3.金髪の少年
「ま、待って下さい、殺し合いだなんて・・冗談ですよね?」
シイナは嘘を言っているように見えないが、
嘘で合ってほしいと願いながらイツキは言った。
「嘘など言っていない」
分かってはいたが、その言葉が重くイツキにのしかかる。
頭がパニックになりそうだった。
それもそのはず、いきなり「死んだ」と言われ、「被験者」と言われ、
訳も分からない場所で、ついさっきまで名前も知らなかった相手に、
「殺し合いに参加する」だなんて言われたら、
常人であれば誰だってパニックになる。
「あの、参加したくないです・・というか参加しないです!」
イツキの表情から笑顔と余裕が消え、少し声を荒げて言った。
シイナは特に表情を変える事無く、
「参加の拒否権は君にはない。
君は本来であれば死んでいたはずだったがローレンが生き返らせた、
そしてここで私も君もGWR14神の遺物の実験体として駒にされる。
勝って自由になるか、それとも次は本当に死ぬか答えは二つに一つだ」
おかしい、こんなの間違ってる・・そうだ、警察に!
イツキは慌てる様にスマートウォッチのモニターを操作して、
電話機能から110番とダイヤルを打ったが・・
「おかけになった連絡先はご利用できません、番号をお間違えになったか、
端末の持ち主がお亡くなりになられたか確認をもう一度お願いします。」
と自動音声が流れるだけだった。
イツキは何度も何度もやり直す。
「パニックになる気持ちは分からなくもないが、ここに助けは来ない。」
「・・どうして?」
イツキはただ俯いた。
「この実験施設に送られる人には共通の特徴がある、
一つは死んだという事、そして二つ目は罪を犯したという事だ。」
「・・罪って・・僕は何もしていないです!」
「まぁ自覚がないだけだろう、実際罪には色んな種類がある。
結果がどうあれ君はもうじき人を殺すか、死ぬか選ぶ時が来る」
そう言いシイナは立ち上がり部屋を出ようとした。
イツキの目には涙が浮かび始めていた。
「そこに100クレジット入れてあるこの階に売店があるから何か飲め」
シイナは思い出したように、そう言い放ち部屋を出て行った。
イツキは我慢していた涙がこぼれ始めた。
「ぼくがどうして、何をしたっていうんだ、父さん、母さん会いたいよ・・・」
ー---シイナは部屋を出て暗い表情をしていた。
ふと顔をあげると、3階にいた隊員達がシイナの方をみて直立し頭を
下げていた、いや正確にはシイナの目の前にいる
ワッペンにSの文字が入っている男に
『お疲れ様ですリン大隊長‼』
そこにいた隊員達が声を揃えて言った。
シイナも姿勢を改めて正しく直し直立した。
「お疲れーっす、シイナちゃん暗い顔してるね」
男はイツキのいる部屋の方を見て小さく笑い。
「あーね新人研修か。
君はいつもルーキが来ると、悲しそうな、申し訳なさそうな、暗い顔をするよね?」
「そんな事はないです」
食い気味にシイナは言葉を返しその場を後にした。
一方イツキも少しは冷静になり、
このまま個室に居ても意味がないと売店に向かう事にした。
スマートウォッチのナビ機能は優秀で使いやすく、
売店のまでの道のりがハッキリ表示されていた。
ただ、冷静になったとはいえ、現実がまだ呑み込めずにいた。
そんなイツキの足取りは重い。
売店に向かう途中色んな声が聞こえた。
「俺はさ、前の戦いで3人も倒したんだぜ」
「私やっと分隊長に褒められたの!」
「あそこにいる二人付き合ったらしいよ」
「俺の親友はもう戻ってこない・・・」
「ブルーチームの連中俺を恨んでるだろうな!」
色んな声でこれが現実だとイツキはめまいがしていた。
今にも倒れそうになりふらついていた時、
何もない段差に躓き力が抜ける様に倒れかけた。
あ、まずい・・・力が抜けて・・
イツキが倒れかけた瞬間一人の青年が手を伸ばしてきた。
「あっぶな!おいおい大丈夫かよ?」
その声でイツキは「ハッ!」と正気になり顔を上げた。
「ありがとうございます」
顔を上げたイツキの目に入ってきた人物は、
金髪の短髪、イツキと同じくらいの身長と体格、
同じくらいの年でいかにも元気が有り余っているような生き生きした青年だった。
「よいしょっと!」
青年はそう言いながらイツキの歪んだ服を整え、一息付き。
「頼むジュース一本おごってくれ!」
あまりにも急だった為イツキは驚いた。
「今金無くてさー分隊長に貸してくれって頼んだんだけど駄目でさ、
喉が湧いて死にそうなんだ頼む!」
深々と頭を下げる金髪の青年、イツキは慌てて。
「そんな頭下げないで下さい、お礼をしたいのはこっちですから」
金髪青年は満面の笑みで
「あざっす、俺カケル」
イツキも自己紹介をしてカケルと共に売店に向かった。
売店に到着すると店主と思われる女性が、
耳にワイヤレスヘッドホンをかけて鼻歌を歌っていた。
ショートカット青髪で、紺色の目、整った容姿、軍服の上着を脱ぎ、白色の長袖姿。
