表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい  作者: ねこたまりん
ヴィヴィアンの婚約
37/89

ヴィヴィアンは尋ね人を発見した

 ギル・グリッドとヴィヴィアンが出会う、少し前のこと。




 サポゲニン病院長の執務室を出た後、ヴィヴィアンは埋葬虫たちと一緒に、ユアン・グリッド夫妻の病室へ向かった。


 埋葬虫たちは、ヴィヴィアンの帆布カバンの中で休憩することになった。


 ヴィヴィアンは、ノラゴに持たせていた薬壺を受け取り、みんなをカバンの中に入れた。


「謎肉ガム食べながら、番さんの卵と一緒に休んでてね」


──何かあれば、いつでも飛び出しますぞ。


「うん、お願い」



 薬壺は、ヴィヴィアンが預かっておくことになった。なかに閉じ込められている何者かを取り出せるのは、ヴィヴィアンだけだったからだ。


「まだ無理なんだよね。色々諦めて眠っちゃってる感じで、たぶん呼んでも反応しない」


 病院のスタッフたちは、ほぼ目覚めていて、状況の把握や患者の介護に走り回っていた。


 入院患者たちも、軽症の者から目覚めていったようで、病棟はいつもの賑やかさを取り戻しつつあった。


 ユアンとメアリーは、重症患者の多い病棟の二人部屋にいた。


 ヴィヴィアンが病室を訪ねると、すっかり元気になったメアリーが出迎えてくれた。


「ヴィヴィアン様! 来てくださったんですね!」


「うん。メアリー、具合は大丈夫?」


「ええ。元気すぎて、すぐにでも退院したいくらいです」


「良かった。ユアン・グリッドは?」


「それが、ついさきほど目が覚めたんですけど…」


 窓際のベッドの上で、ピンク色の病衣(びょうい)を着せられたユアン・グリッドが、半身を起こして、呆然とこちらを見ていた。


「あ、え……メ、メアリー、なんでウィステリア嬢が…?」


 メアリーは、ユアンの傍らに行き、そっと手を握った。


「あなた、急に倒れて入院したのよ」


「倒れた? 君じゃなくて、僕が?」


「ええ。私はもうすっかり元気よ」


「本当かい?」


「本当よ」


「どこも苦しくないの?」 


「もちろん」


 ユアン・グリッドの目に涙が滲んだ。


「……夢じゃ、ない?」


「目は覚めてるでしょ」


「結婚、できるんだね」


 メアリーは、黙って小さく頷いた。


「メアリー!」


 ユアン・グリッドは、メアリーの細身の体を抱きしめようとして身を乗り出し、そのままずるりとベッドから転落した。 


「ユアン!」


「ち、力がぜんぜん入らないや。あはは…」


 ヴィヴィアンは、ちょうど病室前を通りかかった看護師に声をかけた。


「あのー、ここの患者さん、ベッドから落ちて具合悪いみたいだから、見てあげてください」


「え? あらあらあらグリッドさん、急に動いちゃダメよ。呪術系のショックと魔力枯渇で倒れたんだから、しばらくは絶対安静ですからね」


「呪術のショックって……覚えてない」


「のちほど主治医も来ますから、それまで奥様、危なくないように見ててあげてくださいね。お昼の配膳も始まってるから、よろしくね」


「はい」


 看護師が立ち去ると、ユアン・グリッドがおずおずと尋ねた。


「…奥様って、メアリーのこと?」


「私は、あなたの妻よ」


「え? えええ? でも僕ら、学院卒業してない…よね」


「してるのよ」


「………」


「お食事をもらってくるから、少しだけ待っていて。食べながら、ゆっくりお話しましょう、私たちのこと」


「メアリー…」


「すぐ戻るわ」



 メアリーは、入り口のところに立っていたヴィヴィアンに目配せして、一緒に病室を出た。



「あの人、まだ婚約時代だった学院生の頃に戻ってしまったみたいなんです」


「昨日のこととか、何も覚えていない?」


「ええ。ユアンが実家を出て、寮に入った頃、私の病状が急に悪化して、それで私の家のほうから、婚約を辞退する話が出て。いまのあの人は、そのころの記憶の中にいるようです」


「それは、メアリーが私にパンをくれた後のことだよね」


「はい。余命宣告も出て、結婚は無理だと私も思ったんですが、ユアンは、どうしても私と結婚するって言って。卒業と同時に、ユアンは病院の近くの家を買って、私を引き取ったんです。その頃には、一人では起き上がることもできなくなっていましたから、二人きりで、家の中で結婚式を挙げました」


「そうだったんだ」


 ヴィヴィアンは、埋葬虫たちがいた、小さな可愛い家のことを思い出した。


「とても、嬉しかった…だけど、卒業まで生きられないと言われていましたから、ほんのひとときの幸福なんだって、覚悟してたんです」


「でも、死ななかった」


「ええ。ユアンは、呪術の知識で、私を必死に生かそうとしてくれました。最初のころは、禁術などではなかったんです。彼は、人を守って元気にするための優しい呪術を、たくさん知っていましたから」


「頑張ったんだね、ユアン・グリッド」


「ええ。昔から、優しくて、誰よりも努力家で……でも、お兄様が亡くなってしまってから、何かが少しづつ、変わってしまったんです。私には優しいままの人だったけど、ご家族と決裂しただけでなく、誰彼となく、恨んだり、傷つけたり…ヴィヴィアン様にも、酷い仕打ちを」


「お弁当を踏まれたことは、思い出したらちょっと許せなかったけど、昨日ぶっ飛ばしたから、おあいこだよ。それより、ユアン・グリッドの亡くなったお兄さんって、セイモア・グリッドじゃないよね」


「はい。セイモア様は、二番目のお兄様で、亡くなった一番目のお兄様は、ギル様とおっしゃる方でした」


「ギル・グリッド。ユアン・グリッドと、セイモア・グリッドの、お兄さん」



 ヴィヴィアンが確かめるように名前を口にすると、手に持っている薬壺が、小刻みに震えはじめた。



「ねえ、メアリー。その人、この中にいるみたい」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