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災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい  作者: ねこたまりん
ヴィヴィアンの婚約
53/89

ヴィヴィアンは鍋料理をふるまった

「ようこそ、ウィステリア邸へ」


 いささか雑な詠唱で自邸に戻ったヴィヴィアンは、新しい家族たちを食堂に案内した。


 大テーブルの真ん中には、巨大な錬金釜が鎮座して、蓋の隙間から紫色の湯気を景気よく吹いている。


「これから歓迎の晩餐にするから、食べたいものを遠慮なく言ってほしい」


「あるじが作るのか?」


「私が作った鍋が作る。ノラゴは何が食べたい?」


「なんでもいいのか?」


「なんでも出るよ」


「なら肉! いっぱい!」


「オヤジ虫さんたちは?」


──わしらも肉じゃな!


──番には、きれいな水か、果物の汁をくださるとありがたい。


「分かった。壺の人は?」


「うえっ? あ、ええと…握り飯を」


「中の具は肉と魚、どっちがいい?」


「お魚で」


「ん。じゃ、作る」



 ヴィヴィアンは、錬金釜のそばに、大皿を五枚を並べてから、きりりとした表情で料理の名前を言った。


「謎肉だんごの甘酢あんかけ、赤黒ピーマンの謎肉詰め、謎肉の角煮、スパイシーなフライド謎肉、青魔魚のおにぎり」


 べちゃべちゃどちゃどちゃばちゃっ!


 大皿五つに、料理がどっさり盛り付けられた。


「うおおおっ、すげえ!」


──なんという、魅惑の香り!


 それからヴィヴィアンは、ガラスのパンチボウルを二つ出してきて、飲み物の名前を告げた。



「魔樹森林の黄桃ジュース、虎狼山のおいしい水」


 ばしゃっ、ばしゃっ!



「じゃ、食べよう」


 ヴィヴィアンが取り皿を配ると、埋葬虫たちは、いそいそと料理のそばに飛んでいったけれども、すぐに食べようとせずに、何やらコソコソと話し込んでいる。



──うーむ、これだけの美味なる肉を思う存分味わうには、この身体では不足じゃのう…


──番の手前、ちと恥ずかしいが、ノラゴに倣ってヒトガタに化けるかの。


──なんの、ヒトガタでも美男子となれば、惚れ直してくれるやもしれぬぞ。


──だのう。番のお世話も、ヒトガタのほうが都合もよいしの…



 相談がまとまると、埋葬虫たちは、ヴィヴィアンに変身の許しを願い出た。



──姫様、お見苦しいかもしれぬが、しばらくの間、わしらもヒトガタで過ごすことをお許しいただけぬだろうか。


「全然問題ないよ。好きなように過ごしてくれたらいい。あ、みんなの分の椅子を出すね」


 ヴィヴィアンがいそいそと椅子を並べている間に、四匹の埋葬虫は、青鈍色の髪を持ち、黒っぽい服を着た、四人の美少年に変わっていた。


「オヤジたち、若作りしすぎだろ…」


()()()()()()になる予定だったんじゃが、ちと加減が違ったの」


「ノラゴよりは年嵩になっとるじゃろ」


 彼らの横では、握り飯を手に取りかけていた壺の女性が、目を丸くしていた。


「ほえー、めんこい虫たちが、きれいな男衆に変わっちまった…」


「あ、そうだ、壺の人の名前を教えて」


「へ? オラですか?」


「うん」


「名前…んーと、なんだった……あ、タバサだ」


「タバサ。たくさん食べて。それから話そう」


 タバサと名乗った女性は、ヴィヴィアンにぺこりとお辞儀をした。


「はいです雇い主様。うほお、夢にまで見た握り飯……いただきます…うまっ!」


「よかった」


 ひたすらに、けれども和気藹々と食事が進み、大皿を何度か追加して、ようやく全員が満腹になった。


「あー美味かった! あるじ、ご馳走様!」


「姫様の料理の腕に、我ら感服いたしましたぞ」


「握り飯が旨くて旨くて…泣げだ…」


 薬壺から出てきたタバサは、額のたんこぶをなでながら涙を浮かべている。まだ痛みがあるのかもしれない。


「鍋料理は、好きなときに自由に食べてくれていい。出し方は分かるよね」


「あるじがやってくれたみたいに、皿を用意して、料理の名前を言えばいいんだよな」


「うん」


「よし、肉の料理の名前をいっぱい覚えるぞ!」


「握り飯も、具の違うやつをいろいろ作れるんだべか」


「できると思うよ、タバサ」


「夢の職場だ……」





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