プロローグ:エッセリアーとジェームズの日常
ここは涼しい天気。
天井にまで昇る日はその光をここ、石材で出来た壁と塔や石畳みを清潔感の強そうな、それでありながら威厳もある真っ白いモチーフをメインに揃えているデザインで統一された建物全体を眩しく照らしている。
カチャー!!カチャカチャーーーーン!!
その陽光は空から真下にある城のとある一角、天井もないような屋外の広間らしきところに射された。
だけど、何故か金属製同士がぶつかり合うような耳鳴りな音が何度も聞こえてきた。
その広い空間の中心に、お互いに剣を握り持っている二人の男女がそれぞれの相手を鋭い眼差しで睨めっこしながら後ろへ後退し、さっきからずっと続いている剣戟の攻防も中止した模様。
見た目からして二人とも若いのか、10代半ばかそれ以上の年頃みたいな顔立ちと体形だ。
そして、まるで意図して見るものすべての視線を奪えるようにどっちもが黄金色みたいな輝かしい金髪を揃えているその男女は一定の距離で対峙しており、ずっと動かずに相手の動きに注意を払っているところのようだ。
どうやら、それぞれはこの国で正式に採用された騎士見習いの服を着ているようで、学生らしく鎧の装着も最小限だけにとどまり身動き易さを重んじるような仕様。
.......
「やっぱり、相変わらず強いんだね、ジェームズ!」
ついさっき彼と剣をかわし合っていたからなのか、未だにひりひりと両手に痺れを感じるままになっている私。
「そうかな?僕はまだ手慣らし程度にしか剣を振っていない気がしたんだけど、もう参っているのかね?」
褒めたのに、いきなりドヤ顔になりながら自分の前髪をかき上げている彼にそういうことを言われた。
むっ~!なにそれ!失礼わね、この幼馴染くんは!
不適な笑みを見せながら挑発してきたジェームズにカチンときた私は、
「冗談はよせ。たかがこれ程度の手抜きの剣さばきでよく言えたものだな。でもー!」
目には目を、挑発には挑発に、だよね?
幼馴染に少しでも自分の実力を味わわせたくなる私は爆発したような衝動で【リデローット・オーラ】を込めて彼の真正面まで駆けだしていった。
そしてー!
「もらったー!!」
そう。
一秒前の彼はまだ剣を有利な構えにせずに、そのブロードソードを下向きに片手でぶら下がらせたままなんだ。
いくら将来はすご腕の剣士になれるとちやほやされてきたお調子者な我が幼馴染ジェームズといえども、反応できる速度のはずがーー!??
[おっと」
!!?なんと!?涼しい顔したままバックステップだけで私の渾身の一撃を避けきってみせた!あれほどの瞬発力もあった私の繰り出した猛烈なスピードでのロングソードの突き刺しだったのにーー!?
「ば、バカな!これはお父様に最近の訓練できっちりと叩き込まれたカールディシュオッス家に代々伝わる秘奥義なのだぞ?高等学院2年生だった去年の私達、【王立リーゼレッタ戦術学院】2年生最後の試験を経てそれから年末の長期休みに入ってからお父様の元で2か月間もみっちりと激しい訓練で苦労してやっと使えるようにはなったのにどうして見切れるの!?」
仮にも、私はこの【ノールティンゲン大栄王国】の建国後400年も経った今の指折りのトップ5入りの莫大な【リデローット・オーラ】の保持者なのに、幼馴染の方はそれの不足さをただの剣士としての技量とバカ鋭い反応神経だけで補えるというのーー!?
後ろへ下がったジェームズは信じられないような目で見据えながら疑問を口にした私に答えるように、
「ああ,噂には聞いているよ。なんでも、エッセリアーの父君はその【爆雷速猛剣刺穿】という【リデローット・成術】の達人で、カールディシュオッス家においてかつてない程の技量で使いこなせる秘伝だとか。10年も前から【セリシア戦役】で大活躍したカールディシュオッス将軍だったのでさすがというべきか。そんなすごい父君を持つエッセリアーならきっとそういうのも直々に教わるものなのかなって予想して、きっちりと自主鍛錬で対策も講じてあったんだよ。トレーニングに集中した部分は
『高速標的を肉眼とリデローット・オーラの瞬間的察知』をメインにしたから、功を奏したかさっきのエッセリアーの放った【爆雷速猛剣刺穿】をなんとか辛うじて見切れて後退して避けられたんだよ 」
「そ、そんな.....」
さりげなく、『なんでもないよ』とばかりの科学者ぶっての冗長な口調で説明してくれたジェームズの言葉がショックすぎて、まともな反応もできない私。
やっぱり、『千斬全当の剣剛戦雄男子』と呼ばれるだけあって、その類稀なる剣の才能として産まれ持っているジェームズならではの荒唐無稽な芸当なのだな!
ジェームズよ、私と同じ公爵家の者でありながら、なんでこんなに剣の実力がこんなにかけ離れてるんだろう....
髪の色も同じし、どっちもが一人っ子の家庭に生まれてきたという共通点もあるのに、どうして剣の腕だけ彼の方がこんなに私との差がありすぎるっていうの?
ど、どうするんだよ?さっきのは私の最大にして最後の切り札の必殺技のつもりだったんだから、あれも交わされたようじゃ勝負もついたと同意味じゃないか!
「どうやら勝負ありだな」
戦意をなくした私を憐れんだ視線で眺めた後、彼は自分の持っているブロードソード、愛用の【ガルガンチュア】を背中の鞘に納めた。
「ーえっ?なんだジェームズ!?いきなり剣を仕舞ってて...こ、これは実戦を想定して始めた訓練のための試合の真っ最中なんだから、私が気絶するまでに攻撃を加えに来ないのか!?」
情けをかけられた方が惨めなので、そう言って食い下がる。
「不要だね。戦意喪失したような未熟な幼馴染ちゃんに向ける剣と拳などないのだから。では、新学期の学院でまた学生として会おうー!」
「な~っ!!言ったなジェームズ~~!誰が未熟者ですってー!?おい、こらーー!逃げるなこの鬼畜男子はーー!!」
さっきの言葉を言い終えるやいなや、すぐさまここの城の訓練場から退場しようと小走りにあそこのドアへと向かっていく私より濃いブロンドヘアーな彼。
当然、未熟者だと茶化されたのが腹立たしいので、すぐに正義の鉄拳を見舞うべく彼の後を追う。
そう。真昼なのに昼食を取りにいくのではなく、あくまでもジェームズに対してのやり返しを仕掛けることに関して夢中になりすぎている、前髪が斜め向きの薄い金髪ロングと膝丈の高額で高質な凝っている意匠やフリルのついたスカートを風に靡かせるカールディシュオッス家の一人娘、エッセリアー・ルー・カールディシュオッスである私。
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