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第三十九話 ネクスト・ステージ

「終わらない! 終わらないですよぉぉぉ! 師匠ぉぉぉ!!! 」

「ボクも手伝ってるんだ。泣き言をいうな、ニア」


 あれから数日()ち討伐難易度Sランクモンスターに襲われたルーカスの町は平穏(へいおん)を取り戻した。

 と、言っても()が少し抜けている同居人バトラーのおかげで被害らしい被害はなかった。

 故に「Sランクモンスターに襲われた」というのにいつものような生活を送るルーカスの町の人達。

 いやはやその胆力には敬意(けいい)(はら)うよ。

 Sランクモンスターに襲われたのならば次なる脅威(きょうい)が現れても仕方ないのだから。

 本当は警戒するのが普通で、町になぞに出ず家に引き(こも)るのが常識だろうに。


 そんな町民とは打って変わってルーカスの町を護る冒険者や憲兵達には緊張が走っていた。

 こちらは予想通り。

 前代未聞(ぜんだいみもん)なSランクモンスター襲撃だ。

 魔境ならばいざ知らず普通の町に出ることなんてないのだからこれが正しい反応。

 おかげでボク達は(つぎ)なる――本当は襲ってこないかもしれない――脅威(きょうい)に対して(そな)えるため、こうして多くの魔剣を作り続けていた。


「嬉しい悲鳴だね。ニア」

「工房的にはっ! 工房的には嬉しいですが! 体力がぁ」

「はは。次は魔道具の依頼だ」

「のぉぉぉぉぉぉぉ!!! 」


 工房内にニアの悲鳴が(とどろ)いた。


 ★


「ふぅ。今日も美味(びみ)だ。バトラー」

「お()めに(あず)かり光栄(こうえい)です」

「しかし本当にバトラーさんは料理が上手ですね。師匠は作らいないのですか? 」


 その瞬間空気が――(こお)った。

 急激な雰囲気の変化にニアが右に左におどおどしている。


「なるほど。ニア、君はボクの料理を食べたいわけだね? 」

「え? え? ま、まぁ……。興味はありますが」

「……ニア殿。今日までご苦労様でした」

「え? バトラーさん、何を? 」

「よぉし。今晩はボクが作ろう」

「興味深いです。しかしバトラーさん……。どこへ? 」

「いえ。少し用事を思い出しまして」


「君が個人的な用事があることは今までに無かったと思うが? 」

「……離してください、シャル。そして探さないでください」

「いやいや、ボクと君の(なか)じゃないか。どうして逃げようとする? そんなにボクの手料理が嫌かい? 」

「まだ死にたくないです」


 必死にここから逃げようとするバトラーの様子を見て流石のニアも気付いたようだ。

 顔を青くしている。


「や、やっぱ私は良いかな~。なんて」

「おやニア。君は師であるボクの手料理を食べれないというのかい? 」

「い、いえ。そう言うことではないのですが」

「なら何も問題ないな! 」


 そう言いがっしりとバトラーをホールドしていると受付の方から音がした。

 誰か商品でも取りに来たのだろうか?


「来たぞ! ニア! 」

「げっ! シルヴァ」


 シルヴァの声を聞き露骨(ろこつ)に嫌な顔をするニア。

 ニアからバトラーに視線を移し苦笑い。

 これはシルヴァ、前途多難(ぜんとたなん)だな。


「さ、出て行ってやりなよ。お客さんだぞ? 」

「お客さんはお客さんでもあのシルヴァですよ? 出るのが嫌に決まってるじゃないですか」

「君を命がけで守った騎士(ナイト)に対して、あぁ……少し同情(どうじょう)するよ」

「そ、それに関しては(うれ)しく思います」


 お、顔が(わず)かに赤くなっている。

 これは、少しは脈があるんじゃないかな?


「しかし! それとこれは別です! 嫌な人は嫌なのです! 」


 ソファーから立ち、力説する。

 そうは言うもののさっきの反応の後では恥ずかしがっているのを隠しているように見えるから不思議だ。

 たった一つの出来事で、同じ言葉を言っても違う意味に聞こえるのだから面白い。

 少し赤らめた状態で「勘違いです! 」という表情を作るニアに温かい目線を送りながら(うなが)す。


「ま、嫌な人でも何でもいいから行かないと。相手はお客さんだ。工房(ぬし)たる君が行かなくてどうする」

「さ、ニア殿」


 そう言いながら手際(てぎわ)よくバトラーが扉を開けてニアに出るように催促(さいそく)した。

 そして渋々(しぶしぶ)ながらも彼女は出ていった。


 ★


「……なぁエラルド殿。ボクにはやはり、二人は(なか)がいいように見えるのだが? 」

「私もですね」

「同じくです」


 口喧嘩(げんぁ)、というよりも痴話(ちわ)喧嘩(げんか)に見える二人のやり取りを少し離れたところから見るボク達。

 まぁ、やはりというべきか喧嘩(けんか)になった。


「今日はシルヴァが押してるね」

「ニア殿はニア殿で先日の事が後を引いているのでは? 」

「引き目を感じて(つよ)い言葉で責めれないということか、バトラー」

「ええ。少なくともそう見えます」


 ふむ。そう言われるとそう聞こえる。言葉に覇気が乗っていない。

 まぁこの状態になるまでにボクが「命がけで守った騎士(ナイト)」と表現したのも影響しているのかもしれないが……。


 少し観察した後、目線をエラルド殿の方へ向ける。


「で、こちらが領主から受注(じゅちゅう)した仕事はある程度終わったのだけれどもそちらは大丈夫なのかね? 」

「大丈夫、とは? 」

「これだけの魔剣に魔道具だ。確かに警戒するに()したことは無いけれどもし空振りだった場合、大変じゃないのかな? 資金とか」

「確かにそうですが……。そこは我々ではなくルーカス子爵閣下が決定することなので」

「ま、確かに」


「モンスター、冒険者ギルドの方は大丈夫なのかい? 」

「今の所高位モンスターの発生は確認されておりません」

「ならいいが」

「しかし……何故か従来(じゅうらい)いたであろうモンスターもいなくなり、魔石のみが落ちているという不思議な現象が確認され、何かが起こったのは確かなのですが……。何が何やら」


 その瞬間ボクとバトラーは顔を一気に(そむ)けた。

 あれだ。

 バトラーが放出した聖光が予想以上に拡散されたんだ。

 それでモンスターが消滅したのだろう。

 しかし言えない。バトラーが原因なんて、言えない。


「ま、まぁモンスターがいない事は良い事じゃないか? 」

「それがそうとも言い切れず。我々のような初級冒険者の依頼が無くなるので」


 ……。


 ふむ。これはあれだ。

 ボクとバトラーは何も知らない!

 うん! 何も知らないし何もしてない!


「——で、どう思いますか! 師匠! 」

「——ニアの事どう思いますか! 師として! 」


 急にこちらに話を振る二人。

 エラルド殿と話していたから正直何の話か分からない。


「……えっと」

「「師匠 (シャルロッテ様) !!! 」」


 全く困ったものだ。



 今日も今日とて騒がしい日々を送るボク達だがこれもまた面白く楽しい自分がいる。

 バトラーも時折顔を(しか)めながらでも、どこかこの新しい日常を楽しんでいるようでなによりだ。


 しかしボク達は予想していなかった。

 近い将来、ニアがとんでもない事をやらかすことを。


 <完>

これにて終了になります。


面白く感じて頂けたら、是非広告下にある★評価よろしくお願いします。

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