第42話 竜王と白い天使
魔法演習場には全校生徒が集められて私と竜王バラゼボルドとの模擬戦が行われる事となった。
生徒達には模擬戦とは言え、実際の戦闘と言うものを肌で感じ取って欲しいのだ。
私はスーツから体操着に着替えた。
動きやすい格好になって身体も軽くなった様に感じている。
開始の合図と共にバラゼボルドが私に向かって神速で踏み込んで拳を振るう。
右拳が私に触れる寸前で見切り軽く左側に私の右手で流すとバラゼボルドの衝撃波で地面を抉る。
私はバラゼボルドのガラ空きとなっている背中に右肘を突き立て下に向かって打撃を浴びせた。
上手く受身をされて地面には倒れ込んだが、直ぐに体勢を整えて私から距離を取った。
「強いな。全く勝てる気がしない。
なるほど、闇の組織を壊滅したと言うのも頷ける。
この学園で何をしようとしている?」
「この世界の未来を担う若者達にどう生きていくのか、見てみたいと思ったのよ。
見てみなさいよ、あの子達を可愛いでしょ。
世界を救うなんて考えなくていいから、少しでも長く楽しく生きて行って欲しいのよ。
そのお手伝いをしたくてね。」
子供達は私達に注目している。
少しでも学びたいと思っているのだろう。
中には不安そうに私を見ている子もいる。
それで良い、怖さを知る事も大事だ。
「英雄が生まれるかもしれないな。
お前が育てるのだから。
ならば、あの子達に恥じぬ様な闘いを見せてやらねばな。」
竜王バラゼボルドも私の言葉や子供達の視線に気持ちも盛り上がって来た様だ。
「そうね。貴方の本気が見たいわ。」
「良いだろう。
この様な高揚した気持ちは何時ぶりだろうな。
魔王の討伐にロディアスと世界を回って以来か。」
私と同様バラゼボルドも魔力を高めていく。
ガチンコ勝負の殴り合いの始まりだ。
流石はロディアスと魔王の討伐を成しただけの事はある。
私とは天地ほどの魔力とスキル差があるのに、全くその差を感じさせない気迫だ。
これは経験がなせる技と言える。
生徒達には良い見本となるはず。
バラゼボルドがどの様な攻撃姿勢が得意なのかは、目の前で拳に魔力を集中させているのを見れば分かる。
魔力を剣に変えて双剣を創り出した。
「この高揚感。ユスティティアと言ったな。
感謝する。
この数年気力を使って闘いをする事など無かったからな。
ロディアスも言っていた。
お前にあったら必ず考えが変わると。
その時は分からなかったが、今対峙して魔王の時とは違う心の高まりを感じている。
この感覚は安心感にも似ている。
さあ、この時間を楽しもうぞ!」
神速と高速の剣捌きは見事と言える。
私も神の目に近い『神魔降伏眼』を持っていなければ到底目視するのは厳しい攻撃だ。
確実に私の身体を正確に剣が突いてくる。
余裕で交わせるが、油断は禁物です。
「ねぇ?強さってなんだと思う?
私はね、自分が決して強く無いと思ってるの。
ここまで生きて来られたのは運もあると思うわ。
圧倒的な魔力、神域すら凌駕しそうなスキル、そんなものが有っても全ての人を救えるわけでは無いのよ。
だから、強さは弱さでもあり、弱さは時に強さにもなる。
強さとは今生きる為に必要な事が出来るための知恵を持つ事。
それをあの子達に教えたいのよ。」
私はサッと後ろにステップをすると、収納魔法から一振りの剣を取り出した。
「なあ!それの剣は!魔王の剣では無いか!」
一番驚いたのはバラゼボルドである。
それもその筈、魔王との戦いで散々見て来たのだから。
「違うわよ。『聖剣ストルブレイバー』よ。
私は魔王の剣を持つ闇の組織リーダーミカルドスと戦った時に、魔王の意思が剣に雇っていて、肉体自体は傀儡である事を暴いた。
魔王の剣は私に敗北を認めて、その全てを私に語ったわ。
この剣は神が人々に与えた聖剣であり、人々が憎しみや欲望のために聖剣を振るう事で負のエネルギーが魔王の魂を創り出した。
だから、魔王の剣を浄化して聖剣に戻したわ。
それ故に、魔王は人間が創り出した負の遺産と言えるわね。」
聖剣ストルブレイバーは神々しい光を放つ。
それを見たバラゼボルドや聴衆は言葉を失っていた。
「先生!」
バラゼボルドとの模擬試合も終わり職員室に戻っていく途中で、クラスの生徒達が私のところに走って駆け寄って来た。
シャスベル・レクセス、マリーナ・ユスイル、ピーター・マクベリアスの3人はクラス全員を引き連れて興味津々な良い顔をしている。
「先生!凄いです。
あの竜王を黙らせるなんて。」
少しやり過ぎたかも知れないとは反省している。
闘いの結果、相手が望んだとは言え竜王バラゼボルドが立たなくなるまで最後は拳で語り合いならぬ殴り合いをやってしまった。
「まあ、そうね。
先生はね。
貴方達に知って欲しかったのよ。
周りは敵だらけ、魔力も底をつきそう、それでもどうにかしなくてはならい。
そんな時は拳で黙らせる!
だから、貴方達も身体はしっかり鍛えて、格闘術や護身術、剣術も大事なのよ。」
「はい!」
良い返事だ。
気持ちが良いくらい真っ直ぐな目をしている。
この子達がここを巣立っても絶対に死なせたくない。
その為にも私ができる事を教える。
「そう言えば、先生。
竜王バラゼボルド様に何か渡されてませんでしたか?」
私は倒れている竜王バラゼボルドに手を差し伸べて起こしてあげると、「これは友情印。もしどうしても困ったことがあればこの羽に念じれば私はすぐ様駆けつけるわ。」竜王バラゼボルドは快く受け取ってくれた。
拳を交わし合って友になれた気がする。
彼も和やかに清々しい笑顔を見せてくれた。
「あれはね。
拳で語り合った友に渡した絆の証よ。」
あの日から数日が過ぎ、学園での生活も平和そのもの。
平穏な日々が続いていた。
このまま何事もなければ良いのだけれど。
自宅に帰ると、ゼロやレレ、ルルにリリ、レント達が私の帰りをリビングで待っていた。
「ご主人様。お帰りなさいませ。
早速なのですが、不穏な動きを察知いたしました。
邪神イャルドラの復活を目論む組織の噂を耳にしました。」
「レレ姉様。邪神イャルドラ教団は数ヶ月前に勇者ロディアスによって壊滅したはずでは無いのでしょうか?」
「そうねルル。私もその認識で間違いないわ。」
私も邪神教団については噂だが聞いた事がある。
勇者ロディアスと異世界の聖女によって、その企みは阻止されたと聞いている。
この件に関してはロディアスに確認してみる必要がありそうだ。




