1. 終わりから始まる
残虐なシーンが含まれる場合がございますので、
苦手な方はご遠慮下さい。
雨天の空、冷えた風、
そんな悪天候の中一人の少年は傘も差さずに
目の前に広がっている都会の街を眺めていた。
雨風の冷たさ、街の騒音がどこか心地良く、
街を行きかう人々や車、電車の騒音がうるさく少年の耳に響く。
少年はそんないつもと変わらない街を、
ただ静かに眺め黄昏ていた。
しかしそんな黄昏の束の間、
雑音と雨音を一瞬でかき消してしまうほどの大声?
いや女性の叫び声が急に後ろから聞こえた。
「イツキー---!」
イツキは慌てる様に後ろを振り返る、
そこにはいつも笑顔でイツキを見守ってくれている母親の姿があった。
いつもの母親とは違い、悲しそうな、怒っているような、
ただならぬ表情で目から涙が零れており、
目の周りがぼんやり赤くなって、
髪の毛からは雨の雫がたれ、息が上がっており呼吸が荒い。
「イツキどうして・・・」
今にも倒れそうになりながら、
イツキの方に手を伸ばしながら歩いてくる。
「どうしたの母さ・・・・・・・」
少年がその言葉を言い終わる前に、
急に視界が歪み、瞼が重く閉じ何も見えなくなった・・・・
━━━━「キィ―――――――ン」
頭が痛くなりそうな酷い耳鳴りと共にぼんやりと意識が戻る。
ただ何も見えず、耳鳴り以外何も聞こえない。
手や足がまるで無いかのように動かそうとしても、その感覚がない。
何がどうなっているんだ?
あれ、僕は何をしていたんだっけ?
確かさっきまで・・・・
少年の意識が少しずつハッキリ戻って行くのに連れて、
耳鳴りも少しずつ静かに治まり始めた。
・・・そうするとだんだんと男の声が聞こえ始めた。
「おは、、、」「おは、、う」
「おはよう!」
その声がはっきり聞えた時、
イツキの重く閉じ切っていた瞼が一瞬で開いたのと同時に、
耳鳴りが一瞬で止んだ。
飛び上がるようにベットから起きるとそこには、
大きな鏡と病室のような照明。
さらに、40代身長190cmほどで、
長めの黒と白が混ざった髪をオールバックにし、
ピシッとシワ一つない黒のスーツを身にまとい。
いかにもどこかの社長といったような凛とした立ち姿の
男がこちらを見ていた。
「えっと・・・」
イツキは突然の事すぎて何を言うべきなのか、言葉が詰まった。
男はこの状況になれているか、
特に表情を変えることもなく冷静なまま口を開いた。
「私は、ローレンだ気分はどうかな?」
ローレンと名乗った男の手には何やら沢山の資料があった。
状況がいまいち分からず、辺りを見渡し、
手や足が問題なく動く事を確認した。
そして少しの沈黙を得てようやく言葉がでた。
「ここは病院ですか?」
イツキの言葉に特に反応を示す言なく
ローレンは分厚い資料を開き得意げに話し始めた。
「草薙 伊月君
18歳、現在高校3年生で部活はテニス部、
両親ともに高校の教師違いはないかな?」
イツキはゆっくり頷いた。
「イツキ君ここは病院というよりも医務室・・・いや」
ローレンは資料から目を離しイツキの方を向き、冷静なまま。
「君は死んだ」
と一言放った。
「・・・・・・・え」
イツキはその言葉があまりにも唐突すぎて、
一瞬誰に言っているのか分からなくなり、
