ヴィヴィアンは失われていた系譜を把握した
その後の話は、グリッド家の悲劇の序章ともいうべきものだった。
「あいつはグリッドと名乗ってただが、公国の血筋とは何も関係のない奴だった。どっから来たのかも分からねえ。身内もなくて、公国を好き勝手にうろついて、ちょろちょろ引っ掻き回して遊んでただ」
「浮浪者みたいな感じかしら」
「浮浪者っつーか、大金持ちの放蕩人だな。素行はあんまし良くねえが、どこさ行っても気前よく金を落とすから、町のもんも大抵は大目に見てやってた。それが間違いのもとだったと、オラは思う」
ヴィヴィアンは疑問を口にした。
「ハンニバル・グリッドは、どうして大金持ちだったの?」
「あいつは、妙な知識をたくさん持ってたんだ。誰も知らねえ魔術とか、いろんな働きをする呪具の作り方を知ってて、それで気まぐれに稼いでた」
「そんなやつが、どうしてタバサたちの家に来たのかしら」
「最初は、セミグリッド様のお館で居食いをしてたんだども、オラたち夫婦に息子ができたって聞き齧ったらしくて、子を寄越せって言いに来たんだ」
「養子に欲しいってこと?」
「養子とは言わなかっただな。金出すから売れと。もちろん断った。三男坊様…夫はものすごく怒って、あいつを家から叩き出したんだども……次の日、狩りから帰って来なかった」
「旦那さん、どうなったの?」
「分からねえ。息子ば負ぶって、何日も森さ探しに行ったけども、なんも見つからなかった」
「……」
「実家にも相談して、セミグリッドのお館様にも知らせた。オラは、ハンニバル・グリッドが怪しいと思って、皆にそう話したんだ。んだども、いっくら話しても、誰も聞かねえんだ。気がついたら、家族も町の連中も、なんだか様子が変になっちまってた」
「呪いに心を支配されていた?」
「今思えば、そうだったんだろな。お館様もおかしかった。自分の三男坊が行方知れずなのに、毎日大喜びして、ハンニバル・グリッドをもてなしてた。それだけでなく、オラにハンニバル・グリッドと再婚しろとまで言い出しただ」
「……」
「だからオラは、息子を連れて逃げることにした。遠くで狩でもしながら暮らして、時が来たら夫を探しに戻るつもりで……んだけど、夜中に館から逃げ出そうと支度してたら、ハンニバル・グリッドに見つかって…」
「壺に囚われた…?」
「……オラを呪いの核にしてやるから有難がれって抜かし腐ったんだ。息子は引き取って、グリッドの跡取りに据えてやると。あんまり腹ぁ立ったから、逃げるよりもムカつく面ばぶっ潰してやるべって覚悟ば決めで、得物で殴りかかった…とこまでは覚えてる。あとは、闇の中だ」
ヴィヴィアンは、ここまで聞いた話から導かれる結論を口にした。
「タバサは、アーチバル・グリッドたちの祖先なんだね」
「そうね。セイモア・グリッドは、タバサによく似てるわ。ギル・グリッドやユアン・グリッドにも、面影がある。グリッド家の始祖は、ハンニバル・グリッドじゃなくて、タバサの息子なんだわ」
「オラの息子が、始祖?」
「ええ。あなたの息子の子孫たちが、ずっと長い歳月、あなたが閉じ込められていた薬壺の持ち主だったのよ」
「息子……アーチボルド様とオラの…ギルベルド」




