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初任務とお泊り会

2022.06.27修正しています。

 六番の部屋を出て冒険者ギルドの待合室に戻る途中、ポルック、リュリュ、ミレーの三人が僕の方へと小走りで近付いて来る。

 三人はそれぞれの言葉で僕の準職員試験の合格を祝ってくれた。


 あからさまに僕らに聞こえるように舌打ちをする男。

 もしかしたら以前に準職員試験を落ちた冒険者なのかもしれない〝準職員合格程度で浮かれるなんて見習い冒険者は気楽でいいよな〟とそこそこ大きな声でのたまった。

 僕は気にしなかったのだが、義理堅い小人族であるポルックには見過ごせなかったようだ。その男に向かっていこうとしたので、すぐさま止めた。


「今日は四人で美味しい物でも食べようか」


 笑みを浮かべたまま三人に話しかける。そんな僕の態度が男には気に入らなかったんだろう〝言い返す勇気もねーのかよ〟と更に大きな声で言い放ち、周囲の冒険者たちも僕らを見下すように笑った。

 ポルックに続いてリュリュも目を吊り上げるが、僕は二人の手を掴み強引に冒険者ギルドの外に出た。ミレーは何も言わずに下を向いたまま後をついてくる。

 迷宮島で最も評価されるのは冒険者として成果だ。

 勿論腕っぷしが強ければ力でなんとでもなるだろう、僕ら四人は見習い冒険者でありコボルトにさえ数的優位を作らなければ勝てない弱者だ。

 けんかを買っても損をするのは僕らだろう。

 冒険者ギルドの建物を出た後も、ポルックとリュリュは怒りが納まらず〝なんで黙ってるんだよ〟〝カイルは悔しくないんすか〟とブツブツ不平を並べる。

 人通りの少ない小道に入りポルックとリュリュ二人の目を見つめる。


「悔しいよ……でも僕らはコボルトとの戦いさえギリギリだった。僕とポルックだけならボコボコに殴られて終わりだろうけどリュリュとミレーは女の子なんだ。けんかを買ってもし負けたら人生終わるよ、宿屋に連れていかれてあいつらが飽きるまで裸にされておもちゃになるんだ。迷宮島は力がすべてなんだ。弱いうちは馬鹿にされても我慢するしかない、僕らが挑発を受けなければ冒険者ギルドがなんとかしてくれる、せっかくだしさ僕の家で美味しい物でも食べて今日のことは忘れようよ」


 僕の言葉を聞いて二人も落ち着いたんだろう、二人は……〝俺が間違っていた〟〝ごめんなさいっす〟と反省の言葉を口にする。

 僕は根に持つタイプなんだ、友達にこんな顔をさせたあの冒険者たちの顔は忘れられないだろう。すべては力を持つまでの辛抱だと僕は唇を噛んで我慢した。

 気を取り直して僕の家で合格おめでとう&残念でしたパーティーをすることになった。


 お金を出し合いパンや串焼きなど屋台で食べ物や飲み物を買い漁る。こんなにも誰かと笑いあえる日が来るなんてエリクセン家にいた頃は思いもしなかった。

 食事をしながら、くだらない話に花を咲かせる。

 三人も僕と同じように面談があったそうだ。僕との違いは一人ではなく三人一緒に面談になったこと、今年二回目の準職員試験の準備もすすめられており、その時にはもう一度声をかけると言われたそうだ。

 そんな説明を受けている最中、息を切らしたエルメラさんが飛び込んできた〝あなた方三人に指名依頼が入っています。物資輸送の護衛依頼なんですがどうしますか?〟と言われた時には、急なこと過ぎて本当に驚いたと三人は笑う。

 指名したのが僕だと知り三人は二つ返事で首を縦に振ったそうだ。僕を信じてくれるのは嬉しいけど三人の考えなしの行動には少しだけ呆れてしまう。

 〝いくら僕からの依頼だとしても、内容をきちんと確認してから受けるようにしようね〟と笑いながら注意した。


 全員のお腹がいっぱいになったところで、明日からの任務の打ち合わせに移った。

 三人が説明を受けた内容は、『風の丘の迷宮』に荷物を届ける馬車に同乗して護衛をすること、期間は七日から十日前後……これだけである。この内容で本当によく引き受けたなというのが僕の感想だ。

