ヴィヴィアンは変態を忘れることにした
ノラゴに褒められたヴィヴィアンが照れていると、イルザとスカーレットが執務室にやってきた。
「あなた! ヴィヴィアンちゃん!」
「イルザ、ビンフィル医師、来てくれたのか」
「あなたの様子がおかしいと思って飛んできたら、病院中寝てるんだもの。焦ったわよ」
「下の階の処理は、イルザお姉様と私で済ませましたわ」
スカーレットは、蠢く赤黒い糸がこんもりと乗った膿盆を、病院長に見せた。
「手間をかけて、すまない。ここも、ウィステリア嬢たちのおかげで、ほぼ片付いたところだ」
スカーレットは床に倒れているスキンヘッドのセイモア・グリッドを見下ろした。
「ヴィヴィアン、お手柄のようね」
「お手柄は、オヤジさんたちと、ノラゴだよ。あと病院長さんも」
──姫様が「対話」で彼奴を追い込んだからこその勝利ですぞ。
イルザはヴィヴィアンの頭を優しく撫でた。
「いい仲間ができたみたいね」
「はい。えへへ」
「詳しいお話は、いろいろ片付いたら教えてちょうだいね」
イルザはヴィヴィアンに微笑んでから、スキンヘッドの男を忌々しげ人見た。
「スカーレットちゃん、この落ちてるゴミは、今日の騒動の元凶で間違いない?」
「間違いありませんわ。セイモア・グリッドです」
ヴィヴィアンも、対話で得た情報を付け加えた。
「ユアン・グリッドは、この人の馬鹿弟さんだそうです。あと、覚えてなくて悪いなと思ったんですけど、私に三回求婚したと言ってました」
「忘れてていいのよヴィヴィアンちゃん」
「思い出す価値もないわ、こんな変態!」
「うん」
イルザとスカーレットに畳み掛けるように言われたヴィヴィアンは、あっさり忘れておくことにきめた。
「さて、そういうことになると、グリッド家の長に話を聞く必要があるわね」
イルザの言葉にスカーレットが頷いた。
「セイモア・グリッドが病院に仕掛けた呪術に用いていた薬壺は、名のある品を改悪したものだと思いますの。これだけ規模の大きな禁術を成功させるのですから、生半可な品ではないはずですわ。グリッド家に代々伝わる遺物かもしれません」
──その壺に、わしらの番が閉じ込められとったんじゃが、まだ他にも捕まってると思うぞい。
「あ、そうか。毛のなくなった奴が呼んでた『母様』って、おれらのかーちゃんじゃないもんな。誰なんだろ」
ノラゴの言葉を聞いて、ヴィヴィアンは、薬壺を目の高さまで持ち上げて、まじまじと見た。
「んー、捨てられたお母さんが、中にたくさんいるかもしれない」
「ヴィヴィアン……何人くらいか、分かる?」
「まだ溶けていない人は、一人だけかも」
昏倒しているセイモア・グリッド以外の全員が、おぞましい犯罪の証拠かもしれない薬壺を見つめた。
「あなた、すぐにグリッド家の者に問いただしましょう」
「アーチバル・グリッドならば、病院に泊まると言っていたから、まだ院内にいるかもしれない」
「スカーレットちゃんと合流するまで病棟を回っていたけど、見かけなかったわよ」
スカーレットは下の階の病室で、イルザが話していたことを思い出した。
「お姉様、不審な事務員を殴って寝かせたって、おっしゃってましたわよね」
「そういえばそうだったわ。彼らを起こして話を聞いたら、何か分かるかも。スカーレットちゃん、ついてきてくれる?」
「はい、お姉様。捕縛と尋問、必要とあらば、人畜無害でソフトな拷問も承りますわ。ヴィヴィアンはどうする?」
ヴィヴィアンは、「ノラゴ、持ってて」と薬壺を手渡してから、スカーレットに返事をした。
「私は、重症の患者さんの治療器を作りたい。壺でエネルギーを吸い取られて、メアリーみたいに苦しい思いをしてるかもしれないから」
「そうね。メアリーが起きているようなら、手伝ってもらうといいわ。治療器の使い方の説明は、経験者から聞いたほうが分かりやすいだろうから」




