ヴィヴィアンは藪から何かを出した
「ヴィヴィアンちゃん、ほんとに!?」
「はいイルザ様、藪から棒人間を出しました」
「ヴィヴィアン、あなたって子は……昨日の今日よ? どれだけ偉業を積み上げちゃうのよ」
「え、藪から棒人間、ダメだった?」
「ダメなもんですか。最高よ! だけどその格言、ちょっと違ってるわよ。たしか『暴力人間藪よりい出て、蛇より痛し』、でしたわよね、イルザお姉様」
「スカーレットちゃん、そうだけど、今はそれじゃなくて…本当にグリッド家の嫡男の命を使わずに、それを無害化できるの?」
「できると思います。ていうか、トンチキな壺が、さっきから今ヤレすぐヤレって、すごく偉そうで、揺らすたびに、どんどんうるさくなってて、やかましいからぶっ飛ばしたいけど割れたらダメだから、耐え難きを耐え難しを耐え難くて……あれ?」
「分かったわ。あなたが言うのだもの。確実にできるわね」
予想もしない話の展開に、グリッド親子は呆然としていた。
「代々の我が家門の者たちの苦悩と絶望が、あっさり藪から棒人間……」
「父さん…」
「偉そうなんだ、薬壺…」
当事者たちの衝撃の余韻になど構うことなく、ヴィヴィアンは話を進めた。
「というわけで、ここで今すぐやりたいので、皆さん、材料集めに大至急ご協力をお願いします」
「ヴィヴィアン、創生するのね」
「うん、リサイクル」
「必要なものは?」
「とりあえず、トンチキ壺からちょっと見捨てられたセイモア・グリッド。あと、セイモア・グリッドの地肌から見捨てられた髪の毛」
「量は?」
「できるだけいっぱい。ぎゅうぎゅうに欲しい。あ、セイモア・グリッドは一人でいい」
「セイモア・グリッド以外の毛が少しくらい混じってても、大丈夫?」
「たぶん。トンチキ壺も、ここまで来て細かいことに文句は言わないと思う」
「ヴィヴィアンちゃん、彼はまだ執務室で気絶してると思うけど、その状態で構わない?」
「はい。昏倒上等です」
「なら、うちの人に運ばせるわね。スカーレットちゃん、さっき私が吸魔の呪具をまとめて解呪したときに、ついでに集まっちゃったモノって、どうなったかしらね」
「髪の毛も混入しているアレでしたら、サンプルを取ったあと、医療廃棄物として処理するように、病棟の看護師にお願いしましたわ」
「てことは、特殊ゴミ置き場ね」
「それならば、私が取ってこよう」
アーチバル・グリッドが名乗りを上げた。
「お願いするわ、アーチバルさん。ヴィヴィアンちゃん、他にはなにか必要?」
「布団叩き」
「ヴィヴィアン、それも解呪の材料なの?」
「理由はよく分からないけど、トンチキ壺がすごく欲しがってる」
「そうなのね。ちかごろあまり見ないアイテムだけど、どこで調達できるかしら」
考え込むスカーレットに、メアリーが、入院中に聞き齧った雑談を披露した。
「あの、それでしたら、屋上の布団干し場で、使ってる看護師さんがいます。ご年配の方で、ストレス解消に、とてもいいんだそうです」
「なら、その看護師に聞いて、譲ってもらえばいいわね。メアリー、付き合ってくれる?」
「はい」
スカーレットたちが、物資とセイモア・グリッドを集めるために病室を出ていくと、ユアン・グリッドが小声で尋ねきた。
「あの、ウィステリア嬢、セイ兄さん、何がどうなってるんだろうか。地肌から髪が見捨てられたって、一体…」
「どうなってるかは、見れば分かると思うけど、いま私の口から原因とかを言うのは、忍び難きを忍びたい」
ヴィヴィアンとしても、彼が慕っている兄が、気持ちの悪い母親崇拝変態になっていたと告げるのは、さすがに気が引けた。
煙に巻かれたような顔のユアン・グリッドを見かねて、兄も言葉を添えた。
「ユアン、仕方がないことって、あると思うんだ。セイモアが目覚めて、いろいろ自覚して落ち込んだなら、僕らで支えよう」
「ギル兄さん、知ってるんだ…」
「まあ、あの子がやらかしてるのを、ずっと壺の中で見てたからね」
「セイ兄さんも、僕みたいな感じだったのか」
「うん、まあ……薬壺に選ばれたせいで、余計に酷かったとは言える」
「そっか…」
「ユアン、僕が薬壺に囚われたとき、まだ母さんの魂が意識をかすかに保っていてね。母さんは僕たちのことを、本当に心配していた。母さんのそういう思いが、薬壺に捻じ曲げられて、全部セイモアに注がれてしまったんだ」
ヴィヴィアンは、親虫たちの突撃の場面を思い起こした。
「羊膜っていう、キラキラしてるけどキモい防護膜が、セイモア・グリッドをぴっちり包んでた」
「うん。あの膜は、消えていった母たちの残存思念が作ったものだった。意識や記憶が消えてしまっても、グリッド家の息子を守るという意志だけが残ってたんだよ。セイモアは、もともと母さん思いの優しい子だったから…」
「セイ兄さんも、優しさが行き過ぎちゃったんだね、きっと」
(行き過ぎた優しさは有り余る虫を集らせ、変態を作る……)
ヴィヴィアンは、心の中の箴言集に、そう書き留めた。




