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騙された感が強い

 

 どんなに見た目が可愛くとも、ヒトと同じ見た目をしていても魔物は魔物。

 怪異と関わってはならないと、大人たちは子どもが小さい頃から何度となく言い聞かせる。それはひとえに魔物が危険な存在だからに他ならない。


 性善説を唱える人なら、『魔物のなかにも良い魔物がいるかもしれないじゃない』などとのたまうかもしれない。実際そのような考えの人間も一部存在するが、そもそも人の理から外れた存在に、人が考えた善悪のカテゴリを押し付けること自体間違っている。


 あちらはあちらで生まれ持った行動原理に従い存在しているのだから、歌を聞いただけで命を盗られる、なんてことになっても仕方がない。

 むしろ怪異と分かっていながら関わったのなら、死んでも本人が悪いと言われてしまうだろう。


 怪異とはそういう存在なのだから、魔物と人は、関わらないようにするしかない。

 そうやって昔から魔物に対する戒めを、人々は語り継いできたのである。


 もちろんアメリアもその教えを書物などから学んで知っていた。

 だからどんな怪異に遭遇しても関わらないつもりだったのに、間違えてついうっかり魔物を助けてしまったのが、全ての事の始まりだった。


 魔女の血を引くアメリアは、魔物や悪霊などの怪異を見分ける力がある。


 人に化けているものや、影に潜んでいるものでも、だいたい見つけられるくらいの自信があったが、ある時魔物と見抜けず、小さな生き物を助けてしまった。それが妖精のピクシーだ。


 ピクシーと出会ったのは、アメリアが薬草を探して森の中を歩いていた時だった。

 そこで虫取りをして遊んでいる子どもたちに出会ったのだが、やんちゃというよりは悪ガキ風の子どもたちは、捕まえた虫を入れた籠を振り回して乱暴に扱っていた。

 そんなに振り回したら危ない……とハラハラして見ていたら、案の定捕まえた蝶々が動かなくなったようで、棒で突いてみようなどと言い出す声が聞こえ、たまらず声をかけた。


「ちょ、ちょっと君ら……そんなにいじくったら、虫は死んじゃうよ……」


 突然挙動不審な女が話しかけてきて子どもたちはものすごく嫌な顔をしていたが、籠の中を覗くと案の定羽がボロボロになった蝶々が籠の底に落ちて動かなくなっている。


 さすがに見て見ぬふりはできず、死んだ死んだと騒ぐ悪ガキに小遣いをやってアメリアが蝶々をもらい受けた。

 死んでいたら埋めてやるかと思っていたのだが、しばらく様子を見ていたら羽を動かし始めたので、花が咲いている原っぱで逃がしてやった。


 そんなことがあったのすら忘れかけていた頃、アメリアの家にその逃がした蝶々が訪ねてきた。

 いや、正確には、妖精ピクシーが『ワタクシ先日あなたに助けて頂いた蝶々です』と名乗って現れたのだから、アメリアは目玉が飛び出るほど驚いた。


 わざわざアメリアを探して訪ねてきた魔物の意図がつかめず、はあどうも……と間抜けな返事を返すと、ピクシーはなんと恩返しに参りましたと言い出した。

 はあ? と理解が追い付かず茫然としていると、ピクシーはじゃあお邪魔しますと可愛い声音とは真逆の押しの強さで家に上がり込んできた。


 慌てて追いかけて、いや結構ですと魔物に向かって言いかけたところ、小さくて可愛いピクシーが突然人間の姿に変化したので、驚きすぎてもう何も言えなくなってしまった。

 人化できるような力のある魔物をやっつけることなど、出来損ないのアメリアにできるわけがない。


「あらやだ! 散らかった部屋ねえ! じゃあまず掃除から始めるわね! ホラそこどいて。あなたはそこでお茶でも飲んでいて!」

「え? え? ヤダなにこの魔物怖い……」


 持参したエプロンをつけてさっさと家の掃除を始める魔物に、アメリアは部屋の隅で怯えているしかできなかった。


 ちなみにピクシーの家事能力は完璧で、散らかり放題の部屋があっという間にピカピカになった。魔物が家事能力高いとか意味が分からない。


 なんだか全ての状況が意味不明で、茫然としているあいだに、結局ピクシーはそのまま居ついてしまった。


 謎の魔物に住みつかれて、こんな迷惑なエンカウントは人生で一度きりで充分だと思っていたのに、その出会いは一度に留まらなかったのである。



 ピクシーの次に出会った魔物が、サラマンダーだった。


 小川でおぼれかけているトカゲがいたので、何の気なしにひょいと摘まみあげて地面にポイっと投げた。

 ひっくり返っていたので死んだかなーと指でつんつんと突いてみたら、水を吐いて起き上がったので、そのまま放置してアメリアは家に帰ったのだが……。




「先日お前に助けてもらったサラマンダーだ」


「…………ぎゃあああ!?」


 玄関を開けたら真っ赤なドラゴンもどきが鎮座していたので、力の限り叫んでしまった。


「危うく死ぬところを助けてもらったからな、恩返しにきた」


 溺れていたトカゲはどうやら弱って死にかけていたサラマンダーだったらしい。

 俺の恩返しを有難く受けるがいい、とサラマンダーは居丈高に言い放って、家の中に入ろうとしてくる。だが子牛くらいあるドラゴンもどきが入れるような大きい家ではない。

 サイズ的に無理だから帰ってくれと言うと、なんと出会った時の小さなトカゲ姿に変化して、ささささっと家に入り込んできてしまった。


 壁を伝って歩くサラマンダーは、さながらヤモリのようで、すぐにどこに行ったか分からなくなる。


「うわ……! 入り込まれた……! ちょ、どうしよう。殺虫剤でいいのかな!?」

「アメリア、サラマンダーは殺虫剤で死なないわよ。というか殺しちゃダメじゃない」

「イヤ、出て行かせようと……」


 ピクシーに注意されて、確かに殺虫剤はよろしくないと思い直し、見つけ次第出て行ってもらおうと家具の隙間や床を探して回っていたのだが、どこを探しても見つからない。

 数日さがしたがどこにもいないので、もしかして出て行ったのかもなんて考えていたところ、いつのまにかピクシーと交流を深めたサラマンダーが、ある日の朝台所で仲良く働いていたのでめまいがした。


 彼はピクシーによって勝手に我が家のかまどの火や風呂の沸かし係として採用されていたのである。


「いやいや出て行ってもらってよ」

「ええ~でもここ最近部屋があったかいのも、竈の面倒な火おこしも全部サラマンダーがやってくれてるのよぉ? お世話になってるのに追い出すの~?」

「そうなの!? どうりであったかいと思った!」


 毎日一生懸命働いてくれているのに、その言い方はちょっと優しくない……と窘められ、逆にアメリアが『気が付かずにすみません』と謝る流れになってしまった。


 そんなこんなで出ていく話はうやむやになってしまい、それ以来サラマンダーも普通にアメリアの家で暮らしている。


 魔物の居候が二匹に増えただけでも大問題なのに、魔物との出会いはこれだけに留まらなかった。




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