ヴィヴィアンは拳で復讐を誓った
「旦那さんはアーチボルド・セミグリッド、息子さんはギルベルド・セミグリッド」
泣きそうな顔なのに涙を落とさないタバサを見ながら、ヴィヴィアンは、心のメモ帳にその名を刻み込んだ。
「タバサ、息子さんの人生のことは、アーチバル・グリッドの一家が調べて、教えてくれると思う」
「アーチバル……昼間、会った人だべか」
「そうよ。あなた、壺から出て早々布団叩きで殴りかかってたけど、もしかしてハンニバル・グリッドに似てたのかしら」
タバサはぶんぶんと首を横に振った。
「いんや、少しも似てねえ。壺に入れられる直前、ハンニバルがオラの前に立ってたもんで、つい勢いで殴りかかっちまったんだども、悪いことしたなあ」
「ハンニバル・グリッドは、どんな感じの人だったのかしら」
「どんな感じ……むむむ」
「顔とか、髪の毛の色とか」
タバサは、テーブルの上のソーセージを睨みつけた。
「なんでだか、髪の色だの顔つきだのは思い出せねえんだが、やたらとソーセージ食ってたのだけは、覚えてるんだ。食い意地の汚え奴で、オラの手作りの特製ソーセージを、家から全部掻っ攫いやがってた」
「タバサ、ソーセージ作りが得意なんだ」
「んだ。雇い主様にも、虫っ子たちにも食べてもらいてえから、たくさん拵えるよ」
「うん。楽しみにしてる。だいぶ夜も遅いけど、あと少しだけ、聞かせてほしいことがある」
ヴィヴィアンは、愛用の帆布カバンから、薬壺を取り出して、大テーブルに置いた。
「このトンチキ壺を作ったのは、ハンニバル・グリッドなのかな」
「たぶん。そういう碌でもないもんを作って、あちこちの領主だの、金持ちの商人だのに売りつけるのが、あいつのなりわいみたいなもんだっただ」
「ハンニバル・グリッドが、どうしてトンチキ壺を作ったのかは、聞いている?」
「んー」
タバサはまたソーセージを睨みつけた。
「言われた覚えはあるども……聞いても意味が分からねえ話だったような気がするだ」
「呪いに女の人、奥さんとかを使うって話は、してなかった?」
「ああ、呪いに使ったかは分からねえだども、あいつが押し掛ける家では、時々女が消えるんだ。『女を盗れば、男は弱る』って言ってただな。みんな戯言だど聞き流してたけんども、オラは気分が悪かった」
「そっか……ハンニバル・グリッドは、旦那さんのアーチボルド・セミグリッドのことは、何か話してた?」
「『邪魔だから森に捨ててやった』って、嗤いながら言ってただ。あのクソ忌々しい面ぁ、なんとしても、一発ぶっ飛ばしてえ…」
タバサが腰の布団叩きを握りしめると、ヴィヴィアンも両手の拳を握り固めた。
「うん。見つけたら、その時は私も一緒にぶっ飛ばす。タバサの仇、メアリーの仇、私に婚約詐欺を働いた大元の仇」
「夫と息子と、息子の子どもらの分もだ……あの世の果てまでかっ飛ばすべ」
「あの世から何度戻ってきても、何度でもぶっ飛ばそう」
「オラの布団叩き技、目にもの見せてくれるだよ」
復讐を固く誓い合って暴走を始めそうな主従に、スカーレットは常識的な意見を試みた。
「だけどヴィヴィアン、タバサ。ハンニバル・グリッドは、もういないでしょう」
「いるよ」
「え!?」
「んだ。あいつはどっかにいる。クソ壺は、そのためのもんだべ」
「いるって、まさか…」
「壺の仕組みはオラにはさっぱり分からねえ。だども、あいつがいつまでもほっつき歩いていられんのは、人様から命を盗ってるからだべ」
「いつまでも……ハンニバル・グリッドは、不死者だというの?」
「たぶん、そう。スカーレット、トンチキ壺は、まだ他にもあるかもしれない」
「なんてこと…」




