第一話:トラブル・イン・ザ・学院
.................
.......
ちゅーちゅ~~!ちゅーちゅ~~!
鳥の囀りが聞こえてきた。
うぅぅ....これは朝だぞって知らせにくるタイプなのかしらね。
「お嬢様、起きて下さい」
ん?なにか声が聞こえてくるようだけれど、リンデーなのかな?
ゆさゆさ、ゆさゆさ。
この感触も、私の毛布に包まれている身体を揺さぶってくる何者かによって起こされてるんだし。
もう、分かっているよ、リンデー。起きればいいでしょ、起きれば。
「ふーん、ふ~~わー!眠い~~。でも起こしてにきてくれてありがとうね、リンデー」
昨日はジェームズとの訓練試合で必殺技である【あれ】を使ったから【リデローット・オーラ】の大量な使用で疲れたからなのかぐっすりと眠れてなんの夢も見てなかった気がする。
「お嬢様を目覚めに参りましたのが当たり前ですよ。本日は今年に入ってからの【王立リーゼレッタ戦術学院】新学期の初日ですし、3年生となったばかりのお嬢様も今日だけは何としても遅刻を避けたいはずなので、決死の思いでお嬢様を起こして差し上げにはせ参じましたよ」
「はあぁぁ...相変わらず堅い口調で真面目なんだね、リンデー」
まあ、いつものことなんだけど。
豪華な真っ白いフリルのついたカーテンを引いて大窓を開けて、自室に射しこんでくる陽光の量が増え、いっきに朝の始まりの象徴を部屋に充満させた。
それから、部屋を出た私は大風呂で身体を浴びて、ここのリビングルームの大理石づくりの長いテーブルへと朝食を取りに腰をかけたが、
「制服のリボン、曲がっているぞ?」
「あ!?そうでしたわね、お父様!し、指摘して下さって感謝致します」
お父様に指摘に対して慌てて襟元のリボンの位置を正した。
お父様、つまり、エグベルト・ルー・カールディシュオッスは【セリシア戦役】で戦い抜いてきた母国の英雄なので、娘としても誇らしい気分なので彼の厳しさを脇に置いても自然に尊敬の意を込めて常にお父様に対して敬語で話しかけるようにしてきた。お父様の厳しい性格に相まって、髪もなんとなく整っているようでいて、それでも何か規律正しく、相手に隙を与えさせないような強い印象が受けるショートヘアーなのだ。
そして、リンデーという私の専属メイド兼学生補助係も私の隣に座り、一番近い陶器とガラスで出来た数々のコップ、プレートと食器を私の方に持っていき、出される予定の朝食を運んでくる他のメイドと執事達を30秒ほど待って眺めている。
「今日は初日で開校式があってな。全校生徒集会で学院長から発表があるはずだから、もしそこでキャサリン姫殿下と挨拶を交わせるようなら、くれぐれも失礼のないよう
に心構え給え」
えー?そうだった、今年は初めて私達の2年まで過ごしてきた学院に、王族の者が入学してくるようなことがあったようなないようなって程度に噂を聞いていたが、先日どうやら王都でニュースが流れ、正式的に王女の編入が決まったとの発表を聞いたばかり。だから、お父様も私が姫殿下との接触に対して粗相がないか心配なんだね?
「はい!承知致しましたわよ、お父様。我がカールディシュオッスの名と名誉に誓って、必ず良い第一印象と相応しき作法と礼儀で姫殿下との挨拶と交流を心掛けていきますので、どうかご安心して下さいませ!」
「うむ、その意気やよし。お前も知っての通り、ここ100年間もの間に、我々の【ノールティンゲン大栄王国】には戦うことを中心に育てられてきた王族の者では男性の方が主な対象で、稀にではあるが王女という立場の人間でも戦士...つまり、戦場に駆り出され将軍とか何かの地位で軍隊を率いるという機会もなきしもあらず。だが、今回の件は明らかに今までと違いすぎる事は...分かっておるな?」
お父様の視線がいっきに鋭くなり、眉もつり上がったようになってるけど、伝えたいことがわかるので、こう答える、
「十分理解しておりますわよ、お父様。『歴代の王女姫殿下の中で』、もっとも【リデローット・オーラ】の多くて、一番の量を持つ保持者であるということは耳に入れておきましたから」
そもそも、【王立リーゼレッタ戦術学院】というのは、この世に突如として出現する謎の怪物、【レーイザリーエッド】に対抗するために、そいつらと戦えるようになってもらう【リデローット・オーラ】保持者を育成・訓練させていく機関なのだ。結論からして、入学してくるような王族は大抵、みんなが戦士となるのが前提だ。だから王子だろうが王女だろうが、ここへ入学しに来る時点で、育成の余地はある量の【リデローット・オーラ】を体内で宿しているに違いない。
