第四十二話 そのポーター、改めて賢者(馬鹿)の凄さを知る
僕が心中でハルミにツッコミを入れると、ヌイモリは耳障りなほどバタバタと翼を羽ばたかせてきた。
「おい、吾輩を何度も無視するなであ~る! いくら何でもそこまで無視されると、魔人である吾輩も少しばかり悲しくなってくるのであ~る!」
「うるっさい! こっちは今取り込んでいるんだ! いいからヌイモリはそこで翼を静かに羽ばたかせてて!」
直後、ヌイモリは驚きの表情を浮かべた。
「き、貴様……今、吾輩のことを何と呼んだ?」
僕は首をかしげた。
「ヌイモリって言ったんだけど」
「き、貴様! なぜ、吾輩の〈魔名〉を知っているのであるかああああああ!」
まな? まなって何?
魔物の魔に名前の名で〈魔名〉とでも呼ぶの?
「説明しよう」
いつの間にか、カーミちゃんが僕の隣に立っていた。
「〈魔名〉というのは、魔人が魔王から与えられた特別な名前のことじゃ。魔人はこの〈魔名〉を他人に隠している限りは、とてつもない戦闘能力を維持できる。しかし、ひとたびこの〈魔名〉を他人に知られたり言い当てられたりすると、たちまちその魔人の戦闘能力は激減するのじゃ」
要するに、僕は幸運にもその〈魔名〉を言い当てたということだ。
そうなると話が違ってくる。
カーミちゃんの説明によれば、僕に〈魔名〉を呼ばれたヌイモリの戦闘能力は激減するという。
「ぐあああああああああああああああ――――ッ!」
突如、ヌイモリは翼を羽ばたかせながらもがき苦しみ始めた。
それだけじゃない。
再びヌイモリの全身が大量の煙に覆われていく。
おお、もしかしてあれかな。
戦闘能力が激減したことで、さらに可愛らしい見た目になって弱くなるってことかな。
僕はそのことをかなり期待した。
ヌイモリの見た目がもっと小さく可愛くなり、約53万の戦闘能力が530ぐらいになるのを。
それぐらい弱ってくれれば、今の僕の力でも十分倒せる。
やがてヌイモリの全身を覆っていた大量の煙が晴れたとき、僕は口を半開きにして目線を上にあげた。
「まさか、吾輩の〈魔名〉を知っておったとは誤算だったのであ~る。おかげでこんな弱々しい見た目と力になってしまったのであ~る」
そんなことを言ったヌイモリの全身は完全に変わっていた。
小さくて可愛らしいどころか、ヌイモリは約3メートルを超える巨体へ変貌したのである。
そんなヌイモリの背中には、大人の頭部ほどもある鉤爪がついた2枚のコウモリの翼が生えている。
加えてヌイモリの下半身は、漆黒の体毛を持つ雄牛ほどの大きさの黒狼に変化していた。
ありのままを話すよ。
つまり弱体化したというヌイモリの上半身はリアルな巨大コウモリの姿をしていて、下半身はこれまた巨大な狼がくっついているという姿をしている。
ダンジョンの中でたまに遭遇するケンタウロスも真っ青な異形な姿だった。
「え~と、カーミちゃん。僕の目には弱体化どころか強力化したように見えるんだけど」
「いや、あれでも相当に戦闘能力は激減しておる。ざっと今のあやつの戦闘能力は24万ぐらいじゃな」
まだ強いじゃあああああああああああああああああんッ!
「カンサイ、覚悟しろなのであ~る! 吾輩の〈魔名〉を知ってしまった以上、貴様だけは絶対にグチョグチョのベロベロの〇〇〇の××××で△△△△△にしてやるのであ~る!」
あ、これはマジのガチでマズいやつだ。
僕が明確な死を悟ったとき、カーミちゃんは「すまない」と謝ってくる。
「よもやハルミのスキルの中にお主の力を一時的に取り戻せるスキルがないとは……こうなったからには朝日が昇る時間まで待たなくてはお主の【神のツッコミ】の力は戻ってこん。じゃが、日の出まではあと数時間もある。無念じゃ」
と、カーミちゃんが悔しそうに歯噛みしたときだ。
「え? 勇者さまのあの謎の力は朝が来れば戻るんですか?」
そう質問してきたのはハルミである。
カーミちゃんは「そうじゃ」と首を縦に振る。
「正確には朝日が昇れば戻る。太陽の力によってツッコミというものは光輝くからじゃ……などとハルミに言ってもどうしようもないがの」
確かにそうだ。
まさか、ハルミのスキルの中に「朝を夜に変え、もしくは夜を朝に変える」という森羅万象の摂理に反するようなスキルがあるわけがない。
「もう、それなら早く言ってくださいよ」
ハルミはパンッと1回だけ柏手を打った。
「それなら僕の秘奥義スキルの1つ――〈昼夜逆転〉で今すぐ朝にしましょう」
嘘だろおおおおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!
あるのかよおおおおおおおおおおおおおおお――――ッ!
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