なんだかその女性から不思議な雰囲気が漂っていた。
「よ、ミコト!」
カケルは馴れ馴れしい口調で言ったが、
ミコトと呼ばれたその女性は苦い顔をしていた。
「なんしに来た?クレジット無いやろ?」
ミコトは少し低い声で言った。
どうやらカケルがクレジットを持っていないのを知っている様だ。
「あまいなミコト、俺は救世主を見つけたぜ!」
カケルの言葉にミコトは少し驚きつつイツキの顔を見た。
「あーそう、それでその可愛い顔した子があんたに奢ってくれる訳?」
「僕が買います!」
イツキがそう答えた後、ミコトはため息を吐き。
メニュー表を手渡してきた。
イツキはお茶を、カケルはソーダを注文した。
ミコトは二人の飲み物を準備しながら、
「あんた名前は?」
「イツキです!」
「初めて聞いた、分隊はどこ?」
「第十分隊です。」
「あー中々大変な所だね、
私が売店の管理している時なら安くしてあげるからまた来てね。」
イツキは軽く頭を下げてジュースを受け取り、
カケルと共に近くの椅子に腰かけた。
「ぷはー---生き返るは!」
炭酸ジュースをがぶ飲みするカケル。
「ありがとな、イツキお前のおかげでこんな上手いジュースが飲める」
「こちらこそ、ありがとうカケルさんがいなかったらこける所だったから」
「ぷはっ・・・ははっはははは」
カケルの笑い声につられてイツキも笑った。
ここに来てから自然と笑えなかったイツキは心が落ち着いた。
「なぁイツキお前と話すのは勿論初めてだけど、
俺お前の事見たことなかったぜ今日まで」
イツキはカケルに今日ここに来たことばかりな事、
ローレンとシイナに言われた事、正直状況がまだ呑み込めてないことを話した。
「まじか、今日来たばっかりかよ!」
カケルは驚いたのと同時に、うなだれて言った。
「俺新人からジュース奢らせたのかよ、最低じゃん」
イツキは首を横に振り
「大丈夫です、話を聞いてくれる人が居てくれるだけで嬉しいですよ」
「イツキお前いい奴だな」
カケルはジュースを机の上に置き、
両手でイツキの肩に手をのせ体を強くゆすってきた。
「でも分隊長がシイナさんってどゆことだー--!」
イツキは目が回りそうになった。
「うちの分隊長なんてゴリゴリの筋肉マッチョのゴリラだぞー--!
シイナ分隊長みたいな美人がよかったー--!」
イツキは慌ててカケルを止めた。
「分隊長ってシイナさん以外にも?」
「そら分隊長だからな、
・・・そうだな・・組織について俺が教えるよ!」
カケルは腕を組み先輩気取りで話した。
色々カケルの個人的な意見が詰め込まれていたが、ざっくりまとめると。
イツキやカケル達はCランク、
最底ランクで主に新人や特に好成績を出していない人達が中心。
ヒビキ達がいるBランク、
Cランクの中で好成績を出した者、
ある程度一人で戦える人達が中心であり、
Cランクを勝ち上がった定員500人のそれなりに優秀な兵士。
シイナ達Aランク
C、Bを差し押さえかなり優秀な兵士達で、
このランクからは分隊長として、
一つのチームを指揮する権力を得る。
また戦闘や判断能力がかなり高く、
複数人相手でも一人で捌けるチームの要で定員は100人。
最後にSランク・・・規格外のやばい連中。
戦闘能力は言うまでもなく他ランクの人達よりずば抜けて高く。
Sランクのいる戦場は基本「逃げろ」としか指示が出せないほど強い。
Sランクは分隊長をまとめる大隊長としての権力を得られる。
定員は5人。
ちなみにランク決めはAIが自動で行う為、能力を隠してあえてランクを下げる事、
逆にランクを上げる事等の不正は一切行えない。
「まぁこんな感じだ」
「なるほど、つまり僕はシイナさんの部下・・・最悪だ怖すぎる」
「そうそう、まぁうちの筋肉モリモリゴリラのヤマ分隊長に比べたら
シイナ分隊長なんて女神みたいなもんよ!」
声を大にして笑うカケルと頭を抱えるイツキ。
「おい、誰がゴリラだぁー」
低い声と共にカケルの顔が青ざめる、カケルのすぐ後ろには、
筋肉モリモリのリーゼントヘアとゲジ眉が特徴のゴリラ・・・ではなく
大柄の男が立っていた。
年齢は20代半ばくらいだろうか、身長は190cmはある。
カケルは震えた声で、
「やだなぁーゴリ・・じゃなくてヤマ分隊長」
「カーケーールー----‼」
カケルがすぐ立ち上がり走り出した。
「冗談すよゴ、ヤマ分隊長‼」
ヤマが後を追いかける
「カケルー--潰すー--!」
遠くの方で声が聞こえた・・・
「ジュースありがとなイツキー--またなー---‼」
その声はだんだん遠くなっていった。
最後まで読んで頂きありがとうございます。
カケルは今後イツキの成長に大きく関わってくるキャラクターの一人なので、
是非中目してみて下さい。
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