第二話 狩りと出発
太陽の光が降り注ぐ中、輝く手のひら大の魔石を三つはめ込んだ魔杖を持って地面を踏みしめる。
GyaGyaと上から音が聞こえ遠く耳を澄ませば爆発音が聞こえるな。
いつものことだが、今日も彼らは元気らしい。
「縄張り争いは構わないが……っと」
独り言を言っていると地面が軽く揺れる。
ジャイアント系のモンスターかドラゴンが暴れているのか、はたまた大地の怒りを使うモンスターか。
刺激しないに越したことは無いな。ここは魔境だ。下手に刺激して連鎖反応を起こすのも馬鹿らしい。
「さて。手土産の調達と行こうか」
軽く魔杖を回して青々とした森を進んだ。
★
「シャルにも困ったものです」
朝食後館の掃除をくまなくしたバトラーは執事服を軽く正して玄関の方を見る。
彼の顔には少しばかしの不安が。
「彼女に死なれては困るのですが」
そう独り言ちながらも扉の方へ進みノブに手を掛けた。
が、一瞬止まる。
(毎回のこととはいえ、まだ引き摺っているのが女々しいですね)
ふぅ、と軽く息を吐きバトラーは扉の向こうへ踏み出した。
★
「多いなぁ」
向かってくるゴブリン・ソルジャー達に火球を放ち、燃やす。
しかしまだ緑の軍勢は止まらない。
「さっきの縄張り争いの影響か? 全く人の迷惑というものを考えてくれたまえ。そもそも君達はお呼びではないのだよ。風魔連弾」
迫る緑の大群に無数の緑に光る魔法陣を展開させて風の魔弾を放つ。
ドドドドド! という音と共に汚い悲鳴が聞こえる。
全く汚い声だ。それにこの臭いはいつになっても慣れれない。これならばまだあの錬金液の方がまだましだ。
「朝からこれだと一気に焼き尽くしたい気分だよ。今日は厄日か何かか? 飛行」
緑の魔法陣が体を通り過ぎ景色が変わる。
緑の軍勢を見下ろした状態で次の魔法。
「これで最後にして欲しいね。風の大槌」
展開された魔法陣から巨大な風圧がゴブリンの群れにかかる。
ふむ。リーダーやジェネラルもいたようだが関係ない。
そして一気に緑の絨毯は赤いシミとなった。
赤く染まった大地を見ながら消臭を使い臭いを消す。
サッサッサッ……。
ん? 足音?
振り向き、魔杖を向ける。
「全く酷い臭いですね」
「何だバトラーか。消臭を使っているのだが、その酷い臭いというのはボクの事だろうか? もしそうならばボクは町に行くという生産的でない仕事を取りやめるのだが? 」
「違いますよ。ゴブリン達の臭いです」
バトラーは鼻をつまんで木の影からそう言いながら姿を現した。
そこまで酷いだろうか?
消臭はきちんと機能しているようだが。
ボクにはわからないが狼系である彼には感じるものがあるのかもしれない。
「まぁいい。だがバトラー。君はどうしてここにいるのだい? 」
「……住み込み先である貴方に死なれたら困るからですよ」
「ボクが何十年ここに引き籠っていると思うんだ? 中央付近ならともかくこの辺でやられるわけがないじゃないか」
鼻をつまみながら近寄るバトラーに呆れて言う。
しかし、まぁ人に心配されるのも悪くはないな。
神獣だけれども。
「さぁバトラー。先に進もう。手土産と資金調達だ」
「……せめて臭いだけでもどうにかして欲しかったです」
前を向いて更に奥へ向かう。
鼻を抑えて近寄るバトラーの声を無視して。
★
「魔法効果最大化・風刃」
「獣王爪斬! 」
魔法を放つと上に陣取るレッサー・ドラゴンの首にヒットした。
だが切り切れないらしい。
悲鳴を上げながら逃げようとした瞬間黒い影が横を通る。
バトラーが武技を発動させて上空へ移動し首を撥ねた。
ポトリと首と体が落ちる中、少し不満な顔を向ける。
「バトラー。獲物を横取りするとは何と恥知らずなフェンリルだ」
「あのままだと逃げられていたでしょう? 」
伸ばした爪を元に戻してアイテムバックへ詰め込みながらボクにそう言うバトラー。
「そんなことは無いさ。次の軽やかな一撃で倒せてたさ。このボクが逃がすはずないだろ? 」
「魔法威力最大化の弱点は連射が効かないことと膨大に魔力を消費することだと貴方に教わった、と記憶しているのですが」
「確かにそうだがボクをその『一般常識』に当てはめないでくれ、バトラー。ボクは常に最新式だ。その辺の弱点は克服しているさ」
軽くそう言いアイテムバックにレッサー・ドラゴンを詰め終わったバトラーがこちらに向かってくる。
「さぁ。帰りましょう。シャル」
「帰りは君の背中に乗せてくれるのかい? 」
バトラーは「仕方ない」と言った表情をし、体を銀色の巨狼に変化させる。
それにまたがり館へと帰った。
★
魔境の館、シャルロッテの自室。
「準備は済んだのですか? シャル」
「この天才美少女シャルロッテ様には抜かりはないよ」
美少女? とバトラーが言うが、全く失礼な奴だ。
まだぴちぴちの二百十八歳だというのに。
そもそも年齢で言うならばバトラーの方が年上だということを彼は忘れていないだろうか?
アイテムバックに様々なものを詰め込み、立ち上がり見上げる。
この部屋とは少しばかしのお別れだ。罠の方のチャックもしないとな。
ベット近くの窓へ行き軽く魔力を流す。
起動は大丈夫そうだ。
次に机、椅子、本棚にとそれぞれチェックをしていくがどれも大丈夫だ。
「一先ず全部大丈夫なようだ」
「……ここに入る強盗が不憫でならないですね」
「強盗に入るのが悪いんだ。ボクは悪くないよ」
「それはそうですが」
バトラーの方を向くと何か考えているようだ。
少し遠い目をしている。
きっとこの屋敷に来た当初の懐かしき思い出でも思い出しているに違いない。
最初に彼がこの館の罠に引っかかったのは……。
そう考えていると現実に戻って来たようだ。
こっちを見て背をピンと伸ばす。
「では行きましょう。ルーカスの町へ」
「ああ、行こうか。懐かしき町へ」
館の外へ出てバトラーは巨狼へと体を戻す。
それに飛び乗りふかふかな感触を確かめる。
三十年。さて彼の町はどう変化しているかな?
銀色の狼は町へ向かう。
巨大な狼が街道に出たと、途中騒ぎになる事を失念していたのは言うまでもない。
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