「分かっておるならよろしい。これからは国の最大となれる戦力だということは容易に想像できるから姫殿下の事を間近に見て、自分も精進していけるようにロールモデルとして観察と注意を怠るなよ。そして、言うまでもないが友達にでもなったら姫殿下をサポートしてやって上げてくれ。公爵家の我々には願ってもない功績を詰めるチャンスなのだぞ?」
「また政治的な含みで話するの、アナタ?素直に友達として力になってあげて~なんて言うんじゃだめでしょうか?」
お父様の横からお母さまの突っ込みが入った。いつものことなんだけど。
「うるさい。では、トーストとハムを早く食うんだなエッセリアーよ。遅刻するぞ?」
「はい!」
急いでもぐもぐとパンやスコーンを頬張る私とリンデは数分間ですべてを平らげて通学路につくために家を出ていった。
「相変わらずお父様も心配性だな。人間関係において、ジェームズ以外は丁寧に淑女として接することのできる私に、且つ貴族としての礼儀作法や高等知識も十分に教わってきた私に不足などないというのに....」
「お嬢様の身を案じてのご注意でしたよ。寛大に感謝するべきかと...」
「まあ、分からなくはないけど....でも一々にそういうの言わなくても分かるんだってば~~」
「やれやれですね。お嬢様もそういうふうに拗ねたりばかりしなさらずに、良い事だけに集中してお話し合いしましょうね、ね?」
と、今度は満面な笑みとなって、私の機嫌を直すようにと腕をからんでくる。
ぽよよ~~んっという擬音が来たのでどうやらリンデの腕が絡んできすぎて、密着状態で私の胸が前へと押し出されるようだ。
こうして近くで見ると、薄い茶髪をしているリンデも案外に魅力的な容姿もしているんだよね。
フリルのついた細長くて小さいメイドキャップを頭に被っている彼女は、前髪とが右側だけで前へ出るように長くて、そっち側にある顔の半分とか目が隠れているようだけど、反対側の髪の房が少なくて、耳の近くまで長い房が垂れているだけ。
そして横髪と後ろ髪がショートヘアーで後ろで全てが三つ編みで束ねられて、なんか少しだけでボーイッシュな雰囲気も感じさせながらも、それでいて何故か後ろのその膨らんでいる三つ編みがどこか女性としての面影も覗かせる可愛い髪型なのだ。
自分もルックスに関しては負けていないどころか、むしろ高い評価をどこにいってももらってきたばかりなんだけど、リンデのは彼女特有の美しさがあり、私にはないベクトルでの美があるので同じ女性としてなんだかちょっとだけ羨ましいというか...
数分間、この歴史ある厳かな感じの灰色の石で舗装された町の道路を進んでいく内に、左右の立派な建物がする飲食店とか服屋の数々がこの後、数か軒で途絶える。
そう、先が長くて左右を木々で並べられて、真っ直ぐいくと豪華な鉄製のゲートと高い柵で足止めになり、その横には関門みたいな詰め所があって中への入居許可を取る衛兵が配置されている。
「では、身分証と【リデローット・オーラ識別波長】も特定できたし、今年も頑張って文武共々勉強や訓練に励んでいらっしゃって下さい、カールディシュオッス嬢」
「ありがとう、ケニソンさん。もう2年間になったね?ここで警備任務につくのって」
「そうですね。王国の指折り上位の公爵家の出でもあるカールディシュオッス嬢ですし、お顔を覚えない方がクレイジーですよね」
それはそうだ。身分証明が必要なのはあくまでも体裁や制度上に必要な入稿手続き仮定で、必ずしもとある種の偽装系の【リデローット・成術】で別の人が私とか他の本人に成りすまし入ってこようとしたからチェックする訳ではないということだ。
「ずっと毎日で会ってきたのだから今年は最後の年末ということらしいので、少しだけ残念に思う気持ちもありますが..」
「あら?ケニソンさんはもしかして私が留年した方が良いのかしら?」
「とーとんでも御座いません!ただもうカールディシュオッス嬢みたいな尊敬できる方がもういらっしゃらなくなるのかって考えるだけでただただ悲しいというかなんというか...」
と、たわいのないことを言い合う私とこの常備している兵士へ、
「お嬢様、ケニソンさん。雑談はほどほどにして、早い内に行きましょうね?初日で沈黙してしまってはお嬢様専属メイドとしてである私が旦那様にお顔向けできませんので」
と、冷たく注意したリンデーは何の遠慮もなしに私に組まれた腕をもっとぎゅっと圧迫して、強引にでもここの詰め所から中へと連れて行こうとする。
心なしか、何故かケニソンさんに向かってものすごい睨んでいる様子だが、気の所為かな?
