(6)石選びと、招かざる客
「あ、でも、材料にする石がないな」
「石なら、いろいろあるよ」
ヴィヴィアンは、帆布カバンに手を突っ込むと、握り拳ほどの石を何個か取り出した。
「お、いい感じの石だな。どうしたんだ、これ」
「ずっと前、花壇で邪魔にされてたから、もらってきた」
作業台に並べられた石たちは、濃い灰色で、表面はでこぼこだったけれど、ところどころに光る粒が見えていた。
「たぶんこいつら、磨くとすげーきれいになると思うぜ」
ノラゴはうれしそうに石を手に取った。
「何か道具はいる?」
「必要ないぜ。俺、弱いけど、成形の魔術ってのを使えるんだ」
「そうなんだ。すごいな」
「よし、作るぞ! 作業台の端っこ、貸してくれ」
「うん。私も始める。お茶の時間まで、頑張ろう」
「おー!」
ヴィヴィアンたちが地下工房ヒュポゲウムで張り切っていた頃。
園芸担当のノラサブが、屋敷の門で不審者たちに絡まれていた。
「おい、そこの下男」
「何か御用ですかな」
「ここの家の者に用がある。呼んでこい」
偉そうな口調で指示を出す親玉の背後に、ゴツい体つきの男たちが四人控えている。
「はあ、どちら様で」
「下男に名乗る名前などない」
ノラサブは、昨夜ヴィヴィアンに教えられたことを思い出していた。
『魔術の鍵で、悪い奴はうちの中に入れないようにしてあるんだけど、それでもいろいろあるから』
(さっそく『いろいろ』が来たのじゃな。姫様のためにも、サクッと追い返さねばの)
「お名前のない方を、主に合わせるわけにはいきませんなあ」
「なんだと!」
憤った親玉は、門から庭に入り込もうとしたけれども、見えない硬い壁にガツンと阻まれて、一歩も踏み込めなかった。
「くっ……魔術障壁か。さっさと術式を解いて、中に案内しろ」
「できませんなあ。そこから入れないということは、主には御用のない方でありましょうから、どうぞ、そのままお帰りを」
「ふんっ! 下男風情が勝手なことを言っておると、主ともども困ったことになるぞ!」
「はて、どう困りますのやら」
成人前の少年にしか見えないノラサブに、のほほんとした口調であしらわれた親玉は、頭の血管がキレそうな顔で、手下たちに指示した。
「お前たち、やってしまえ!」
手下たちは口々に詠唱して魔術を放ったが、すべて門を通り抜けられずに跳ね返されてしまった。
「くそ! 次に来た時には、ただでは済まさんからな!」
不審者の親玉は、安っぽい捨て台詞を吐くと、手下を連れて去っていった。
彼らの背後を、埋葬虫の姿に戻ったノラヨが、音もなく追尾していった。
それを見送ったノラサブは、花壇の仕事に戻ることにした。
「朝っぱらから、あのような者どもが押しかけてくるのであれば、門のそばに植える花々にも、ちと工夫が必要だのう」
ノラサブのポケットに入っていた番たちも、同意するようにぴょんぴょん飛び跳ねた。
「魔樹大森林の食人桃、死歌の邪草、百蛇蔦、あとは大王ヒナゲシあたりの苗を、昔馴染みの妖魔の店に発注するかの」
だいたいの方針を決めたノラサブは、門のそばに立てかけてあった鍬を手に持ち、花壇に向かった。
「お昼休みにでも、姫様にご相談もうしあげようぞ」
【こぼれ話】
ノラサブの馴染の妖魔の店がある魔樹大森林には、「惨歌の蛮姫サラ・ブラックネルブは、普通に歌って暮らしたい」に出てくるヒギンズ教授の研究所が建っていたりします。