自分の意志とは関係なく言葉が漏れる。
ローレンの目ははっきりとイツキを見ていた。
イツキは不意にローレンから目をそらし、目の前にある鏡の方に目を向けた
現に鏡には短い黒髪に高くも低くもない平均的な身長。
体格はテニス部というのもあって少し筋肉質で、
やけに灰色の病衣が似合っている。
少しまぬけそうな顔をしているイツキ自身が写っていたからだ。
「何を言っているのですか?」
おもわず笑みがこぼれ安堵と共にローレンの顔を見た。
ローレンは表情一つ変えず、
まるでイツキがそう言うと分かっていたかの様に、
「まぁー無理もないね」
とただ一言、
言い終わると資料に挟んでいた、複数の写真をイツキに手渡した。
そこには血を流して倒れている少年が写っており、
強い衝撃が加わったのか、壁や地面に血が散乱していた。
周りの人の目線からこの写真が作り物ではなく、
現実に起こった事だと理解する事はできた・・・が。
「これが僕と何の関係があるんですか?」
イツキは気分が悪くなりそうだと写真をローレンに返しながら言った。
「おや、これは君だが」
「悪い冗談ですね、医者がそんな事言っていいんですか?」
「なら、これで信じるかな?」
ローレンは病室の隅にあるテレビの電源を入れた。
「本日午前10時頃、市内の男子高校生、草薙 伊月君、
18歳が商店街裏路地で倒れている所が発見されました。
その後病院に搬送されましたが、お亡くなりになられました。
警察は事件の可能性もあるとみて捜査を進めています」
テレビの電源が切れて、
「イツキ君、君は死んだ」
ローレンは再びそう言った。
「・・う、嘘だ」
イツキは静かくそう言った後。
慌てる様に立ち上がり、鏡で体のあちこちを確認する。
写真に写ってた少年は、誰か判別できないくらい損傷していた。
しかしイツキの体には傷一つ無かった。
「・・ここは天国ですか?」
「天国?・・・天国ではないかな」
ローレンは苦笑いをしながら言った。
「イツキ君、君は確かに死んだ、
だが私が生き返らせたのだよ、
正確には特殊な技術で死ぬはずだった君を、
助けたと言う方が正しいかな。」
イツキの恐怖は全く解消されず、冷汗がでた。
写真に写っていた自分の姿から、
傷一つ残さずに治療ができるはずがない。
これは夢なのではないかと、
頬をつねったり、顔を両手でビンタしたが、
ヒリヒリと痛みが残るだけだった。
「歩きながら君の体に何が起こっているか説明しよう。」
ローレンはスライド式の扉を開け、
イツキを部屋の外に誘導する。
イツキは不安そうに、ローレンに誘導される様に部屋を出た。
長い先の見えない白い廊下に、
薄暗い赤オレンジ色のネオンライトが壁に埋め込まれている
幅3mほどの広い廊下を二人は歩き始めた。
「イツキ君、我々は特殊な薬を開発していてね。
君に投与した薬は、GWR14通称『神の遺物』と呼んでいる。
この薬はどんな怪我でも1~2時間ほどで完治することが出来る。
ただ副作用でね、幸か不幸か人には本来ない組織が生れ、
単純な身体能力が大幅に強化される。
そしてこの薬が神の遺物と呼ばれる
一番の理由が寿命という概念を無くし、
特殊な異能力を手にいれられるからだ。」
イツキは意味が分からなかった。
身体強化?異能力?寿命が無くなる?
