ヴィヴィアンは知らずに愛でられていた
「なんだか、晴天と嵐が一緒になったような方だね、ウィステリア嬢は」
ヴィヴィアンが立っていた寝台の脇あたりを見つめながら、ギル・グリッドがしみじみと言った。
「善意もパワーも天災級、なんて言う者もいるわね。でもあの子は、自分は普通で平凡だって思ってるの。普通でありたいっていう、願望なのだろうけど」
普通でありたいという思いが、ヴィヴィアンの孤独と表裏一体であることを、スカーレットはよく知っていた。
(普通じゃないっていう理由で、つらい思いをたくさんしてきちゃってるから。今回のメアリーたちとの出会いで、少しは自信持ってくれるといいんだけどね…)
そのメアリーは、ヴィヴィアンに崇拝に近い思いを抱いているようだった。
「ヴィヴィアン様は、学院では、いつも孤高でいらっしゃいましたけど、困っている人を見ると、目立たないように助けておられました。落とし物を見つけて、持ち主にそっと返したり、壊れた物を、こっそり直していらしたり…」
妻が懐かしそうに学院の思い出を語るのを聞いて、ユアン・グリッドが不思議そうな顔をした。
「メアリーは、ウィステリア嬢のことに詳しいんだね。あまり接点はなかったと思うんだけど……その、僕のせいで」
「私、『ヴィヴィアン様を物陰から密かに愛でる集い』の会員だったのよ」
「あの学院にそんな集いがあったのか」
「ええ。そして、学院を卒業した会員の方々は、『我が愛しきウィステリアの虹の光』っていう上位団体に加盟して、ヴィヴィアン様の尊いご活躍を伝え合う連絡網を築いていらっしゃるの」
「そ、そうなんだ…」
ヴィヴィアンが貼った求人広告を剥がして回っていたのは、実はその会員たちだったりする。彼らが剥がさなかったものは、シャルマン隊長が剥がしていたのだが、ヴィヴィアンは知る由もないことである。
「私は病気のせいで参加を諦めていたけど、もう元気になったから、明日にでも加盟したいわ」
「メアリーよ、そういうことであれば、ぜひ私も賛助会員として登録したい。私の分も手続きを頼めるか?」
「父さん?!」
「もちろんです、お義父様!」
「僕は本会員希望だな。たしか月報が配信されてるんだよね」
「ギル兄さんもか…」
「ええギル様。虹の光通信の『ヴィヴィアン様の今日のお召し物』コーナーとか、『今月のお弁当一覧』とか、『闇の日のカフェテラスでの甘いひととき』の連載などは大人気で、学院内で海賊版がこっそり回覧されていました」
「あははは。いいね。次号は絶対、埋葬虫特集だろうなあ」
「きっとそうですね。会員特典でグッズ販売などもあるんですけど、埋葬虫さんたちをモデルにしたネックレスや髪飾りが、きっと売り出されると思います」
「埋葬虫グッズ!? そっそれは、僕も欲しい! メアリー、僕も本会員登録させて!」
妻のヴィヴィアン熱に気圧されて、若干戸惑い気味だったユアン・グリッドだけれども、魔導虫マニアの血が一気に沸き立ったらしい。
「ユアン、嬉しいわ! これからはヴィヴィアン様のお話で一緒に盛り上がりましょうね!」
「うん! 使い魔が最凶の埋葬虫っていうだけでもカッコ良すぎるのに、話ができるなんて……彼らに、また会いたいなあ」