「頑張ってお行きに、ですよお嬢さん方!ヴァレンシア父神のご加護があらんことをーー!」
尚も歩き出していった私達二人に応援の気持ちを伝えてくる。
こういうところのケニソンさん、ただの一般の王国軍兵士なのにいい態度と礼儀で接する者には貴族か庶民関係なしに親切になるのも彼ならではのいいところだ。
たたたた....
たた...
初日らしく、生徒の通っていく姿が多いな。
学院のメイン棟へと繋がるこの白い石製の道路も清潔感に溢れていて、まるで人の足跡も残せないような何か魔法じみた力が作動しそう(まあ、実際に何かの【リデローット・成術】もかけてあったような気もしなくもないが深く調べようとしないままなんで分からない)
「もう2年も通ってきた通路なのに、相変わらず新学期の初日だけやけに長く感じられるよね、ここを歩くのって」
「単にお嬢様がまだお休みボケが抜けきってない証なのでしょう?まったく...」
「ふふ... 見透かされちゃったか]
お互いに笑顔になってじゃれ合う主人とメイドである私達。
傍から見れば、主従関係よりきっと友達同士に映ってしまうだろう。
まあ、無理もない。
だって、ジェームズ以外に長い間人生を共にしてきた【正真正銘の親友】みたいな関係なんだからね、私とリンデーは。確か、10歳の頃からだったっけ?
リンデーがうちの屋敷へきて私の専属メイドになったのって...。 お互いが同い年なのに関わらず。
タタタタ....
ター
「目が節穴か『異肌』外人ーーー!!とぼけるなー!!」
「「ーー!?」」
そんなに平和的な心境で鼻歌も交えて徒歩中の私達に、そういう怒号が轟いた。
何事だー?
「だ、だから、さっき僕も言ったけど、ただ普通に前を向いて歩いていただけなのに、そちらがいきなり近づいてきてぶつかってきたとしか見えないようなことするんじゃー」
「今度は言いがかりかい?異肌君?まったく、異教徒らしく良く嘘をつこものだね、ちぇちぇちぇ...」
「ケビン様のおっしゃる通りだ。異肌系外人であるお前はこの学院へ特例として交換留学できたのが精々な偉大なる国王陛下のお情けで!じゃないと、なんでよりによって、エラマニヤーとかなんとかっていう訳の分からん他所の神を信じるカルト集団、それも昔から何度か越境事件、戦争や小競り合いも続けてきた【西の異物国】の者を我らが敬愛するヴァレンシア父神を心から崇拝する我らヴァレンシア教徒が大半数の【ノールティンゲン大栄王国】にある学院への入学が許されたのーーーー!??」
そんな会話と論争を聞きながら、騒ぎの中心へと歩き近づく私とリンデー。
どうやら、メイン棟の校門のすぐ横で、木々のある脇で人だかりができている様子だ。
もっと集中して目を向けると、何やら揉めている最中か、数人の男子生徒がよってたかってもう一人の学生らしき少年を糾弾中のよう。
責めている側の集団は見る限り、私達と同様にこのノールティンゲン王国のどこにでもいそうな金髪、赤髪と茶髪の人間ばかりで、肌の色も少しだけの濃い加減もいるようだがあまり私達とかけ離れてないような薄いか、もしくは真っ白い肌をしているばかりだ。
それに対して、糾弾された方の男子学生は怯えているように身を縮こまらせている最中なんだが、一見すれば明らかに私達ノールティンゲン王国民とは異なる外見を持つ者であると確認できた。
まずは髪の色。
我々と違って、漆黒の闇みたいにしっかりと黒い色を帯びていて、『黒髪』と呼ばれていても差し支えない表現。
ノールティンゲン王国に、いや引いてはこのアールンドリッジュ大陸全体においてはそういう『黒髪』をしている人はまったくないと教えられてきたんだが、『大陸外』か、あるいは国境を越えて西方にある【西の異物国】という俗称もつけられている隣国の民ならいるにはいるけど....。
「僕個人じゃなくて、『僕みたいな人種』が学生として入学できたのが嫌だからといって、僕に非があるようにとか、あることないことか捏造したりとか罪をなすりつけてこないでよーー!」
「んだとーーー!ケビン様に口答えでもするか、この異肌ーー!!」
軽く右拳ストレートを喰らわせようとしたケビン(?)っていう親玉の手下だったけど、反応神経が良いのか黒髪の子に避けられた!
