準職員試験の合否とはじめての仕事
22.06.27修正しました。
冒険者ギルド準職員試験の結果を待つ間僕カイル・エリクセンは、冒険者ギルドで荷馬車を借りると、町とコボルト迷宮を何度も行き来してコボルトの死体を運んだ。
庭に山積みになったコボルトの死体。
臭いが酷くなる前に素早く解体し、骨から外したコボルの肉は森へと運び、穴を掘っては近くで捕まえたスライムと一緒に放り込む。
骨に残った肉はスライムだと骨まで食べてしまうため、死肉喰らいと呼ばれる甲虫を捕まえて骨の入った桶へと放す。
彼らは骨に付いた肉をキレイに平らげると、勝手に飛んで森に帰っていくため動く骸骨作りでは欠かせない。今回から臭いを取るためのゆで汁に使う香草の新しい配合を幾つか試す予定だ。それに脆くなった骨の強化に漆科やゴム科をはじめとした木の樹液も数種類試してみる。
ロレンツォさんに注意された聖水に入れるミントの量も減らしてみた。
スケルトンの製作工程が増えるため、一体目の試作型が完成するのに一月以上はかかるだろう。
ロバのスケルトンである『ロバくん』の朝の散歩も日課となった。
初日こそ近所の人たちから気味悪がられてしまったが、次の日には大半の人が受け入れていた、この柔軟さも冒険者の町ならではなのだろう。
「おーい、カイルいるかー」
小人族の少年ポルックだ。冒険者ギルドの準職員試験で同じ班になったポルックと猫人族と人間の混血の少女リュリュ、薬草大好き少女のミレーとは友達になった。
四人で一緒にパーティーを組んだわけじゃないけどね。
試験の翌日からリュリュとミレーは二人でパーティーを組んで依頼を受けているそうだ。
コボルト迷宮で拾った装備の多くは手放し、僕ら四人が使うほんの少しだけ手元に残した。
今日は準職員試験の試験結果が分かる日でもある、この後リュリュやミレーとも合流して四人で冒険者ギルドに行く予定だ。
「おはようポルック、随分と早い時間に来たね」
「やることがなくてさ、せっかくだしカイルと魔法の訓練でもしようかと思ったんだ」
ポルックは毎日ように僕の家に顔を出している。昨日も昼食と夕食をご馳走する代わりにスケルトン作りを手伝ってもらった。彼ら小人族は義理堅いのだ。
スケルトン作りはひと段落して後は待つだけなので、今日はリュリュたちが合流するまでポルックの魔法の訓練に付き合うことにした。
死霊術師も一応魔法使いの端くれである『身体強化』くらいなら僕でもコツを教えることが出来る。
そうはいっても魔法使い系統ではない狩人の職技能を授かったポルックが、『身体強化』を覚えるにはかなりの月日が必要となるだろう。
上手くいくかどうかは本人の努力次第だ。
魔法の訓練に夢中になっていると十一時の鐘が鳴り、リュリュとミレーが合流した。
四人で冒険者ギルドへ向かう。
準職員試験の発表の日だけあって、流石にみんな緊張の色が隠せないのか普段より口数が少ない。
僕は当然のように、やや幼児体型の黒髪メガネ女性職員サラサさんの窓口に並ぶ。
「ほうほう、カイルはああいう感じの女子が好みなんっすね、貧乳派すか」
リュリュが訳の分からないことを口走ったが聞こえないフリをする。
僕の番が来て前に進むと、サラサさんは僕の前に一枚の封筒を差し出した。
「カイルくんおめでとうございます準職員試験合格ですよ。流石は私が見込んだ冒険者さんですね、その封筒を持って六番の部屋に進んでください。ちなみに私は貧乳ではありませんよ美乳です」
後半は声のボリュームを落とし僕の耳元で囁く、リュリュの声が聞こえていたんだろう。
僕は真っ赤になりながら下を向くと封筒を受け取り、足早に移動した。
合否に関わらず試験を受けた冒険者には何らかの話があるようだ。試験に参加した冒険者たちはそれぞれ別々の部屋へと入っていく。
日時の指定は特に無かったので恐らく個別に説明があるのだろう、僕の入った六番の部屋には小さなテーブルがひとつだけあって僕以外にはまだ誰も来ていない。
本来なら指示があるまで立って待つべきなんだろうけど、連日のスケルトン製作でクタクタに疲れていた僕は椅子に座って待つことにした。
ノックの後、サラサさんではない女性ギルド職員が入ってきた。こういう密室での個別面談では通常男性の冒険者には男性のギルド職員が対応するのだが、女性職員一人というのは僕が子供だと思われているからだろう。
だからといってどうこうするつもりは微塵もない。
「はじめましてカイルさん、私はギルド職員のエルメラと申します。改めて準職員試験合格おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「まずは封筒を開けてください。そこに書いてある内容が当ギルドの準職員が守る規則となっております。あくまで準職員は我々職員の補助的な立場ですので冒険者としての仕事に差し支えない範囲でご協力いだだければと思います。ただあまりにも当ギルドへの貢献が低い場合には、準職員資格の剥奪もありますのでご注意ください。もちろん資格の返却も可能です。早速カイルさんに頼みたい仕事があります。迷宮島リーゼガントには多くの迷宮があります。迷宮は島のあちこちに点在しており、最も遠い迷宮はなんと馬車で片道一月の距離にあるんです。遠いですよね。カイルさんのように長距離を移動する手段を持つ人材は貴重なのです。今回はそこまで遠くはないんですがカイルさんにはポーションをはじめとした回復材と食糧をはじめとした幾つかの物資を『風の丘の迷宮』まで届けていただきたいと考えています」
そう言いながらエルメラさんは僕の前に一枚の地図を置いた。
『風の丘の迷宮』は島の外に影響が及ぶ可能性がある迷宮のひとつだ。現在口を開けている迷宮の中では最も優先度が高い迷宮なんだという。
迷宮の挑戦難易度は中級冒険者以上。
迷宮までの距離は馬車で六日前後、スケルトンであるロバくんとロバくん二号が牽く馬車でなら三日から四日で着くことが出来る距離だ。
迷宮のそばにはギルド職員が滞在するキャンプ地も作られており、キャンプ地への物資輸送が僕の仕事である。
成功報酬欄には金額の他に中古の荷馬車と書かれていた。
僕の欲しい物が書いてあるあたり、この任務を受けてもらいたいという強い意志を感じる。
冒険者の護衛を数名つけるとも書いてあるが……いまはそれよりも気になることがあった。
「あの……エルメラさん僕と一緒に試験を受けた三人は、準職員試験に合格したんでしょうか?」
「残念ながらポルックさんとリュリュさんとミレーさんは不合格でした」
「そうですか、ならその三人を護衛として指名することはできないでしょうか?それと素材として使わないものでいいので魔物の骨を報酬に加えていただけませんか」
少し図々しかっただろうか。
エルメラさんは少し考え込むと〝少しだけお時間をください〟そう言い残し部屋の外へと出ていってしまった。
少ししてエルメラさんが戻ってくる。
「カイルさんの指定された条件承りました。ただギルドからも一点仕事を追加します。帰還する際『風の丘の迷宮』で獲れた魔物の素材の運搬をお願いします。明日までキャンプ地の責任者宛ての手紙を準備しておきますので明日の出発前に取りに来てください。ポルックさんとリュリュさんとミレーさんについては、護衛の件了承を得られましたのでご安心ください」
こうして僕の初めてのギルド準職員としての仕事と、ポルックとリュリュとミレーの初めて指名依頼が決定した。