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災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい  作者: ねこたまりん
ヴィヴィアンの婚約
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ヴィヴィアンは恋と革命の壺を作った

 ヴィヴィアンが薬壺の製造元の生存に気づいたのは、病室で、藪から棒人間を出す直前のことだった。


「トンチキ壺を揺すったりひっくり返したりすると、壺から流れ出てたエネルギーが逆流して、タバサの声が聞こえるようになったんだ。それで、壺はエネルギーを送り出す中継点だって気がついた」


「それってつまり、逆流したエネルギーがタバサに行き渡って、声を出せるようになったってこと?」


「うん。トンチキ壺の元締めは、エネルギーを自分に送らせて、どこかで生きてると思う。この壺からも、少なくはなってるけど、まだエネルギーが流れ出てるよ」


 スカーレットは、薬壺の周囲を慎重にサーチして、呪いの気配を探したけれども、感知することはできなかった。


「呪術系の吸魔ではないみたいね。どういう仕組みなのかしら」


「『お前の物は俺の物。俺の物は俺の物』」


「は?」


「薬壺の中に、変な術式があるんだけど、その中に、そう書いてある」


「あー、そりゃハンニバル・グリッドの口癖だ。人の物を掻っ攫っていくときに、必ずそれを言うんだ。言われると、盗られたものが目の前にあっても、なんでだか取り返せなくなっちまうんだ。それで泣き寝入りした人間は数知れねえ」


「口癖か…呪いじゃないなら、魔術なのかしら」


「よく分からない。固有魔法なのかも」


「それにしても、つくづく最低な人間だわね、ハンニバル・グリッド。なんだか私もぶっ飛ばしたくなってきたわ…」


「みんなでぶっ飛ばそう」


 三人の心は一つになった。


「それでヴィヴィアン、ハンニバル・グリッドの居場所はたどれそうなの?」


「難しい。いるのは分かるんだけど、捕捉しようとすると、どこにもいなくなる」


「んだ。あいつは屁のような奴なんだ。臭ってても、捕まえらんねえだ」


「とりあえず、手詰まりってことね…」


 けれどもヴィヴィアンは、もう一つ、藪から出せる棒人間を見つけていた。


「大丈夫、手詰まりにはならないよ」


「どうするの?」


「トンチキ壺の複製を作って、世にばら撒く」


「なんですって?」


「簡易型の治療器を、トンチキ壺の仕様に近いものにする。で、壺に恋と革命を詰め込んでもらって、それをハンニバル・グリッドに送りつける」


「ごめんヴィヴィアン、何も分からないわ…」


「うん。理解には、実演あるのみだよね」


 ヴィヴィアンは、帆布カバンの中から、ガラクタを色々と取り出して、大テーブルに並べた。


「離婚した夫婦の結婚指輪、夫婦喧嘩で割れたガラス窓の破片、彼女にビンタされた男の人が落としていった女物の下着」


「また、おかしなものを拾い集めてたのね…」


「こんなこともあろうか思って、ずっと取っておいた在庫を、使う日がやってきた」


 感慨深げに語るヴィヴィアンを、タバサが尊敬の眼差しで見つめた。


「雇い主様は、そったらものでも宝物に替えなさるだな」


「うん。うちのモットーは、『巷間に捨てるものなし』だよ。『早まるな、その塵埃は、生きている』」


「心しますだ」


「ヴィヴィアン、それって『異世界格言集』じゃないわよね」


「いつか世に出るかもしれない『ウィステリア箴言集』から引用してみた。じゃ、作るよ」


 ヴィヴィアンは、ガラクタの前に立って詠唱した。


「我は願う、行き場を失いし恋の思いを内に籠め、()で尊び、限りなき力となして病を癒す、全き愛の壺を……色はピンクで」



 テーブルの上のガラクタが音もなく消え、代わりに、ショッキングピンクの壺が現れた。



「ハート型だわね…」


「めんこい壺だな」


「ラブリーを目指してみた」


「で、これをどう使うの?」


 ヴィヴィアンはピンク壺をタバサに渡した。


「蓋を開けて、大好きなもののことを、考えてみて」


「大好きなもの…食べものとかでも、いいだか?」


「うん」


「したら、握り飯……アーチボルド様と、森で食べた…」


 タバサの胸から、淡い桃色の煙のようなものが湧き出てきて、壺の口へ吸い込まれていった。


「うん、成功。あとは、日々その壺を愛でながら、自分の中にある辛い気持ちとか、追い出したい嫌な感情とか、身体具合の悪いところとかを、ピンク色の煙で包むことを想像するだけ」


「それって、メアリーの蛇鞭で『しばく』のと同じ感じ?」


「うん。あの鞭ほど強力じゃないし、人によって効果の差があるとは思うけど、病気の元になってる悪いものが、身体の中から徐々に消えていく効果が期待できる。そして、ハンニバル・グリッドに、『恋と革命』をセットで送り付ける」


「『恋と革命』がよく分からないけど、とにかくハンニバル・グリッドを捕捉しやすくなるわけね」


「ハンニバル・グリッドのような反社会的でダメすぎる存在は、真っ当な恋とは相容れないと私は見た。そして、自分が誰かを痛めつけて苦しめることは慣れてるけど、誰かに叛逆されたり、自分を変革されたりすることには、全然慣れてないはず。だから、ちょっと面白いことになると思う」


「分かったわ」


「じゃ、今日の仕事はこれでおしまいだね」


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