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恩返し勢が帰ってくれない  作者: エイ


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使い魔契約

 

 こうなってしまっては、丸腰で実家を訪れるなんてできない。魔女としても出来損ないの自分が使い魔を持つなんて想像もしていなかったけれど、魔物たちが望んで言ってくれているのだから、契約してしまおうとアメリアの腹は決まった。


「皆には申し訳ないけど、使い魔契約お願いしたい……です」


 全員が頷いたので、皆とアメリアは契約することになった。

 使い魔を四体も従えている魔女なんて前代未聞だ。それが出来損ないの自分であるのだから、なんだか笑えてくる。


「じゃあ契約はアメリアと付き合いが一番長いアタシからね。さ、手を出して」


 一応主従になるはずなのだが、イニシアチブをピクシーのほうが握って契約を進めることに若干の疑問を覚えながらも、色々な情報で混乱していたアメリアは言われるがまま準備に入る。

 契約は、お互いの血を交わしながら主従を結ぶと誓うと成立する。ナイフで切り込みを入れた親指を合わせ、二人同時に、それぞれの言葉で誓いを述べる。


「私はピクシーと使い魔契約を結ぶとここに誓います」

「アタシはアメリアと命をつないで生涯あなたのそばにいると誓うわ。対価はその魔力で」


 お互い合意の契約であればどんな文言でもよいのだが、ピクシーの命だの生涯だのと割と重めの文言が入っていたような気がして『えっ?』と戸惑ったが、次の瞬間には血が契約紋となって腕に刻まれて契約は成立してしまった。


「あ、あの、そんな一生仕えてほしいとか思ってないから……もっと軽い感じで……」


 使い魔契約についてほとんど知識がないため、ピクシーに主導されるかたちで契約を交わしたが、本当にこんな文言でいいのかよく分からず戸惑う。


「おー、じゃあ次は俺だな。俺も『一生お前に尽くしてやる』ぜ。あ、対価は魔力で」

「じゃあ次僕も! 僕は『死が二人を分かつまで、僕を可愛がってね♡』ってことで。もちろん対価は魔力で」

「では俺も……『ヘルハウンドは死んでもあなたのお傍に付き従います』魔力はちょこっとでよろしいので対価としてお願いします」


 次々に指を重ねられ、アメリアは目を白黒させていたが、早く誓ってよと急かされ、考える暇もなく『誓います……』と契約を口にしてしまう。あっという間に契約紋が刻まれた後で、はたと我に返る。


「ちょっと待って。皆対価に魔力をって言うけど、私魔法もロクに使えないんだから魔力なんてほとんどないよ!? 皆が対価として持ってちゃったら、私死ぬんじゃない!?」


 アメリアが焦ってどうしようと騒ぐが、魔物たちはそれぞれ誤魔化すように目線を逸らす。


「あー……大丈夫よ。対価って言っても契約上のものだから……」

「そんなにもらうわけじゃねえからアメリアにはなんの影響もないから心配すんなって」

「うんうん、ほんのちょっとだよ。大丈夫」

「そうそう、ちょこっとですから何の問題もないです」


 なんだか妙に言い訳がましい様子の魔物たちに、なにか不審なものを感じて、じーっと彼らを見つめるが、ピクシーが今後のことを考えなきゃと話題を変えたため、そのことは問い詰める前に話が終わってしまった。


「ともかく、七日後の実家訪問に備えましょう。使い魔を四匹も引き連れていたら、いくらなんでも不自然だから、誰か一人がアメリアについて行くしかないんじゃないかしら」

「ほかは近くで待機するにしても……誰がついて行く?」


 サラマンダーの問いに、うーんと皆が頭を悩ませる。何かあったら一番近くにいる者がアメリアを連れて脱出する事態になることも想定しなければならない。

 それが最適な者が誰かを考えた時、やはり危機を予知できるケット・シーが一番なのではないかという結論になる。

 けれど、当の本人がそれに難色を示した。




「未来を告げるケット・シーは権力者や魔女たちがこぞって欲しがる魔物なんだよ。その僕を連れて魔女の巣窟に行くのはむしろ危険だと思う。アメリアを殺して僕を奪おうとする奴だっているかもしれない」


 確かに、ケット・シーは伝承や歴史書にも時々載っているような有名な魔物である。魔女がそれを使い魔にできたのなら、力を使って一気に成り上がることもできるだろう。


「そうだな。じゃあ俺が行こう。何かあれば火炎で全員焼き尽くして脱出すればいい」


 元の姿になるだけで簡単に屋敷くらいぶっ壊せるとサラマンダーは胸を張るが、最初からぶっ壊す前提で来るような使い魔では危なくて連れていけない。全員一致でサラマンダーは却下となった。


「じゃあアタシかヘルハウンドだけど……」


 ピクシーが言いかけた時、ヘルハウンドが『自分に行かせてほしい』と手(前足)を上げた。


「あの死臭が何処から来るのか、なにが原因なのか俺が行けば少しは分かることがあるかもしれないです。俺は影に入ることもできますし、危険な時はアメリアさんを背負ってにげることもできます」


 なるほど、と全員が納得する。死臭をかぎ分けられるのがヘルハウンドだけなのだから、屋敷内につきそうのは彼が適任であろう。


「じゃあ、ヘルハウンドはただの犬に擬態してついて行ってね。アタシたちも魔女集落の結界外で待機して待ちましょう。当日までにまだ時間があるし、皆で手分けしてできるだけ情報収集してみましょう」


 チューベローズ家の噂とか最近の様子など聞き込みしようとピクシーが言ったところでひとまず話し合いは終わった。


 ***


 ケット・シーやピクシーは市井に詳しく、他の魔物にも多少交流があるため、聞き込みはこの二人がメインでおこなったが、目立った成果はあげられなかった。

 そもそも魔女は独自のコミュニティで生活しており、只人は魔女の村に立ち入ることが難しい。秘密主義の魔女の噂を知っている者はほとんどいなかった。


 だが、魔女たちの動向を警戒している魔物たちからは、アメリアの兄姉たちの家督争いが激化していることや、家長のメディオラが最近はほとんど姿を見せないことなどの話を聞くことができた。


 兄姉間の諍いやメディオラの体調不良も本当の話のようだと分かっただけでも収穫だっただろう。母の見舞いに来いと言う兄の言葉も嘘ではないようだ。


「メディオラ様が具合悪いってのは本当だとしても、それで私に会いたがるっていうのはどうも納得できないんだよね。私、屋敷にいた頃メディオラ様とは数えるほどしか話したことないくらいだし……これまで全く興味がなかった私に会いたい理由が見つからない」


 訪問日が迫る中、聞き込んだ情報をアメリアに報告したが、やっぱり見舞いに呼ばれるのが不自然に感じると言った。母と呼びかける機会は終ぞなく、屋敷にいた頃は、メディオラを『様』と敬称をつけるように言われていたというから、そのエピソードだけでも母子の絆などなかったのだろうと推察できる。



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