように走り出し、部屋の扉から逃げ出そうと手を伸ばす。

 だが手が届く前に、メディオラから放たれ拘束魔法がアメリアの体を封じた。


「きゃあ! ぐっ……」


 魔法のロープに息もできないほどきつく締め上げられ、苦しさからうめき声をあげる。




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