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災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい  作者: ねこたまりん
ヴィヴィアンの婚約
34/89

ヴィヴィアンは褒め合った

──姫様、やめなされ!


──ばっちいものに、素手で触れてはなりませんぞ!


「頭皮の状態を確かめたら、急に毛が消えた理由とか、毛の戻し方とか、分かるかなと思って」


「そいつが勝手にハゲ散らかしたんだ。あるじが戻してやる必要ないだろ?」


「そうかな…」


 ヴィヴィアンは、少しばかり不完全燃焼な気分だった。


 ちゃんと対話をしてから、力の限りぶっとばすつもりだったのに、なぜかろくに会話が噛み合わず、キメの一撃も埋葬虫にやってもらって終わったからだ。


「みんな、作戦通りにすごく頑張ったのに、私だけ、作戦の役に立ってない」


「そんなことねーよ。あるじはこいつの皮を剥がしたじゃねーか。途中まで動けなかった俺が、一番カッコわりーぜ」


「ノラゴはカッコ良かったよ。大事なところで動けたもの。私が一番ダメだった」



「いや、役に立たない選手権であるならば、私が優勝だろう」



 突然、むくりと起き上がったサポゲニン病院長に、埋葬虫たちが驚きの声をあげた。


──ふおおおおおっ、(しかばね)が喋ったぞい!


──死にゆく者が、死につつ生きる者に変わっとる!


「おっさん、いままで死んでなかったか?」


「そこの、毛のなくなった者の呪いのせいで、いささか不健康に死んでいたのだが、解呪が完了したので、今はちょっと活きの良い死体というところだな」


「やっぱり死んでんじゃねーか! 大丈夫なのかよ」


「問題ない。平常運転だ」


 ノラゴに気遣わしげな目を向けられながら、死んだ青魔魚のような顔色のサポゲニンは、ヴィヴィアンの方を向いて、頭を下げた。


「ウィステリア嬢、私の不用心と不手際で、危険なことに巻き込んでしまい、すまなかった」


「病院長さん、お久しぶりです。私には危険はなにもありませんでしたが、患者さんたちが心配です」


「そうだな。一刻も早く病院の日常を取り戻さねばならない。そのためにも、まずは侵入者の無害化だな」


 サポゲニンは、床で伸びているセイモア・グリッドに右手の平を向けて、詠唱した。


「寂しき心の(うつろ)に迷妄の泥を注がれ苦しむ者に、適量の死を分かち与えん」


 三日月型の黒い刃が宙に現れて、セイモア・グリッドの背中を()ぐように動いたのちに、すっと消えた。


「人を害するほどの強欲は、これでほぼ()()()()()だろう」


──ほほう。屍鬼の技だの。見事なものじゃ。


「おっさん、なんか死神っぽくて、カッコいいな!」


「そ、そうであろうか」


 親虫たちとノラゴに褒められたサポゲニンは、照れたのか、顔を更に青くした。


「そういえば、この壺って、かーちゃんたちが入ってるんだよな。ぶっ壊したら助けられるのか?


 ノラゴが手に持っていた薬壺を軽く揺すると、ぷちぷちという音が聞こえてきた。

 

──壊しただけではムリかもしれんな。取り込まれているあいだに、正気だけでなく、形も失ったようじゃ。せめて、卵の形に戻せれば、何とかなるやもしれんが…


 ぷちぷち、ぷちぷち…


 かすかな話し声のようでもある音に、ヴィヴィアンはじっと耳を傾けていた。それらは、ヴィヴィアンにだけ分かるように、あることを訴えていた。


「オヤジさん、奥さんたちって、すごく強い?」


──そりゃあもう強いですぞ! 身も心も、わしらが万匹かかっても敵わんほどじゃ。


「私の魔法で、奥さんたちを卵に戻せると思うんだけど、それをすると、奥さんたちから、以前の記憶が全部なくなってしまうかも」


──やはり、そうでしょうな…


──新婚のあまーい思い出も、数百年、苦労を共にしたことも…


──悲しいことじゃが、もう一度会えるなら、わしらは満足じゃよ。


「でも、あのね、奥さんたちは、絶対忘れないって言ってる。たとえ忘れても、必ず思いだすって。だから、信じてって」


──なんと!


──さすがは我らが(つがい)じゃ…


「じゃ、戻すね。壺の蓋を開けなくちゃいけないから、ノラゴは少し離れてて」


「わかった。あるじ、かーちゃんたちを頼む!」


 ヴィヴィアンは頷くと、詠唱を開始した。



「棄てられし器の中の寂寞の闇よ、内に籠めたる命の温みを解き放ちて、孵化を待つ愛しき番の玉となせ」



 詠唱の終わりと共に、薬壺の蓋が持ち上がり、青鈍色の小さな卵が四つ、ぽろぽろとこぼれ落ちた。


 傍にいたサポゲニンが、タイミングよく卵たちを手で受け止めると、埋葬虫たちが飛び寄ってきた。



──おおおお! 愛しき番じゃ!


──姫様、感謝しますじゃー!


 ヴィヴィアンが薬壺の蓋を閉じると、廊下に出ていたノラゴが戻ってきた。


「ありがとう! あるじ、やっぱりすごいな!」


「えへへ」


 ヴィヴィアンは、やっと仲間の役に立てた気がして、嬉しくなった。




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