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第二十八話 落ちるシルヴァ

点検(てんけん)? 点検(てんけん)ならばわざわざボク達の所に来なくても(やかた)にお(かか)えの魔技師がいるんじゃないのかい? 」

「確かにいますが今回は謝罪も()ねていたので」

「なるほど。(よう)はついで、というわけだ」


 そう言うと軽く顔を強張(こわば)らせた。

 (とが)めたのではないけれど、少し言葉を間違えたかな。

 しかし「ついで」とまではいかないまでも少しこちらと(えん)(むす)んでおきたいのかもしれないね。


 様子を見るため軽く目線を剣に移す。

 外からは分からないか。


「手にとっても? 」

「構いません」


 持たれていたソファーから体をおこして(さや)ごと手に取る。

 目の前で軽く魔剣を引き抜いて様子を見た。

 長さは見た目通り長剣(ロングソード)ほど。しかしかなり使い込まれた様子だ。剣の本体に破損(はそん)はないものの何度も()いだ形跡(けいせき)がある。専門外のボクでもわかるほどに。


 窓から差し込む光に当てて軽く刻印(こくいん)を見る。

 そこには幾つもの刻印魔法が刻まれ――


「ほう……。魔技師が刻んだのか」

「ご明察(めいさつ)です」


 幾重(いくえ)にも張り(めぐ)らされた魔導線(ライン)が見えた。


「最近少々調子が悪かったので点検(てんけん)にを、と考えたのですが如何(いかが)でしょうか? 」


 良い状態ではないのは確かだ。

 かなり使い込んだのだろう。魔導線(ライン)にも幾つか断絶(だんぜつ)しそうな部分が見える。

 刻まれた魔法や魔導線(ライン)の構成自体はボク達が刻むものほどに複雑なものではない。

 しかし普通の基準から見れば高水準であるのは確かだ。


「ちょっと痛んでいるね」

「やはりですか」


 剣を見ながらそう呟く。

 指名依頼、か。正直乗り気じゃないな。

 普通に運ばれてくるものを直すのはいいのだけど、指名となると別だ。

 何も知らない顧客が依頼してくるのと『こちらの価値』を知って持ってくるのでは話は別だ。

 どうしたもの……あ、いい事を思いついた。


「修復できるけど……」

「? 」

「ボクは――高いよ? 」


 そう言うとエラルド殿の顔に緊張が走る。

 魔技師ギルドの名誉統括(とうかつ)というのを抜きにしてもSランク冒険者に依頼するのだ。安いはずはない。

 それを指摘されて(ふところ)の心配をしたのだろう。


「ち、(ちな)みにおいくらに」

「初回限定ということで、普通のSランク冒険者に指名依頼を出す金額まで降ろしてあげよう。なぁにいつもならそれに上乗せで魔技師ギルド名誉統括(とうかつ)への、魔技師としての依頼金額も上乗せするのだからこの良心的な金額に喜び(たま)え」


 更に顔を引き()らせるエラルド殿。


「そこでだ。この依頼。ボクじゃなくてニア、工房主に出さないかい? 」

「ニア殿に、ですか」


 それに(うなず)く。


「あぁ。ニアならば直接ボクに依頼するような金額にはならないだろうし何より技術はコンテストで証明されたばかり。体力の低さや性格的なものを見なければ一流の魔技師だ。それこそこの魔剣を――今回は修繕(しゅうぜん)だけれども――、一から作れるほどに、ね」


 そういうと少し考え込むエラルド殿。

 ま、普通一流と言われても今喧嘩(けんか)している彼女を見て「そうですか」と(うなず)けないだろ。

 元より魔技師に関わらず職人というのは一流に上がるまでかなりの時間を(よう)する。

 だから――いくらボクが説明したところで――年少のニアが一流に到達(とうたつ)しているとは思えない。

 もしそう思うのであれば幼女趣味(しゅみ)の変態か、単純な馬鹿かそれとも――


「分かりました。ではそちらのニア殿に任せましょう」


 高度な観察眼を持ち、見極め、高い決断(けつだん)力を(ほこ)才人(さいじん)タイプかのどれかだ。


「よし! ニア! 仕事が入ったぞ! 」

「——シルヴァ(ごと)きが……え? 」

「——んだとニア。おま……え? 」


 一斉(いっせい)に何を言われたのかわからない風にこちらを見た。


 ★


 事の流れを伝えた後ニアに説明すると案外緊張もなく剣を手に取り観察した。

 出会ってからしばらく経つがどうも彼女は魔技師としての仕事や魔道具のことになると人見知りや緊張のようなものが吹き飛ぶらしい。

 まぁそれでもコンテストの時のように大量の人が集まったらダメなようだが。


「出来そうかい? 」

「出来ると思います。以前に師匠から習いましたし」


 仕事場でニアがそう言う。

 ボク達は今仕事をする為の大きな机で顔を合わせていた。


 横にはバトラーが、後ろには客人(きゃくじん)二人がいる。どうも見学をさせて欲しいとの事。

 これが職人ならば事情が変わるのだが彼らは使う側で依頼者。しかも貴族子息とその付き人の貴族家当主と来た。(ことわ)る、という選択肢は最初からない。


「おいおい、ニア。大丈夫か? 壊したら弁償(べんしょう)ものだぞ? 」

「大丈夫です」


 シルヴァの挑発(ちょうはつ)めいた言葉に真剣な語気(ごき)で答えるニア。

 今までの雰囲気とは打って変わって真剣味と自信がある声に少したじろぎ「ふ、ふん」と鼻を鳴らしてこれ以上何も言わないシルヴァ。

 それを少しおかしく思いながらも軽く正面で剣を再確認している(まな)弟子を見る。


 以前のことから彼女——ニアは尋常(じんじょう)ではない集中力を持っていることは知っている。

 コンテストも終わり仕事をしていき、彼女に技術を教えていく段階で新しく気付いた彼女の才能は『再現性』だ。

 正確に言うならば『再現性』というよりも『超高度な学習能力』。

 ボクが教えていくのをどんどんと吸収していく。まさに天才タイプ。

 まだ研究方面に才能があるかはわからないが、今後が楽しみな人材である。


「では――始めます」


 観察していた剣を丸く少し大きめな――回転式の台に置く。

 手に太い機材を手に取り集中しながら呟くように開始の言葉を言う。


拡大(エンラージメント)投影(プロジェクション)


 そして魔法を発動させた。


 ★


「綺麗だ……」


 シルヴァはその光景に思わずぽつりと呟いた。

 彼の目の前には大きく拡大された魔剣の拡大部分——魔導線(ライン)や刻印魔法が(ほどこ)された部位——が映し出されていた。


 シルヴァにとっては始めての光景だった。

 少なくとも(やかた)で剣を振ったり冒険者ギルドで依頼をこなすだけでは見られない光景。

 先ほどまでのやり取りをすでに忘れてその光景をぼーっと見ている。


 この限界にまで拡大された魔導線(ライン)をその小さな手で持った魔道具で一度――焼き切る。


 ジュッ! っと音がするとともに異臭が(ただよ)う。


 瞬間、魔導線(ライン)が再構成される。


 (一体……なにが)


 異常な集中力から()り出される超速の神業。

 異臭(ただよ)う中エラルドと同じく何が起こったのかわからない。

 それほどまでに一瞬。

 そこから次々に修復されていく。

 武人である二人でも見えないほどに微細(びさい)で高速で行われる作業。


 そしてついに――作業が完了した。

ここまで如何だったでしょうか?


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