(3)朝の会と、家訓
みんなが朝食を食べ終わると、タバサが謎茶を入れてくれた。
「改めて、今日からよろしく」
「仕事始めですじゃ。はりきりますぞ」
最年長のノラオが言うと、クロシデムシ一門は揃って頷いた。
「オラも家事をがんばりますだ。ビビ様に悪さするもんが来ても、全部叩きだすべ」
タバサの腰ベルトでは、鋼鉄の布団叩きが渋い光を放っていた。
「今日の予定と、注意事項を話すね。私はこれから、地下に壺工房を作って、そこで壺をたくさん作る仕事をするんだけど、スカーレットに一人にならないように言われてるから、作業の間、誰か一緒に工房にいてほしい」
従者服を着たノラゴが名乗りを上げた。
「俺はずっとあるじのそばにいる。親父たちはどうする?」
動きやすそうな黒服に軽鎧を着けたノラオが、まず答えた。
「警備担当のワシは、今日は玄関から地下を中心に見回るかの。姫様の近くにおるようにするぞい」
灰色の作業服を着たノラジも、ノラオと同じ考えのようだった。
「清掃担当も、今日は姫様のおられる地下を磨き上げるとしよう。お屋敷と相談しながら、廊下の飾り付けなどもしてみようぞ」
「うん。よろしくね」
緑色のつなぎ服を着たノラサブは、園芸担当のようだった。
「ワシは番たちと一緒に、姫様がお好きな花や木などを植えたいと思うんじゃが、ご希望はありますかな」
「できれば、いろんな種類の草木があるといいな。綺麗な花はもちろん、美味しい実がなるのとか、薬になるようなのもあると嬉しい」
「わかりましたじゃ。草花は番たちが詳しいので、いろいろ取り揃えてみましょうぞ」
「うん。楽しみにしてる」
カッチリとした外出着に身を固めているノラヨは、諜報担当だという。
「わしは、ちと近所の様子を探ってみるつもりじゃよ。昨日の騒ぎの影響なども、気になるしの」
「うん」
予定がだいたい決まったので、ヴィヴィアンは、注意事項について話すことにした。
「あのね、スカーレットの先読みで、今日、うちで何かが起きることは分かってるんだけど、どんなことが起きるのかは、直前にならないと分からないみたいなんだ」
「何か、悪さするもんが来るだか?」
タバサはすでに布団叩き二本を両手に持って、構えている。
「分からない。ただ、スカーレットの先読みは、大ごとにつながることがほとんどだから、それなりに覚悟して待たなくちゃいけないと思う」
「もしかして、昨日のことも先読みで言われてたのか?」
「うん。『なーんか、もやっとする』って言ってた」
「『もやっと』で、あの騒ぎかよ…」
ノラゴの顔も、険しくなった。
「何があるか分からないけど、みんな一緒なら、きっと大丈夫だと思う。『ホウ・レン・ソウ』の精神で、一日を乗り切ろう。何が少しでも気になることがあったら、連絡し合おう」
ヴィヴィアンが口にした異世界格言に、タバサが強く反応した。
「ホウレンソウ! なつかしいだ。オラが生まれたガゼル家の家訓だっただよ」
「報復・連帯責任・葬送行進曲の略だよね」
「んだ! 悪さする奴が来たら、皆で力合わせてボッコボコにして葬るだよ」
「それはぜひとも、我がクロシデムシ一門の家訓にもしたいですじゃ」
ノラオの言葉に、埋葬虫組が頷いた。
イルザ・サポゲニンの著作での解釈とは少し違っているのにヴィヴィアンは気づいたけれど、皆が力強く盛り上がっているので、指摘するのはやめておいた。
(うちの家訓としては、タバサの解釈のほうが合ってるものね)




