第7話 ワイバーン討伐に出かけます。
この世界のこの国はサマラン王国と言う名で人間族の支配域になっている。
ゼルネサクのダンジョンがある私が滞在している街は王都タステルクルブから東に位置するバコウナと言う中規模の街だ。
街には様々な種族が往来している。
人間族、エルフ族、ドワーフ族、獣人族、龍人族である。
それぞれに故郷と呼ばれる国家が存在している。
私が擬態しているエルフ族にも国家がある。
サマラン王国の東側に隣接したエルフの王国シャーデリネ王国。
私が行ってみたい国の一つだ。
エルフに擬態しているので、感情移入している面は否めない。
ドワーフ族はサマラン王国の南東に隣接しているガドラン王国。
獣人族はサマラン王国の南側に隣接したテフラ王国。
竜人族はサマラン王国の南西に位置していてドラゴナ王国。
どの国も行ってみたい。
そして、それぞれに国王が存在していて、今の所は仲良く国交を樹立している。
以前はエルフと獣人族が戦争をしていた事もあった。
その為、今でも仲が悪い人達もいる。
ワイバーン討伐に向かう為、馬車を借りて移動中である。
街道をゆっくりと揺られながら、馬車の大きな揺れにちょっと動揺している。
「ワイバーン討伐の前に分前を決めようぜ。」
分前とは討伐などの報酬をパーティで分けるのが一般的で、特に臨時で結成したパーティは揉め事の原因となる事が多いので最初に話し合いをする事が理想だ。
「報酬金は仲良く等分。
ドロップアイテムはレア度に応じて私が今回ホストだから一個高レア貰うわね。
後は皆んなで分けてくれれば良いわ。」
「報酬金等分で良いのか?」
ジャックが心配そうに私を見た。
「ええ、それで良いわ。」
通常は受注したホストが半分くらい持って行く。
だけど、私はそんなに拘りがない。
特に異論もなく報酬については纏まった。
馬車に揺られて1時間近く、お互いの近況や情報も交換出来る。
「そう言えば、ゼルネサクのダンジョンで見た事がない魔物を見たって奴が居たんだが、誰か知らないか?」
おっと!それはやばい話になって来た。
何処かで目撃されてしまったのか。
「へぇ〜、聞いた事ないね。
どんな魔物なの?」
魔法使いのビビと剣士のマグナは身を乗り出してジャックの話に聞き入っている。
「何でも白い翼を持った魔物らしい。」
ハハハ、それ私ですね。
なんて言えないけど。
見られてた訳だ。
「もしかして、私を助けてくれた魔物かもしれないわ。」
私は何とか悪いイメージだけは持たれないようにするぐらいの事はやっておいた方が良い気がした。
「ああ、聞いたぜ。
ダンジョンの中で瀕死になりかけた時、助けられたらしいな。」
冒険者達は情報を常に共有している。
危険な面も多い事も理由にあると思う。
ジャックは特に情報に通じているように感じる。
「ええ、薄らとした記憶だけど、確かに白くて翼が見えた。
天使かと思ったわ。」
みんな天使という事にしてくれないかしら。
「だけど、魔物が人を助けるなんて話し聞いた事ないぞ。」
それはそうなのよ。
私は知性ある魔物だから本能だけで行動する一般的な魔物とは行動パターンが違うのよ。
そんな話をしているとワイバーンが目撃されている山間に辿り着いた。
「もしかするとワイバーンの棲家が近いのかもしれないわね。」
山間は民家などはなく、岩場や森が広がっている。
ワイバーンは警戒心が強く、気性が荒い。
ドラゴンタイプの魔物の中でも、それ程強くは無いが空を飛ぶので戦いづらい。
思った通り、私達の存在に気が付いたのか、上空に羽ばたいてこちらを見ている気がする。
「現れたわね。
私が弓で攻撃するわ。
地上に落とすからその時はお願いね。」
弓を手に持って構えると。
「魔法でも援護するね。」
ビビが杖を振って詠唱を始める。
矢を放つとワイバーンは交わしながら火球を口から放ってくる。
避けつつ矢を放つ。
ビビが詠唱を終えてワイバーンの上空から雷撃を浴びせた。
少し怯んだワイバーンは動きが止まり、私は数本の矢をワイバーンの翼に当てた。
そして、制御を失ったワイバーンは地上に落ちた。
落ちたワイバーンにマグナとジャックが剣で攻撃を加える。
ワイバーンの外皮はドラゴン族という事もあり硬いがジャックとマグナは何とか倒す事ができた。
「やったわね!」
私はマグナとジャックに駆け寄った。
「ふぅ〜、終わった。」
ドロップアイテムはワイバーンの外皮と竜魔石、鋭い爪、火炎石、竜の大尾などなど回収した。
私は竜魔石と火炎石を貰った。
理由は簡単だった。
それは食べられるから。
私の大事な栄養源とスキルを吸収できるアイテムだ。
クエストをやってみて思ったが、この程度のクエストなら1人でもやれそうだ。
再び馬車に揺られてバコウナの街に戻って来た。
冒険者ギルドで討伐の報告にドロップアイテムを見せる。
ギルドの鑑定士が確認してアイテムを返されると報酬を受け取った。
「飲もうぜ。」
冒険者達はお酒を飲む事を楽しみにしている人が多い。
私もお酒は好きだが、この世界のお酒も楽しみである。
酒場に4人でテーブルを囲んで乾杯をした。
クエストが無事に終わって良かった。
「今日はジャックの奢りね!」
「はぁ?何でだよ!」
「だって、飲もうぜって誘ったのはジャックだしね。」
「割り勘でお願いします。」
私の冗談にジャックは困った顔を見せている。
「ビビもそう思うでしょ?
ここは男が可愛い女の子に良いとこ見せるチャンスよね?」
「アリアーナ名案ね!」
私とビビは隣同士の席で私の冗談に賛同してくれて楽しい雰囲気になっきた。
男2人はこれは困ったと言った顔つきで見合わせていたが男性2人で割り勘と言うところに落ち着いた。
「アリアーナ。
この4人でパーティ組まないか?
相性も良いと思うんだけどな。」
「そうね。
悪くは無いけど、今はパスよ。
私は色んな国を回りたいし、故郷にも一度帰ろうと思ってるの。
また、帰って来たらその時はパーティ組みましょ。」
魔物に転生してしまった私だが、人との繋がりには建設的な意見も重要になってくる。
全てを否定していたら何も始まらないし何も楽しめない。
先ずはアリアーナの故郷であるエルフ王国に行ってみよう。