 この三人は本当に危なっかしい。

 僕は食器を片付けたテーブルの上に『風の丘の迷宮』までの地図と、エルメラさんから渡された依頼の詳細が書かれた書類を広げて説明をはじめた。

 野営に必要なテントや食糧、水などはすべて冒険者ギルドが準備してくれる。

 多少量が心許ない気もするのでロバの動く骸骨(スケルトン)を連れて、この後必要なものの買出しにいこうと思う。ミレーが一緒に行くと手を挙げてくれた。


「武器はコボルト迷宮から出た物から使える物を多めに持っていった方がいいかもしれないな。ポルックとリュリュには武器の選定をお願いするね」

「了解だ。ところでカイル……コボルトの動く骸骨(スケルトン)は完成したのか?」

「あれの完成は早くて一月後かな、明日は別の子を連れて行くよ」

「そうか見てみたかったんだけどな、そうだ明日も朝早いんだしカイルん()に泊まってもいいかな」


 ポルックに〝いいよ〟と気軽に答えると、それを聞いたリュリュとミレーも泊めてほしいと言い出した。〝さすがに女の子を家に泊めるのは……〟口ごもる僕にリュリュはニヤつきながら〝へぇーカイルって貧乳派だと思っていたんすけど、あたしやミレーみたいな大きいのにも欲情するんすね、エッチっすねー〟とからかいはじめる。

 結局リュリュとの根気比べに負けた僕は、二人が家に泊まることを了承した。もちろんそういうことはしていない。


 翌朝、四人で朝食を食べた後僕は一人冒険者ギルドへ向かった。

 エルメラさん立ち合いのもと荷馬車に積まれた物資の確認と打ち合わせを行う。渡された荷物の中には『風の丘の迷宮』のキャンプ地にいるギルド職員宛の封書も含まれていた。

 ロバくんとロバくん二号に馬具(ハーネス)を取り付け荷馬車に繋げていく。

 骸骨のロバ二頭が牽く六つの車輪が付いた大型の荷馬車、通りに薄い霧が立ち込めているせいで余計に不気味さを助長したのか、通行人の悲鳴が聞こえてきた。


 家の前で停まり、ポルックとリュリュとミレーの手を借りて予備の武器やスケルトンの入った木箱、食糧などを順に積みこんでいく。

 御者台には僕とポルックが並んで座り、リュリュとミレーは荷物の乗る荷台に座った。

 荷馬車には雨天用の荷台全体を包む折り畳み式の幌も付いている。門の前に到着すると話が通してあったのだろう、何事もなくすぐに出発の許可が下りた。


 迷宮島の町は迷宮を攻略するためだけに存在する。

 この島に暮す人々にとって最も重要なことが迷宮攻略なのだ。その情熱は凄まじく島中にあるすべての迷宮には馬車が走るための道が繋がっている。

 そうはいっても馬車の乗り心地は褒められるものではない、ロバくんたちが休憩いらずでも僕らの腰や尻は悲鳴を上げる。ミレーが調合した酔い止め薬が効いたおかげで気分が悪くなる人はいなかったが、道すがら休憩を入れて進むことにした。


 迷宮島には荷を狙い馬車を襲うような野盗はいない。そんなことをすれば迷宮攻略を邪魔した罪で島民全員、下手をすれば世界を敵に回すことになる。

 迷宮だらけの物騒な島ではあるが、外の国に比べて犯罪者が少ないのもこの島の特徴だ。

 よく耳にする犯罪行為といえば、グレーゾーンに当たるのだが、両者が合意した決闘は認められており勝てば相手のすべてが手に入る。極端な話、両者合意の喧嘩であれば殺しも許される。

 後は迷宮内での犯罪行為も目撃者さえいなければどうとでもなるだろう。

 ちなみに、迷宮への物資を輸送する荷馬車に護衛が必要になるのは、迷宮島の島内すべてで魔物の発生が確認されているからだ。迷宮外で湧く魔物の多くは入門用迷宮と同等かそれより力の弱い魔物たちだ。極稀に強い魔物が湧くこともあるそうだが、誰かがおかしな発言をしない限り問題はないだろう。

 迷宮外に湧く魔物は狼や猪やネズミといった迷宮島の外で獣と呼ばれる動物に似たものが多い。それならロバも湧けばいいのにと思うのだが……そういえばアルパカという毛むくじゃらな動物が遠い大陸にはいるって話だけど、骨になったらロバと変わらない気がする。


「迷宮の外なのに魔物が湧くのは不思議っすよね迷宮島恐るべしっす。滅多に強い魔物が出ないのは安心っすね」


 リュリュは無邪気な顔で笑ったが、なぜか僕にはその発言が何らかの条件を確定する不穏な言葉に思えてしまった。

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