そう、私達と最も違う外見といえば、髪の他には彼が異肌と呼ばれるようになった象徴でもある、彼の肌色にだ。
何故なら、白い肌をメインにして産まれてきた我々ノールティンゲン王国民と違って、彼の方は濃い褐色肌をしているからだ。
「お嬢様、どうやら冤罪をしかけられ絡まれそうですね、あの...おそらくは隣国グラナルーシアからの留学生は....」
「そうだな。おそらくケビンという群れの中心人物は私達みたいな貴族家の者で、グラナルーシア人憎しで何かトラブルをおかして冤罪で彼をこの学院から追い出そうとしているんだろう。ケビンという男にとって、何かの非を彼に被せることが出来ればたとえそれが証明できずに言いがかりであろうともこれ以上の両国間との外交上問題を避けるべくグラナルーシア人の学生を学院側が退学させざるを得ないように仕向けようとするんだろうな...」
「では、お嬢様、我々にできる選択というのは?」
これは難しいところだな。
世が世なら、罪のない人間を助けてやるような出来た人間には目指したいところなんだけど、生憎と、私には私なりの『立場』がいる。
私達二人もお父様やすべてのカールディシュオッス公爵家の人間もそれほどに、敬虔な【ヴァレンシア教徒】という訳ではないが、明らかに隣国グラナルーシア人でしかも異教徒である彼の者を我が家の人間で庇うような真似をしたら、世間体がどうなっているのか容易に想像ができる。
危うくすれば、異教徒のために同じ【ヴァレンシア教徒】である彼らに立ち向かって、ヴァレンシア父神への裏切り行為として歪に解釈される恐れもなくはないから。
「厳しい判断なんだけど....この場ではスルーする以外あまり選択肢がないと思うぞ?」
「...かしこまりました、エッセリアーお嬢様。専属メイドとしての私、もう7年近くお嬢様に仕えてきましたが、これほどの最適な判断をお下しになられた機会は他に御座いません。ジャクリンデー・ウェーストコットとして、ご主人様のご意向に従うまでのことです!」
「よろしい...。では、行こう、リンデー」
「承知しました」
何事もないかのように、学院の校門を通ろうとする私達....。
そんな中で、
「これで正当防衛ですよーー!せやーっ!!」
ボコボコ――!!
「うぐー!」
「あうぐーーー!!」
「ほう?ワタシの大事な『友人達』をさも赤子の手をひねるように一撃だけで気絶させられた様子だが、これならどうだ?」
ビュウウウゥーーーーーーン!!
ん?突然に、大量な【リデローット・オーラ】の上昇を感じ取ったけど、これはもしかして学院の前であれをーーーー!!?
「抵抗して調子に乗ったり暴れ出したりするなら死になさいーー!異肌で忌々しきエラマニヤー教徒よーーーー!君ほどこの聖なる学院に相応しくない人間はいないーー!」
いかない!さすがに人殺し事件がこの学院にあっては神聖なる学び舎として何年も席を置いてきた学生の私としてもあってはならないので、それだけは何としても防がないとーーー!!
「喰らいなさいーー!【直線状中級雷貫波!】」
「お嬢様ーーーー!!」
リンデーから呼ばれたのも気にならず、気が付けば振り向いた私は大分の距離で飛び退ったばかりのケビンの方へ視線を向け、そして彼の両手から放たれたあの【直線状中級雷貫波!】に向かって、術式を唱えようとしたが、
すうう....
「ーー!?」
【リデローット・オーラ】を体内から集めて手へと集束しようとした私だったけど、いきなり手のひらの表面で形になる前に霧散した感じがーー!?
「ーー!?」
前を見てもケビンも私みたく狼狽しっぱなしで、自分の発動しようとした【直線状中級雷貫波!】が綺麗さっぱり消え失せたことに対して戸惑っている顔しているだけ。
「やれやれだわ。初日の内になに人の学院で大技をぶっ放そうとするの?壊れるじゃないのよ!」
ター!
そして、その凛とした声が発生すると同時に、ケビンとその手下やグラナルーシア人との間に人影が降てきて、両方をこれ以上に衝突させないよう中心に立ちはだかる。
「ーーの、....ノールティンゲン王太子妃殿下....」
青ざめた顔をした金髪ショートなケビンは、その人影の正体が誰であろうかと確認した途端、そんな反応をしてすぐさまそこで無言となってすくみ上った。
そう。そこで学院生の服を身に付け、ティアラを金髪セミロングで横髪が縦ロールの頭に被ったのが他でもなく、このノールティンゲン大栄王国が第一王女、キャサリン・ルー・ノールティンゲン王太子妃殿下だ。
こ、これからどうなるのーー!?
_______________________________________________________




