(24)肉蠅と、息子たち
マルド商会の息子たちは、埋葬虫が次々と肉蠅を倒していくのを、呆然と眺めていた。
「なんだよ、肉蠅って…」
「親父のやつ、何考えてんだ…」
「なあ、母さんたちがいなくなったのって、まさか大っきい兄貴みたいに…」
末の息子らしい男が、暗い想像を口にしかけた時。
「ぢゅん!」
──そこじゃあ!!
息子たちの足元に、大人の握り拳ほどもある銀色の蠅が、ぼたりと落ちた。
「うわっ」
息子たちが思わず飛びのくと、腹が破れて死にかけている肉蠅から、ジジジジジと、ぜんまい仕掛けの玩具のような音がして、もわりと黒い煙が立ち上った。
「おい、なんだこれ、腹の傷が塞がっていくぞ」
次男らしい息子が肉蠅に近づこうとするのを、スカーレットが鋭い声で静止した。
「その煙に触れないで! 命を吸われるわよ! 虚しき傀儡の虫たちよ、我が硝子の柩にて永遠の安らぎを得よ!」
地面のあちこちに散らばっていた肉蠅の死骸が、スカーレットの詠唱に吸い込まれるように飛んできて、手元の毒瓶に納まった。
「肉体再生の呪術まで仕込まれているようね。ほんと、嫌な呪いだわ」
「呪い…?」
戸惑うような声をあげたマルドの次兄に、スカーレットは容赦なく事実を告げた。
「そうよ。あなたがたの家系は、ある人物によって、先祖代々呪われていたの」
「家系が代々って、親父だけじゃないのか」
「残念ながら、家族全員が呪いの対象なのよ。いま行方不明になっているのは、母親と姉妹で間違いない?」
「ああ、妹のミルザだ」
「あなた方の祖母や叔母は?」
「祖母は、俺らが生まれる前に、死んだって聞いてる。叔母は、どうだったかな…」
次男の問いかけに三男が答えた。
「親父の姉って人は、他国に嫁いだあと連絡がなくなって、そのまま縁が切れたって聞いたことがある。まさかみんな……母さんたちも…」
「マルド家の女性たちは、肉蠅にやられた可能性が高いわね」
「ちくしょう…親父のヤツ、ぶっ飛ばしてやる!」
四男がいきり立って家の中に戻ろうとするのを、長男が羽交締めにして止めた。
「ボー、落ち着け! 親父は呪いのせいでおかしくなってるんだ。そうだろ先生!?」
「そうよ。それに、お母さんたちは、まだ死んだと決まったわけじゃないわ」
「嘘だ! この糞ヤブ医者! 十日も息が止まって助かる奴なんか、いるもんか!」
スカーレットは、暴言を吐いた四男の頭頂に電撃付きの手刀をかました。
「ふぎゃっ!!」
「いいから落ち着いて話を聞きなさい。同じ呪いで何年も行方不明になってた人が、無事に救出された事例もあるの。十日なら、間に合う可能性のほうが高いのよ」
「先生、こいつ、白目剥いてて聞いてないぜ…」
「あら、そう? 仕方ないわね」
スカーレットは無詠唱で冷水を出して、四男の顔にザバリとかけた。
「ぶはっ!」
「起きたわね」
「容赦ねえな、先生…」
次男が呆れたように言うのを聞き流して、スカーレットは四男に話しかけた。
「君の名前はボーっていうの?」
「あ、ああ」
一度気絶したせいか、四男はすっかり毒気を抜かれた様子だった。
「で、話の続きだけど、一刻も早く呪いを解いて、お母さんたちを助けるためには、あなたたちにも動いてもらう必要があるのよ」




