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災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい  作者: ねこたまりん
ヴィヴィアンの恋と革命
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(8)毒麦と蛇

 ノラサブが門前で不審者とやり合っていた頃。


 警備担当のノラオと、清掃班のノラジは、地下工房ヒュポゲウムの一つ上の階の廊下で、話をしていた。


「さっきから、妙な気配があるんじゃが、正体がつかめんぞい」


「気配ばかりではないぞ。掃き清めたはずの場所に、ゴミが戻っておる。ほれ」


 ノラジは、足元の細長い枯れ草を指差した。


 ノラオは腰を屈め、枯れ草に触れずに、枯れ草を観察した。


「毒麦じゃな。お屋敷の庭に生えていたものが、紛れ込んだか?」


「だとしても、戻ってくるというのはおかしいぞい」


「先に掃き清めた草はどうした?」


「ほれ、そこのゴミ袋に詰めてある」


 ノラジの指差した先には、枯れ草の詰まった大きな布袋があった。


「全部、毒麦のようじゃな…ん?」


 何かの気配を感じたノラオが後ろを振り返ると、枯れた毒麦の束が、ぱさりと音を立てて、足元に落ちてきた。


「風で飛んできておるわけではなさそうじゃの」


 ノラオは毒麦に触れないように、足を引いた。


「親父殿よ、毒麦は、自力で転移の魔術を使えたかの?」


「魔力の高い魔草の変異種であれば、種子が自ら根付きたい土地に転移することもあると聞くが、家の中には飛んでこんじゃろ」


 ぱさり、ぱさりと、枯れた毒麦が宙に現れては落ちてくる。


「だんだんと、落ちる量が増えてきておるのう」


「毒麦の変異種には、空気を汚す毒を持つものもあったはずじゃ。これは、赤い姐御様の先読みにつながる事件やもしれぬな」


 ノラオの言葉に、ノラジも深く頷いた。


「お仕事中の姫様を煩わせるのは気が引けるが、ここは『ホウ・レン・ソウ』の出番じゃの」


──お館様には、私からお伝えいたしましょう。


「おおリラ殿、頼むぞい。わしは奇妙な気配の出どころを、もう少し探ってみるとしよう。どうも一つ上の階が気になるので、送ってくれぬか」


──分かりました。


 ノラオが地下三階に転移した途端、大量の毒麦がドサドサと落ちてきた。


「急に遠慮が無くなったのう。リラ殿よ、他の階はどうなっとる?」


──枯れ草が落ちてきているのは、いまのところ、この地下四階の廊下だけです。


「いままでにも、このようなことはあったのかの?」


──ええ。枯れた毒麦は初めてですが、不慮の贈り物は、よく届くのです。悪意のあるものは、我がお館様の鍵の術式で、私の中には決して入れないのですが…


 ノラジは次々と落ちてくる毒麦の束を、大きなほうきで廊下の端に掃き寄せながら言った。


「つまり、この毒麦を送りつけている者がいたとしても、その者には悪意がないのじゃな」


──そういうことになります。けれども、悪意なく送られてきたものが、私たちの大切なお館様に、害をなさないという保証はないのです。なのに私では、これを防ぐことができません。


 リラの声が、無念そうに震えていた。


「たとえ善意であったとしても、これはだいぶ押しつけがましい相手だろうのう」


 毒麦は、もはや途切れることなく廊下に降り注いでいた。


「あまりやりたくはないが、ここはわしの奥義の出番かの」


 ノラジはほうきを剣のよう持って中段に構え、詠唱した。


「わしの持ち場に無断で降り注がんとするものどもよ、その身を一つに纏めて、悪意なきことを姿で示せ」


 ぶわりと、熱のこもった風が駆け抜けたかと思うと、廊下に堆積していた毒麦が、丸太のような形にまとまり、ノラジの前でとぐろを巻いた。


「ああ、やってもうたわ…」


──ノラジ様、これは一体…


「おそらくは、蛇ではないかと思うぞい。どうもわしの魔術は、ちっちゃくて可愛げのあるものを拵えるのが苦手での…」


──いえ、蛇であれば、お館様はお気に召すと思いますよ。


 毒麦の大蛇は、鎌首をノラジに寄せると、ぱっくりと口をあけて、愛想よく笑ってみせた。


「可愛げは、ありそうじゃの」


──毒性なども、なさそうですよ。


「しかし、これをどうしたものかのう」


──ここに住むのであれば、まずはお館様に、お名前をつけていただかねば。


 毒麦の大蛇は、リラの言葉を聞いて、こくこくと頷いている。どうやら一緒に住みたいらしい。


「うむ。なんにせよ、『ホウ・レン・ソウ』じゃの。リラ殿、わしを蛇と一緒に姫様の所へ送ってくれんか」


──了解です。


 ノラジと大蛇の姿か、地下四階の廊下から、ふっと消えた。


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