ヴィヴィアンは議事を進めた
すっかり仕事を終えた顔のヴィヴィアンに、グリッド兄弟はツッコミと質問を禁じ得なかった。
「ユアン・グリッド、見ての通り、無効化は無事完了した。犠牲者ゼロ。賽は投げられ、割れ鍋は閉じられた」
「それはそうだけど!」
「ええと、ウィステリア嬢、この女の人は?」
「トンチキ壺の中の人。ギル・グリッドはずっと一緒にいたと思う」
「うん、なんとなく気配は似てるかも……ハンニバル・グリッドとか言ってたけど……父さん、知ってる?」
「それはおそらく、我が家門の始祖だろう」
アーチバル・グリッドは、微笑みながら気絶している次男の頭の地肌を撫でてから、手近にあった毛布をかけた。
「薬壺をグリッド家に持ち込んだのは、始祖だという伝承がある。真偽はわからぬが、始祖は婿入りした他家を乗っ取って食い潰し、自らを当主とするグリッド家を立ち上げたという」
「事実だとしたら、とんだ屑野郎だな、うちの始祖」
「じゃあ、この女の人は、始祖に乗っ取られた家の娘さんなのかな」
「おそらくはそうだろう。面立ちが、どことなくお前たち……特に、セイモアに似ているように思う」
「てことは、返せって言ってたのは、この女の人と始祖の息子?」
「かもしれぬな。家を潰され、息子を奪われ、自身は薬壺の呪いの核とされ……恨み骨髄に徹する思いで壺の中にあったのだとすれば、我々を滅ぼしても飽きたらぬだろうな」
「……」
病室内に、重い沈黙が落ちた。
「ええと……とりあえず、この人どうします?」
スカーレットが、誰にともなく問いかけたけれども、すぐに意見を言うものはいなかった。
(もしやこれは、会議で話が進まなくなる『お見合い状態』という状況では…)
ヴィヴィアンは、凍りかけている病室の空気を読んで、提案を試みた。
「その一、王都病院に永遠に入院してもらう」
「済まぬが、病院長としては、却下したい。安全管理が困難だ」
「じゃ、その二。話し合って、グリッドのおうちの人になってもらう」
「無理よヴィヴィアン。さっきの感じだと、アーチバルさんの血の雨が降りそうだもの」
「それもそうか。ではその三。壺の中に戻ってもらう」
「一番ヤバいだろ、それ…」
「ユアン・グリッドに却下されたとなると、うーん、その五。貰い手がなさそうだということで、うちで引き取る」
「ちょっとヴィヴィアン、何考えてるのよ! ていうか、その四はどこ行ったのよ!」
「その四は…ちょっと倫理的にダメな気がしたから保留」
「なによそれ、すっごく気になるじゃないの」
「知りたい?」
「知りたい! というか、あんたが引き取るよりマシな案なんでしょ? 言いなさい」
「でも、『大が小を兼ねることはあれども、母は妻を兼ねるべからず』っていうし」
「あ、なんか嫌な予感しかしなくなったわ…」
「セイモア・グリッドと結婚してもらうのは、やっぱりダメだと私も思う」
再び無言となった病室内に、なんとも言えない空気が立ち込めた。
「はい。というわけで、うちで引き取ることに決定」
異論を出せるものは、この場にはいなかった。




