表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エルフ師匠ともふもふ従者の魔技師少女育成日記  作者: 蒼田
第一章 魔技師エルフと借金少女
1/39

第一話 エルフの魔技師とフェンリルの付き人

 (いた)る所で爆発が起こる。

 パニックに(おちい)った研究員達が逃げようとするが魔法に巻き込まれ命を落とす。


「何で……何でっ!!! 」


 (くや)しい。

 悲しい。

 そして何より――目の前の狂気(きょうき)()ちた同僚(どうりょう)(にく)い。


「はははははは。貴方は間違っている! このような素晴らしい魔法をたかが刻印魔法で終わらせるなんて!!! 」

「貴様ぁ!!! 」


 水が、(したた)り落ちる。

 臭いも何も感じない。

 ただあるのは悔しさ。

 悪用(あくよう)されたという悔しさ。


「底辺を()いずり見ていろ! 僕が、この僕が王国を変えてみせる!!! 」


 そしてボクは――。


 ★


「何かつらい夢でも見たのですか? シャル」

「……あぁ。夢か」


 背中にもふもふとした感触を感じる。

 あの時の冷たい部屋ではないようだ。


 再度体を沈めて少し横を見た。

 銀色の毛並(けな)みに(おお)われて顔までは見えないが恐らくいつものように毅然(きぜん)と顔をしているのだろうことが予想できる。

 視線に気が付いたのかその巨体を(ひね)り顔をこちらに向けた。


「今日はいつもよりも甘えん(ぼう)ですね」

(うるさ)い。バトラー。デリカシーというものを身につけろ。そういう時は何も言わないのがマナーだ」

「神獣たる私には『マナー』は必要ないと思うのですが? 」


 狼顔(おおかみがお)異議(いぎ)(とな)えるも溜息(ためいき)をつきながら立ち上がり、振り返る。


「そんなんだから同じフェンリルから求婚(きゅうこん)が来ないんだよ。バトラー」


 そう言い神獣『フェンリル』ことバトラーを置いて部屋を出た。


 ★


「バトラー。ボクは肉を所望(しょもう)する」

「……朝から肉は少々胃に負担をかけすぎだと思うのですが? 」


 狼獣人の姿を取ったバトラーに軽く目線をやって言うがどうやら彼は反対らしい。


 肉食の狼が何を言うのだね、全く。

 彼はフェンリルで、神獣で、人とはかけ離れた存在だとしてもその本能を抑えるとは(なげ)かわしい。

 いや、フェンリルだからそもそも根幹(こんぽん)的欲求が(こと)なるのか?

 是非(ぜひ)知りたいな。


 軽く目をやると何か言いたそうだ。

 良いだろう。是非ともバトラー君の意見を聞こうじゃないか。


「肉を食べたいのならばご自身で料理をしたらいいのでは? 」

「バトラー。長い付き合いでわかっているだろ? ボクが料理をしたらどうなるか」

「これは失言(しつげん)でしたね」


 不快(ふかい)なものだ。分かって言っているのだから彼も意地が悪い。


 彼の料理の腕が上がったのがまるでボクのせいだとでも言いたそうだ。

 いや実際ボクの料理は壊滅的だ。認めよう。

 死にかけた状態から息を吹き返したフェンリルが再度死神に呼ばれるほどだったようだが、本当かどうかはわからない。

 確かにこの世界には宗教上死神は存在することになっている。

 だが実際ボクはそれを見たことがない。

 見たことがないものを信じろと言われても無理がある。

 ボクは現実主義なのだ。


 ふむ。どうやら準備が終わったようだ。

 少し離れたところにいたバトラーがボクの座る丸い木の机に白いパンを持ってきた。

 軽く音を立てず大きく太い銀色の尻尾を振り、ボクの前と対面にパンを置くと少し離れて(たな)へ行きガラスのグラスを手に取り机に置く。そしてグラスに音を立てずに水属性魔法で水をゆっくりと(そそ)いだ。

