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第43話 夏休みは楽しむものと決まっている

学園は長期の夏休みに入った。

先生達も夏休みが与えられ、私も1ヶ月休みがある。

一般の教職員は学園から業務を与えられて学校に出向くこともあるが、私は外部職員の為、それが無い。


そして、私は魔王が領土としていた国にある前魔王の居城に足を運んだ。


「ミカルドス。

元気にしていましたか?」


「ああ、お前に貰った身体は頗る調子が良い。」

剣に宿っていた魔王の魂を私は別の肉体に移した。

私の分体ではなく、ただ平凡に生きていた人間が病気で命を落とした肉体を再生して魂だけ移し替えた。

それによって以前の様な強大な魔力は失われ、普通の人間として魔王の魂は生まれ変わった。

寿命は人間と変わらない。

いずれは寿命が尽きて死ぬ時が訪れる身体を魔王の魂は望んだからだ。


だが、意外な事も判明した。

彼が言うセブール族と言う種族の人達が身を潜めてこの地に住んでいたのだ。

ミカルドスはその人達を集めて魔王の居城周辺に街を建設しようとしていた。

私もその試みに手を貸すこと為に、私の世界に散らばる分体を呼び寄せて街の建設を手伝わせている。


「街を見て回ったけど、賑やかになってきたわね。」


「ああ、お前のお陰だな。

ここにセブール族の国を造るつもりだ。

そして、世界に私達の存在を認めさせる。」


「わかったわ。何か困った事が有れば相談に乗るわよ。」

魔王の魂が選んだ道は険しい道のりだ。

一国を起こすと言う事は諸外国からの外圧や抵抗も容易に想定できる。

だが、彼の目や表情を見ているとその意気込みの強さを感じる。


数日後、自宅に学園の生徒数人が訪問して来た。

シャスベル・レクセス、マリーナ・ユスイル、ピーター・マクベリアス、アリアナ・ハーマン、ミュウイ・クランプ。

男子2人と女子3人である。


「夏休みの課題ね。」


「はい!先生。

冒険者か保護者同伴で魔物の討伐と採取を行う課題です。

親に頼んでも良いんですけど、先生にお願いしたくて皆んなで来ました。」

委員長のマリーナは兎に角積極的に意見を述べる。

そして、素直で良い子だ。

課題の内容からするとダンジョンに行くのもありかもしれない。


「ダンジョンに行ってみる?

討伐と採取が一度に行えるし、浅い階層ならそれ程強い魔物も出ないし、良いと思うけどね。」


「皆んなどう思う?」

まあ、恐らくダンジョンは未経験なのだろう。

マリーナを始めとして女子3人は難色を示している。

単純に怖さもあるはず、無理をする必要はないが、いい経験にはなる。


「先生が一緒なら大丈夫じゃないか?」

男子達は女子と違って前向きな凛々しい表情を浮かべている。

5人が納得する形でダンジョンに向かう事にした。

学園が推奨するダンジョンに向かう。

街からもそれほど距離のない所に小さなダンジョンがある。

階層も10階層ほどで終わっている。

出てくる魔物もレベルが低くて学生達には丁度良い。


「皆んなちょっと集まって。」

私の号令に生徒達は駆け足で集まった。


「5人で役割を決めなさい。

前衛から中衛、そして後衛と自分が得意な分野を活かせる立ち位置を決めてから進むわよ。」

5人が集まって話し合いを始めた。

なんとも初々しい姿である。

男子は女子に後衛をお願いしている。

女子を後衛にして男子が前で守るなんて頼もしい限りだ。


「先生!オッケーです!」

私は少し離れたところで座って眺めていた。

マリーナが笑顔で私に手を振っている。


「さあ、行こうか。」

キラーラットやロックビーストの様な下級の魔物しか出て来ない。

生徒達だけでも十分な相手だ。

私の出番は無さそうだ。

暫く歩いていくと階段があってそれを降ると2階層に繋がっている。

2階層もベビーバットやハンタースネークなどの魔物くらいで毒に気をつければ問題ない魔物ばかりで生徒達も前衛の男子が奮闘して後方で女子がフォローする形が纏まってきている。


「おい!出過ぎるなよ。」

ピーターがシャスベルに叫んだ。

少し抜け出して魔物を相手にしている。

必死なのはわかるが少し陣形が崩れかけている。


「ねぇ!私達の魔法の軌道に入らないでよね。」

後衛の女子達は魔法で応戦。

しかし、陣形が乱れて魔法が使いにくくなっている。

魔物は強く無いが、少し数が多くなってきた様に感じる。

ここら辺で一度引き時だろう。


「皆んな。一旦引きなさい。

そして、体制を立て直して。」

と言ったその時。

ガシャ!ドドド

音を立てて地面が崩れ落ちる私を含めて生徒達も落ちて行く。

何かが穴を掘っていたのだろう。

全員穴の中を転げて深い所まで落ちてしまった。


穴の主は居ないが、落ちて来た階層は何処なのか見当もつかない。


「皆んな大丈夫?」

見た様子では5人とも立っている。

怪我はない様だ。


「先生。ここは何階層何でしょうか?」

女子達は心配そうな顔で私の側に集まった。

ハプニングとは言え、これはちょっと楽しくなって来た。


「わからないけど。

これもいい経験よ。

ここからどうやって出口に向かうのか。

5人で相談して決めなさい。」

私だけなら転送で帰れるが、こう言ったサバイバルな局面は望んでも訓練では中々出会えないいい機会でもある。


しかし、女子は急なハプニングには弱い様で寄り添って怯えている。

「心配すんな。先生も居るんだから、大丈夫だ。」

男子も怖いだろうにピーターがシャスベルと顔を見合わせている。


特にアリアナとミュウイは酷くメンタルをやられたのか、顔色が良くない。

「2人とも大丈夫だ。

頑張ろうぜ!」

男子2人も女子2人が怯えている事を心配しているようだ。


それでも5人は集まって話し合いを始めた。

「よし!兎に角上に上がれる階段を探すぞ!」

こういう時に必然的にリーダー的な要素を生み出す子が居るものだ。

特にピーターは女子達を気遣い鼓舞している。


まあ、予想外な事は常に起こりうる。

5人が進んだ先にはとても太刀打ちできない魔物と遭遇していた。

「先生!あの魔物って、クリスタルスコーピオンですよね?」

確かにクリスタルの殻で覆われた魔物。

今の生徒達では瞬殺レベルの魔物だ。

と言う事は、この階層はかなり深い所、もしくは別のダンジョンの可能性もある。

「5人とも、下がりなさい。

今のあなた達では太刀打ち出来ない魔物よ。」

生徒達は私の声に反応して後ろに下がった。

まあ、私の敵では無いがどうしてこれ程の高レベルの魔物が出る場所に落ちたのか不可解でならない。

素早くクリスタルスコーピオンを撃退した。

造作もない事だ。

生徒達は怯えてしまっている。

ダンジョンでの実習もここまでにしよう。


「皆んな、今日はこれくらいにしてそろそろ帰るわよ。」

5人を近くに呼び寄せると纏めて転送魔法でダンジョンの外へ。


「ん?転送出来ない。」

この場所から外に抜け出すことが出来なかった。

考えられる理由としては、途轍もなく最下層で転送域を超えている、もしくは何らかの妨害魔法が発動している、それで無ければ私を上回る魔力がこのダンジョンに作用している。

考えたくは無いが素人の生徒達と共にこのダンジョンを抜けるのはかなり大変な事になりそうだ。

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