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第三十話 非日常なる日常

「ひぃぃえぇぇぇ! 」

「何を驚いているのだい? 」

「い、今! 物凄い声が! 」

「Gyaaaaaa!!! 」

「あぁ……。いつもの事だ。気にする必要はない」

「い、いつもの事?! 」

「どうせ縄張り争いでもしているのだろう」


 遠くからモンスター達の咆哮(ほうこう)が聞こえる。

 薄暗い森をボクはバトラー、そしてニアは歩く。

 ボクのローブを引っ張り、くっつきながらも進むニアはその声に(おび)え震えている。

 一歩進むごとに「ひぃ」と軽く声を上げローブを引っ張るその姿はまるで小さな子供のようだ。いや、実際子供だけれども。


 (おび)えるニアを引き()りながらも森を進む。

 するとバトラーが何かに気が付いたようだ。

 同時にボクも魔杖(ロッド)(かか)げてモンスター探知ディテクト・モンスターを発動させた。


「……シャル」

「ああ。分かっている」

「ふぇ? 」


 ()頓狂(とんきょう)な声をニアが上げると同時に(しげ)みの方へ魔法を連射。


魔硬散弾(バレット)


 ドドドドド、という音と共に「「「Gya!!! 」」」という悲鳴が聞こえた。

 ギューッとローブが引っ張られながらも何もない所からモンスター達の死骸(しがい)が出現。


「シャドウ・アサシンだね」


 黒い、バトラーほどの人型を見て軽く呟く。

 それにニアが驚きの声をあげた。


「な、な、なんで何もいない所から?! 」

「この森だとよくあることだ。目に見えるものだけが敵ではないというのが基本さ。こうして魔法や隠密能力で姿や臭い、音を消すモンスターなんてザラだよ。むしろこういうのが出来なければこの森では生きていけない。それが魔境という所さ」

「……帰りたい」


 こうして時折現れるモンスター達を魔法で()(はら)いつつ魔境を進み、ついにボクの館へ辿(たど)り着いた。


 ★


 あれから数か月、ニアの体力をひたすら底上げしていった。

 まだまだ体力面に不安が残るが、人族の寿命は短い。

 体力もいるが知識も同時に吸収しなければならない。


 ボクの館が魔境にあることを知った時のニアの顔はすごかった。

 今思い出しても笑いがこみ上げてくる。

 ま、そんなこんなで今日ニアにはボクの館に来てもらったのだ。


「ふわぁぁぁぁ……。師匠が住む場所すごいですね」


 森の青くさい臭いが(ただよ)う中、ニアが瞳をキラキラと光らせ、見上げそう呟いた。

 

「そりゃそうだ。仮にもSランク冒険者。ちょっとした貴族よりもいいところに住んでいる」

「「ちょっとした」ではなく「かなり」と言い直した方がい良いのでは? 」

「む? そうかい? 」

「ええ。実際の所ルーカス子爵の館よりも立派(りっぱ)ですし……。色んな意味で」


 バトラーが何を言っているのかわからないのだろう。

 ニアはバトラーを見上げて小首(こくび)を傾げている。

 恐らく貴族の館というものを見たことがないのだろう。


 実際問題(きら)びやか、とまではいかないまでも二階建てで綺麗(きれい)外装(がいそう)をしている。

 魔法でコーティングしているから、というのもあるけれど【魔の森のモンスターの間引き】、という指名依頼を嫌々受けた時の引き換え条件として法外(ほうがい)要求(ようきゅう)をした結果でもある。

 ま、常に危険にさらされるのだ。このくらいしてもらっても罰は当たらないだろうね。


「まず中に入る前に注意事項だ」

「? 」


 頭に疑問符を浮かべるニアに少し意地悪な顔をしていう。


「この館にはボクが常にいる訳ではない」

「引きこもりですけどね」

「……。余計なことを言うんじゃない、バトラー。で、時折この館からボクもバトラーもいなくなることはよくある。例えば、そう。ニアの工房にいる時とかね」


 まだわからない様子のニアに続ける。


「ここからが本題なのだけれどもボク達がいない間、この館は無防備になるわけだ」

「……」

「この館には様々な貴重品や、それこそ金になる物は山ほどある」


 ゴクリ、とニアが息を飲む。


「それじゃぁいけない。ということでこの館にはボクが直々(じきじき)に、様々な刻印魔法や魔技を使って罠を仕掛けてあるんだ。つまり……」

「つまり? 」

「余計なところを不用意に触ると大変なことになるから注意してくれ、というわけだ」

「は、はい! 」


 ニアが元気な声をあげるとともにバトラーが遠い目をする。

 まだ引き()っているようだ。

 だが今回は事前に注意した。大丈夫だろう。

 そう思いながらもボク達は館の扉を開けた。


 ★


「赤い絨毯(じゅうたん)に魔道具の光……。師匠はやっぱりお金持ちだったんですね」


 中に入るや否やニアが呟いた。

 周りをキョロキョロと見て周りつつ広い玄関の先へ行く。

 ボク達はそれを微笑ましく見ながらも後を付いて行った。


 確かに赤い絨毯(じゅうたん)はあるし魔法の光も(とも)っている。

 だがこれくらいならば普通に貴族の館に行けばあるだろう。

 魔道具で光を(とも)すくらいならニアならば自分で作れるだろうに。何を今さら感があるが自分の家で見るのと人の家で見るのとではまた違う、というところか。

 自分で納得しながらも子供のようにはしゃぐニアを見ていると――


「あ」

「え? 」


 床と壁が光り、刻んだ魔法が発動した。

 瞬間危険を察知(さっち)したバトラーが移動しニアを抱きかかえてその場を撤退(てったい)


 ドン!


 同時に上から大槌(ハンマー)が落ちてきた。

 轟音(ごうおん)を鳴らし、床を陥没(かんぼつ)させた大槌(ハンマー)はまるで役目(やくめ)を終えたかのようにそのまま消える。

 と、まぁ古典的な罠だけれども単にマジックバックの原理を応用しただけの罠で何てことは無い。

 ただ大槌(ハンマー)の大きさが少しばかし大きく、かなりの重量を(ほこ)っているだけで。

 ふむ、と自動修復されていく床を見ながらバトラーに目を移す。


 ボクのところまでニアを運んだバトラーは彼女を降ろす。

 ニアはその様子を呆然(ぼうぜん)と見ながらも我に帰りガタガタ震え始めた。


「し、師匠……。あの罠って」

「最初に言っただろう? 罠が仕掛けてあるって」

「こ、殺す気満々(まんまん)な罠じゃないですか?! 」

「……フッ! ニア。館に入った賊にこのボクが慈悲(じひ)を掛けるとでも? 」


 そう言うと「うぐぅ」と(うな)り始めるニア。

 そこはすぐに否定して欲しかったのだけれど。

 入った賊が悪いのは確かなわけで気にした方が負けだ。

 しかしこの程度の罠で驚いてもらっては困る。このくらい(じょ)の口。対策を()れば対処(たいしょ)が可能な罠なんて面白(おもしろ)()の何もないものを設置するはずがない。

 顔を少し強張(こわば)らせるバトラーを見つつニアに声を掛ける。


「さ、行こうニア。ここにいても(らち)はあかない」

「……わ、分かりました」


 こうしてボク達はニアが時々無意識に起動させてしまう罠を回避しながらこの資料室へと向かうのであった。

ここまで如何だったでしょうか?


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