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災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい  作者: ねこたまりん
ヴィヴィアンの婚約
39/89

ヴィヴィアンはお昼ご飯を食べた

「え、いや、その前に連絡とか」


「ご飯が先だよ、ユアン・グリッド」


「父さんとか家のみんなに知らせないと」


「ご飯」


「ギル兄さんが見つかったんだよ! 食事なんかしてる場合じゃ」


「ご飯」


 ぶれずにご飯の遂行を主張するヴィヴィアンに、メアリーも一票を投じた。


「ユアン、食べましょう」


「メアリー、だけど!」


「ギル様も、先にご飯、召しあがりたいですよね」


「うん。もちろん。そういう約束でこっちに戻してもらったしね」


 ギル・グリッドは、椅子から立ち上がると、ヴィヴィアンに向かって、深々と頭を下げた.



「ウィステリア嬢、心から感謝申し上げる。あなたの力がなければ、僕はあのまま、消えていくしかなかった」


「私だけの力じゃない。ユアン・グリッドとメアリーが、昔、ギル・グリッドのことを好きだったから、毛布で体が作れた。だから、家族のおかげだよ」


「……そうか。ユアンも、メアリーも、ありがとう」


「ギル兄さん…」

「ギル様…」


 ギル・グリッドは、懐かしそうに微笑みながら、涙を浮かべる弟を見つめた。


「ユアン、メアリー、大きくなったなあ」


「兄さんは…変わってないね。十八歳のときのままだ」


「そうだね。君たちに年齢を抜かれてしまったな」


「兄さんは、兄さんだよ。いつまでも」


「というわけで、ご飯にしよう」


 ヴィヴィアンに促された兄弟たちが、紙袋からサンドイッチを取り出して食べ始めると、メアリーは病室備え付けの保冷箱から、飲み物の入ったガラス瓶を取り出し、人数分のコップに注いだ。


「ヴィヴィアン様も、よかったらどうぞ」


「ありがとう。これは、紅茶?」


「ええ。私が入院してからは、ユアンがそこのカフェテラスにお願いして作ってもらって、毎日差し入れてくれてたんです」


「あそこのお茶は、美味しいものね。冷たいのは、まだ飲んだことなかったけど」


「冷やしても、美味しいんですよ」


 ユアン・グリッドは、不思議そうな顔で二人の話を聞いていた。


「僕、そんなことをしてたんだ…どうして色んなことを思い出せないんだろう。学院を卒業したなんて、まだ信じられないし、結婚のことも……父さんやセイ兄さんに聞いたら、何か分かるのかな」


 サンドイッチをそろそろ食べ終わりそうなギル・グリッドが、弟を気遣うように言った。



「ユアン、不安なのだろうけど、父さんとセイモアに会うのは、もう少し待ったほうがいい。あの二人は、まだ呪いの支配から戻っていないんだ」


「呪い…?」


「うん。グリッドの家は、気の遠くなるような昔から、ひどい呪いをかけられていたんだ。ユアンにかけられた呪いは、ウィステリア嬢がすっかり消してくれたみたいだけどね」


「ギル様、昨日のことを、ご存知だったのですか」


「うん、メアリー。昨日だけじゃなく、僕がいなくなってから、グリッドの家に何が起きていたのかも、だいたい分かってる。分かってるのに、見ていたのに、僕は、何もできなかった…」


 ユアン・グリッドは、悔しそうに俯く兄をみて、どうしようもなく心が痛むのを感じた。


 そして、覚悟を決めた。


「ギル兄さん、メアリー、それから、ウィステリア嬢……話を聞かせてほしい。僕に…僕たちに、何があったのか」


「ユアン、でも…」


 メアリーは、心配そうに夫を見つめたけれども、ユアン・グリッドの覚悟は揺るがなかった。


「メアリー、僕は、知らなくちゃいけないと思う。兄さんたちより力もないし、分からないことばかりだけど、グリッドの家が呪われてて、父さんとセイ兄さんが、今も苦しんでるんだろう? だったら、僕が助けなきゃ」



 ユアン・グリッドの言葉に、兄が深く頷いた。


「ユアン、僕もいる。こうして戻ってきたんだ。二人で父さんたちを助けよう」


「ギル兄さん…毛布なのに、大丈夫なのか?」


「大丈夫さ。毛布だって強いんだぞ」



 兄弟たちよりも先に食べ終わったヴィヴィアンは、ワッパーウェアを帆布カバンにしまうと、机の上の薬壺を左手の平に乗せ、右手で蓋をがっしり押さえつけながら言った。



「ギル・グリッド、ご馳走様をしたら、このトンチキな壺の中で知ったことを、できるだけ手短に話してほしい。それを聞いて、今日これからのことを考えたい」


「分かった。その薬壺の呪いのことと、僕らの父がやったこと、僕が消えてから起きたことを、すっかり話すよ」



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