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災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい  作者: ねこたまりん
ヴィヴィアンの婚約
15/89

ヴィヴィアンは美味しくいただいた

「シチュー、できた」


 一人っきりで家にいることの多いヴィヴィアンは、できるだけ声を出すように努めている。


 以前、ろくに喋らずに暮らしていて、言葉がすんなり出なくなってしまったことがあったのだ。


 詠唱には、正確な発声が必要だ。


 うっかり言い間違えたり、途中で言葉が詰まったりすれば、事故を起こしかねない。うまく言葉が出なくなることは、ヴィヴィアンにとっては死活問題なのだ。


 ヴィヴィアンの力量であれば、無詠唱でも魔法を発動できなくもないけれど、どうしても精度が落ちる。シチューの味は少し悪くなるし、工芸品であれば、とんでもなく趣味の悪いものになることもある。


「その点、今日作った鞭は、会心の出来だった」


 持ってよし、愛でてよし。

 色艶最高。

 会話能力が搭載されたのはヴィヴィアンの想定外だけど、持ち主に語りかけて心を癒すという、治療機器としては極上の機能なのだから、全く問題ないと言える。


「自分用にも、喋る子を一つ作ってもいいかもしれない。うん、作ろう」


 湯気のたつシチューを深皿によそってテーブルに置き、席に着くと、ヴィヴィアンは手を合わせて、


「いただきます」


 と言った。それに応えるように、シチューが淡い光を放った。


「今日も、美味しくできた」


 捨てられかけていた肉や野菜たちは、ヴィヴィアンの魔法で、至高の料理に生まれ変わった。


「謎肉と素敵根菜のあったかシチュー、逢魔時(おうまがとき)の魔法仕立て。日記に書いておかなくちゃ」


 作った料理には、その都度、できるだけ長い名前をつけて、詳細に記録を残すことにしている。発声の練習になるし、新たな詠唱を作り出す土台になることもあるからだ。


 巷では、ゴミ処理魔法などと揶揄されることもあるけれど、ヴィヴィアンは自分の固有魔法である「再生利用」を、とても気に入っている。


 固有魔法を理由に除け者にされたり、痛めつけられることは少なくなかったけれど、本当に大切な人や物を、ヴィヴィアンのもとに連れて来てくれるのは、いつだって、この魔法だったのだ。


「喋る子、どんな感じにしよう。家族になる子なんだから、じっくり考えなくちゃ」


 メアリーにあげた鞭は、蛇っぽくて愛らしかった。

 蛇は大好きだ。蜥蜴(とかげ)もいい。


 大好きな子と一緒に、お気に入りのカフェテラスでご飯を食べて、本を読んで、おしゃべりして。


「すごく普通の女性っぽい、素敵な週末になるよね。こういうの、女子力が高いって、言うんだっけ」


 連れが蛇や蜥蜴では、女子力が大幅に下方修正させる可能性があるだろうけど、それを指摘できる者はここにはいない。


 シチューを食べ終わるころには、ヴィヴィアンの頭の中は、明日からの楽しい計画でいっぱいになっていた。


「そうだ。自分のための新しい子を作る前に、スカーレットのお礼も考えておかなくちゃ。こっちで案をいろいろ用意しておいたほうがいいよね。スカーレットは、忙しい人だから」


 いつになるか分からないけど、メアリーが訪ねてきてくれたら、鞭のアフターサービスについて、きちんと伝えなくてはならない。


「治療の精度をあげるためにも、治癒するまでの経過を、しっかり記録していかないと。あ、顧客ファイル、メアリーの分、作って置かなくちゃ」


 仕事は楽しい。

 誰かを幸せにする仕事は、ヴィヴィアンをも幸せにしてくれる。だから、大変でも続けていける。


「ごちそうさまでした」


 外はもうすっかり暗くなっていた。


「スカーレットも、晩ごはん食べたかな」


 同じ頃、虫騒動の余韻の残る王立病院では、全く幸せそうではない顔の人々が、スカーレットの語る「事故の顛末」に耳を傾けていた。


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