 見事なものだ。(きた)えた甲斐(かい)がある。


「どうされたので? 」

「いやなに。ボクがワイン好きなのを知って目の前で水を(そそ)ぐとは良い度胸(どきょう)だと思ってね」

「朝からワインとか馬鹿(ばか)ですか」

「頭の回転を速めるにはそれが一番なのだよ。アンダーソン君」

「アンダーソンではありません。バトラーです。誰ですか、アンダーソンって」


 いつものやり取りに嘆息(たんそく)しながらも付き合うとは彼も中々真面目だねぇ。

 まぁいい。食事と行こうか。


「では。食事と行こうか」

「「森の(めぐ)みに感謝を」」


 (いの)りの言葉をした後、まるで出来立てのような白いパンを口に頬張(ほほば)り軽く水に口をつけながら食事をとった。


「そろそろ町へ行く時期では? 」


 食器(しょっき)を片付け広い(やかた)の二階に上がる中、後ろから声が聞こえてきた。

 はて、そんな時期だったか?


「……首を(かし)げても約束の日程(にってい)までもう少しです。(あきら)めてください」

「そうは言うが……。はて、そんなに経ったか」

「エルフ族と人族では時間間隔(かんかく)が違うのですから……。きっとお相手は待ちくたびれていますよ? 」

「……神獣の君がそれを言うかい? 」


 振り返り、嘆息(たんそく)する。


「まぁこれに関しては君の言う通りだ、バトラー」

「それは良かったです。駄々(だだ)をこねられたら、と思うと気が気でないので」

「人族の心配をするとか変わったフェンリルだ」

「死にかけのフェンリルを拾った貴方も大概(たいがい)だと思うのですが」

「こりゃ、一本取られた」

「否定して欲しかったのですが」


 少し歩きながら部屋へ向かう。


 広い道を進む。とてもじゃないが一人ではこれを管理できない。なのでボク直々(じきじき)に掃除をしなくてもいいように刻印(こくいん)魔法を(きざ)んでいる。

 それでもバトラーは掃除をするが……。彼の綺麗(きれい)好きには困ったものだ。


 歩く中、それぞれに刻まれた刻印に不備(ふび)がないか軽く手で触り確認。

 どこも大丈夫なようだ。


「バトラー。ボクはこれから手土産でも作る。後のことは任せたよ」

「ほどほどにしてくださいね。やり過ぎる(くせ)があるので」

「重々承知(しょうち)してるよ」


 バトラーが白い扉に手を掛ける。

 ゆっくりと開き、後ろに向かって手を振り、作業に取り掛かろうとした。


「……バトラー。また何も言わずに片付けたな」


 綺麗な部屋をみて独り()ちた。


 ★


「ふぅ。これで全部だな」


 白く背の高い机の上に道具を置いて確認する。


「さて何を作るか……」


 木で出来た椅子に背もたれ丸く太いペンを見つつ考えた。


 あの夫婦の事だからな。普通の物では納得しないだろう。

 この地ならではの物でも作るか?


 軽く周りを見渡すと、入った時にはなかったものが目に入る。

 約束の日、ということはあれから三十年経っているということだ。

 ならば経験も()み目も()えているだろうし……何が良いか。


 何か物を持ってきてくれれば一番助かるのだが、まぁ無理だろうし。

 そもそもボクのような魔技(まぎ)師は刻印魔法を(おも)とする。刻印する物が無いのならどうしようもないじゃないか!


 ダン! と机を叩き立ち上がる。


「よし! 幾つか素材を手土産に渡して何か別の物に刻印してやろう! それが良い」


 軽く(うなず)き腰に手をやる。

 着けている小袋型アイテムバックの中に機材(きざい)を放り込み足を扉に……。

 ふと頭を何かが(よぎ)って移動をやめる。

 軽く頭を(ひね)りながら、ちらっと古びた素材を見て、思いついた。


「何なら新鮮なものを送るのもありだな。それに幾らか(かせ)いでおくのも良いか」


 再度前に進みだして扉を開け、一階で掃除をしているバトラーに声をかけて館を出た。

お読みいただきありがとうございます。


面白ければ是非ブックマークへの登録や広告下にある★評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