ヴィヴィアンは毛のない頭皮と対峙した
埋葬虫たちがセイモア・グリッドを煽りに煽って陽動していた頃、スカーレットは、一つ下の階の重症患者の病室にいた。
「あったわ。これね」
深く眠っている患者の首筋に、微細な繊維が刺さっている。
スカーレットは鞄から銀色の鑷子を取り出し、繊維をゆっくりと、慎重に抜き取った。
患者の胴の長さほどもある繊維は、中程から赤く染まり、ぴくりぴくりと蠕動している。
「あの変態野郎、エネルギーだけじゃなくて、血液まで採取してたんだわ」
スカーレットは、抜き取った繊維を鑷子でくるくると巻いてから、膿盆に置いた。
「魔術で一気に回収したいところけど、途中で切れて体内に残るとまずいわ。一人ずつ抜き取るしかないか…」
スカーレットが考え込んでいると、昨夜も聞いた華やかな声が耳に飛び込んできた。
「スカーレットちゃん! ここにいたのね!」
「イルザお姉様!」
青い花柄のドレスの上に白衣を着たイルザ・サポゲニンは、なぜか右手に金色のブラスナックルを装備している。
「あの人のバイダルサインがおかしいことになってるから、急いで病院に飛んできたら、みんな寝てるじゃないの。下の階から順に起こして回って来たのよ」
「まさか、患者を殴り起こしましたの!?」
「殴った奴は元々起きてた怪しい人間。いまは寝てるけど。それ以外は、変な呪具が貼りついたせいで寝てたみたいだから、回収したわ」
イルザは白衣のポケットから、赤黒い絆創膏の切れ端を取り出して、スカーレットに見せた。
「ほら、これよ」
「吸魔の術式が書き込まれているようですわね」
「これを持ってうろついている不審な事務員が数人いたから声をかけたら、人の顔を見るなり悲鳴を上げて逃げるから、とりあえず殴って寝かせたのよ。あとで事情を聞くわ」
「お疲れ様ですわ、お姉様」
「この階はどんな感じ?」
スカーレットは、膿盆で蠢いている繊維を見せた。
「吸引管を身体に深く埋められているのを見つけましたわ。血液とエネルギーを吸い取っていますの」
「絆創膏より厄介ね。一人づつ抜くのも手間だし、時間もないわね。ちょっと荒っぽく行くわよ……禍事に連なる長く細きものどもよ、その身を恥じて、疾く抜け落ち、我が元に来たれ!」
ぷちぷちぷちぷちぷちぷち
しゅぱぱぱぱぱぱぱぱぱぱ
階全体から、糸状の物体が大量に飛んできて、病室の床を埋め尽くした。
「お姉様…呪具じゃないものが、かなり大量に混じってるみたいですけど?」
「ああ、恥ずべき何かを抱えた人間に生えていた体毛も、一緒に集めちゃったみたいね。まあ問題ないでしょ」
「それなら誤差の範囲ですわね」
他の病室から悲痛な絶叫がいつくか聞こえてきたけれど、気にする二人ではなかった。
「で、血液その他諸々の吸引元は、夫のところにいるのね?」
「ええ。上の執務室でヴィヴィアンが相手をしてると思いますわ」
「そうなのね。あの子のことだから楽勝でしょうけど、相手があまり綺麗になりすぎても面白くないわね。急ぎましょう」
「はい、お姉様」
上の階では、ヴィヴィアンが、突然丸坊主になってしまったセイモア・グリッドの頭皮を、人差し指でつつこうとして、埋葬虫たちに止められていた。