一体何の話をしているんだ・・・
まるでアニメや漫画のような話に、
イツキはますます混乱していた。
しばらく歩くとローレンが止まり黄緑色のラインが入った、
まるでSF映画に出てきそうな扉に手を当てると
(ウィ―――ン)扉が開く。
そこにはGWR14と書かれた黄緑蛍光色の液体が入った瓶が
大量に並べられていた。
その部屋の広さと瓶の数にイツキは驚きを隠せなかった。
「凄いだろ」
ローレンは自慢げにイツキを中に誘導する。
「イツキ君ここに来る人達は、最初は皆混乱するのだよ、
しかしすぐに何が起こっているのか理解できる。」
ローレンはポケットから小さなナイフを取り出した。
「しっかり見ていなさい」
ローレンはナイフで自分の手のひらを切った。
赤い血が流れ、床まで滴っていく。
「ちょっと何してるんですか!」
慌てて駆け寄るイツキに対して、
ローレンは待ったと止める様に手を前に出した。
ナイフを机の上に置き、
銃のような形をした注射器にGWR14と書かれた瓶をセットした。
ローレンは大きく息を吸い込み自分の腕に注射器をさしトリガーを引いた。
力が入っていたのか、痛いのか・・・
「うぅー」
と小さく息がぬけたローレンの手には
先ほど切った傷が無く完全に完治していた。
イツキは目を疑った。
「傷が・・・」
ローレンは何事も無かったかのように再び廊下に出て歩き始め、
イツキも後を追いかける。
「GWR14、神の遺物の効果信じてくれたかい?」
イツキは先ほどまでの不安や恐怖は納まり、驚きと興奮だけが残っていた。
「こんな薬があるなんて今まで知らなかったです!」
「知らないのも当たり前だよ、こんな薬が世に出回ったら大変だからね」
イツキにはこの意味があまり分かっておらず首を傾げた。
「まぁ高校生には難しいだろうが、こういった薬は今の世界には都合が悪い、
しかし現在2035年より25年前の2010年頃には
公式で伏せられているが、医学は神の領域まで来たのだよ」
再びローレンは別の扉に手を当てた。
今度は球場の観客席のような場所で、
大きなモニターが無数にならんでいた。
ローレンとイツキは座席に腰を下ろし、
モニター一台に電源を入れた。
そこに写ったのは、ガラスの割れた廃ビル、
アスファルトの間から草や木が生えていたりと、
ゾンビ映画に出てきそうな崩壊した都市の姿だった。
「これは?」
イツキは映画を見ている気分でいた。
「これはイノセンスフロント我々が管理する実験施設だ」
「実験施設とはどうゆう事ですか?」
ローレンは俯き、淡々と話し始めた。
「現在2035年9月24日よりも200年ほど前、
不治の病と呼ばれている病気があった・・・
その病を患った人は次々に亡くなり、
その病を治す術はないと言われていた。
しかし医学が進むことで、
そんな病も直すことができるようになり。
今では秘密裏ではあるが、
GWR14というどんな病気も傷も治す、
まるで神の力とも言える薬を開発することができるようなった。
しかし、どんなに手を尽くしても治すことが出来ない、
昔から現代社会まで広まり続ける病がある。
私はその謎を解明する為にこうして実験施設を建てたのだよ」
ローレンは表情一つ変えず長々と話し終えた後、
顔を上げ一息ついてから。
「イツキ君、君も私の実験の被験者に選ばれたのだよ」
イツキは、被験者という聞きなれない言葉に戸惑いと緊張を隠せなかった。
「被験者、どうゆう事です?」
ローレンは少し笑い。
「さっきも言っただろ君は死ぬはずだったが私が治したと」
イツキは自分の体が、
小刻みに震え始めているのに気付いた。
「イツキ君、君にはここで人生をやり直すのにふさわしいか
生き残りをかけたテストを受けてもらう。
もし君がこの病の解決にたどり着けたら君は晴れて自由の身だ。」
イツキは嫌な予感とともに席から立ち上がり逃げようとした矢先、
そこには見たことのないような銃を構えた、
ガスマスクの特殊部隊3名ほどが立っていた。
慌てて後ずさりをするイツキの耳に、拍手の音が聞こえた。
「パチパチパチパチ」
「クサナギイツキ君ようこそイノセンスフロントへ!」
大きく腕を広げ
いままで冷静な顔をしていたローレンが初めてその表情を変えた。
まるで悪人のような、なんともいえない不気味な表情で笑っていた・・・
特殊部隊の一人が銃の引き金を引き
「パシュン!」と小さな音と共にイツキの首に麻酔弾が命中。
視界が歪みイツキの意識が遠のいていった・・・・
最後まで読んで頂きありがとうございます。
初めての小説投稿になります!
この小説を面白く読んで頂く為に、
この実験施設は何をモチーフにしているか考えて頂けたら、
そこから色々先が読めてくると思います。
私ヨルはあまり小説を読んだ事がございません。
誤字や、表現に違和感がございましたら遠慮なく言ってください!
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