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災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい  作者: ねこたまりん
ヴィヴィアンの婚約
24/89

ヴィヴィアンは仲間を呼んだ

 ヴィヴィアンの行きつけのカフェテラスから、王都病院とは反対の方向に少し歩いたところに、ユアンとメアリーの家はあった。


 こぢんまりとした切妻屋根の家の周囲に、黄色いロープが張り巡らされ、立ち入り禁止の札がぶら下がっている。


 スカーレットはロープのそばで警備をしていた警察部隊員に近づいて、声をかけた。


「ここの家について、ちょっとお話が聞きたいのだけど」


「住人の知り合いかな?」


「私は魔導医師のビンフィル。ここのご夫妻とは知り合いよ。昨日の騒ぎのあと、お家が無事かどうか、代理で見に来たんだけど」


「外側は見ての通りだ。中については捜査中だな」


「そう。手間をとらせてごめんなさい」



 スカーレットとヴィヴィアンは、警察部隊員から距離を取ると、小声で話し始めた。


「やっぱり、何かいるわね。かすかに呪いの気配がするけど、呪い主に放棄されたのか、繋がりがすごく薄いみたいで、把握しにくいの。ヴィヴィアン、何とかできない?」


「誰かに捨てられたものなら、呼べるかも」


 小さな庭木の根本あたりをじっと見据えながら、ヴィヴィアンは小声で詠唱した。


「生きながら()まれ追われるものたちよ、()まれることなく在るべき場所への(よすが)を求めて、そのかそけき声を我に届けよ」


 すると、か細い声が聞こえてきた。


──誰だてめえ。メシ食わすつもりがないなら、声なんかかけんなよ!


「やっぱりいたわね」


「虫だけど、昨日のとは違うみたい」


「どれくらいいそう?」


「たぶん五匹くらい。すごく弱ってる」


「ヴィヴィアンにかけてた呪いは、本人に返ったあと、全部消えたはずだし。ユアン・グリッドのペットかしら」


「家の土台(かじ)ってるから、違うと思う」


「いるのが把握できたから、捕獲して確認するわ」


「殺虫管はかわいそうだから、私がうけとめるよ」


「わかった。お願いね」


 スカーレットは短く詠唱した。


「禍事に連なるものよ、我がもとに来たれ、バグキャッチング」


 子どものゲンコツほどの大きさの虫が飛んできて、吸い込まれるように、ヴィヴィアンの手のひらに、びたんと落ちた。


──うわあ! いきなり何すんだ! まぶしいじゃねえか!


 金属が(きし)むような声でわめきちらす虫を見て、スカーレットが即座に種族を判別した。


「これは、埋葬虫の幼体ね。妙に青白いのは、弱ってるからかしら」


「子どもなんだ。ぷにぷにしてて、ちょっと可愛い」


「可愛い…?」


「普通に可愛いよね」


 体節をぐにょぐにょ伸縮させて(うごめ)く虫を見れば、靴底で蹂躙(じゅうりん)したくなる人間だっているだろうに、ヴィヴィアンにとっては愛玩の対象になりえるらしい。


──お? 見る目があるじゃねえか、メガネっ娘! で、てめえら、俺に用でもあるってのか!?


「うん。聞きたいことがあるの」


──メシくれるんなら、話してやってもいいぜ!


「何が食べたい?」


──肉! 腐りかけの香ばしいやつ!


「謎肉でもいいなら」


──なんだそりゃ、聞いたことねえ肉だな。


「すごくおいしいよ」


──乗った! で、何が聞きたいんだ?


「ユアン・グリッドの家の下で、何してたの?」


──何もしてねえよ。腹減ったから、庭木と家を少し齧ってたけどな。


「誰かに呼ばれて来たの?」


──あー、たぶんな。俺の親の親の親の親くらいの話だから、もう誰も覚えてねえけどな。


「親の親の親の親と、その子どもと子どもと子どもは、どうしてるの?」


──みんなあそこにいるぜ。弱っちまってて、もう誰が誰の親だったかも、分かんなくなっちまってるけどな。


「そっか。分かった。ならみんなで、うちに来る?」


「ちょっとヴィヴィアン!」


 思わず止めようとしたスカーレットに、ヴィヴィアンはしっかりと自分の気持ちを伝えた。


「あのまま、ユアン・グリッドの家の下にいるのは、よくないと思うから、連れていって、うちで守る」


「それはそうだけど、だからって…」


「大丈夫。いい子たちだって分かるから」


──おうよ! メシさえもらえれば、俺らは悪さしないぜ! 特技は特殊清掃だ! どんな戦場でも死体一匹残さねえぜ! ガラクタもな!


「いいね。頼もしいな。今日から末長くよろしくね」


──おう! 他の皆んなもこっちに呼んでくれ!


「うん……我が手の中の心(すぐ)なる、いとけなきものの同胞(はらから)たちよ、対価を示し、我は願う。よるべなき地中から解き放たれて、我が家に住まうものとなれ」


 ユアン・グリッドの庭土から青白い塊が四つ、びゅっと飛び出して、ヴィヴィアンとスカーレットを取り囲むように、宙に浮かんだ。


「こちらは成虫だわね」


「ツヤツヤしてて綺麗」


──来たか、オヤジたち! 引越し先が決まったぜ! 雇い主もな!


──なんじゃと? メシは出るのか?


──どっさり出るってよ! 


──なんとおおおお! あるじ様はいずれの方じゃ!?


──そこの黒いメガネっ娘だ! 


──おおおおお! 闇の化身のごとき黒の姫君じゃな! 


「みんな、お腹空いてるよね。謎肉ガム、食べる?」


 ヴィヴィアンは、帆布バッグから小ぶりのワッパーウェアを出すと、謎肉ガムを五つ取り出して、埋葬虫の一家に配った。


──うおおおおおおおお! なんじゃこの美味なる肉は!


──ほど良き腐り加減じゃな!


──百年ぶりに、力が満ち溢れるぞい!


「そのガム、持って来たのね…」


「小腹が空いたときに、いいとか思って。スカーレットもいる?」


「でも、腐ってるって言ってるわよ」


「腐敗じゃなくて、醗酵だと思う。いい感じに酸味があって、食べやすいんだ」


「あとでもらうわ…」


 久々の食事で力を取り戻した埋葬虫たちは、本来の青鈍色(あおにびいろ)を取り戻し、ヴィヴィアンの前に横一列に並んで浮かんだ。


──美しき黒の姫君よ。我らノラシデの一族、これよりクロヒメシデの一族と名を改め、とこしえに、姫君の僕とならんことを誓いまする。


「ありがとう。私はヴィヴィアン・ウィステリア。皆んなの名前も教えて」


──古きものから順に、ノラオ、ノラジ、ノラサブ、ノラヨ、ノラゴと申しまするが、そこの幼きノラゴの他は、いまとなっては、どれが誰やら分かりませんでな。


「そこはおいおい、探っていこうか。ご飯たべて元気になれば、きっと思い出せるよ」


──ありがたき幸せ!


「えへへ、一緒に暮らす仲間ができた」


「ヴィヴィアン…」


 嬉しげなヴィヴィアンに、スカーレットが複雑そうな視線を向けていると、ユアン・グリッドの家を警備していた警察部隊員たちが走り寄ってきた。


「おい! その虫はなんだ」



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