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受付嬢サラサさんのおススメ!

22.06.27一部書き直しています。

 清潔無臭なスケルトンの研究は順調に進んでいるものの、冒険者ギルドの仲間募集に『ミントの香りがするスケルトンを使役する骨遣いです。(虫除け効果あり・負のオーラも若干あります)』とアピール内容を追加したのだが未だにその効果はあらわれていない。

 パーティーが見つからないまま、一人で出来る雑用系の依頼を受けるために毎日冒険者ギルドに顔を出すのが日課になった。


 話しやすいという理由でいつも同じ窓口に並ぶことが多かったからだろう。

 黒髪で眼鏡の女性職員サラサさんとは、毎日顔を合わせていることもあり、受付ついでに世間話を挟む程度には仲良くなった。

 そんなサラサさんが〝お姉さんに任せなさい〟とばかりに無い胸を張り自信たっぷりに言った。


「こんにちはカイルくん。今日はいいお知らせがありますよ」

「いいお知らせですか……もしかして、ついに僕を受け入れてもいいという、天使のような心の広いパーティーが見つかったんですか」

「残念ながらそれは変わらず進展なしです。でも本当にいい話なんですよ!毎年冒険者ギルドでは、仕事の手伝いをしてくれる準職員を募集しているのですが、ついに今年も募集の季節がやってきたんです」


 サラサさんはドヤ顔である。


「その話のどこがいい話なんですか」

「フフ、今回募集しているのはギルド公認の荷物持ち兼案内係のお仕事なんです。準職員という扱いなので冒険者も続けられます。あくまで依頼が無い時だけ手伝っていただく感じですね。それに今回の対象者は所属パーティーが決まっていない冒険者なので、上手くいけばそこで気の合う仲間が見つかるかもしれませんよ」


 サラサさんは推定年齢二十代半ば(某冒険者の男性談)、背が低く胸が控えめな幼児体型ながらその愛くるしい笑顔から隠れファンも多い。


「確かに……僕にとってはいい話ですね」

「でしょ!ただ試験がありますのでそれは頑張ってください。臭くないスケルトンは完成しているんですよね?虚偽の登録は犯罪ですよ」


 サラサさんは僕が仲間募集のアピール欄に追加記入した、ミントの香りがするスケルトンのことを言っているんだろう。


「大丈夫です。黒い靄の問題はまだ完全には解決していませんが、臭いの問題はほぼ解決済みです。それに……少しスースーして近くにいると鼻の通りがよくなります」

「スースーですか」

「そうです!スースーです」


 その後サラサさんから、冒険者ギルド準職員試験についての説明を受けた。

 試験日:二日後

 集合場所:西門前(七時の鐘が鳴る前には集まっているように!)

 内容:ギルド職員を含んだ五人でコボルト迷宮の最深部へ向かう。

 西門の出発から町に戻るまでが審査対象となる。

 持ち物:おやつは銀貨一枚まで必要な物は冒険者ギルドで準備(食糧含む・当日手渡し)

 仲間の選定:ランダム(当日までナイショ)従魔や召喚獣は人数に含まれません!


 とのことだ。言葉による説明以外にも必要事項が書かれた紙も念のため受け取った。


 迷宮島リーゼガントはどの国にも属していない。

 島の港にはこの島で唯一の僕らが暮らす町があり、この町の運営には沢山の国や多くの貴族が出資しているという。世界各国から入港する船のお目当ては迷宮産の魔物の素材や珍しい鉱物や植物だ。

 迷宮島には、いくつもの迷宮が出現する。

 中には一定期間放置するとことで、本土――様々な国家が乱立する大陸に新たな迷宮が出現して多くの魔物を一気に吐き出すといった、非常に迷惑な状況を生み出しかねないものすらある。

 そういった特別な迷宮は滅多に口を開けることがなく、その分出現した時には大騒ぎになり攻略が最優先となる。

 熟練者を対象とした強制依頼がほとんどのため、僕が駆り出されるのは当分先の話だろう。


 今回の試験の対象になるコボルト迷宮は、入門用迷宮と呼ばれるモノのひとつだ。

 この迷宮は四つの顔を持ち、犬の頭をした人型の魔物コボルトが湧くコボルト迷宮。

 緑色で尖った長い鼻と耳を持つ体毛のない人型の魔物ゴブリンが湧くゴブリン迷宮。

 豚の頭をした人型の魔物オークが湧くオーク迷宮。

 プルんとした柔らかい体を持つ一部のマニアからペットとしても人気のあるみかん型の魔物スライムが湧くスライム迷宮。

 攻略をする度にこの四つが無作為に切り替わる少し変わった迷宮である。


 オークは肉が美味で食用としても人気だが、それ以外は挑んでも大した稼ぎにならないことから挑戦する冒険者がなかなか現れないという。

 なによりコボルト迷宮を攻略しても次もコボルト迷宮だった。なんてことも多々あるため、冒険者ギルドからは厄介な迷宮として認識されている。

 この初心者用迷宮は奥地に特別な魔物がいるわけでもなく、最奥の部屋にある『迷宮の宝珠』にさえ触ってしまえば攻略完了となるため難易度も低い。

 そんな理由から冒険者たちも、俺たちで攻略してやろうぜ!といった意欲も湧きにくいのだろう。


 『迷宮の宝珠』に触れても迷宮が閉じるまでは三日ほどかかるらしいから、試験の合否に関わらず、後でスケルトン製作用にコボルトの死体でも拾いに行こうと、はじめるまえから僕も終わってからのことに意識が向いていた。


 それにしても緊張する……エリクセン家を追い出されて迷宮島リーゼガントに来てから、すぐに冒険者登録はしたもののこの一か月に受けた依頼といえば、引っ越しの手伝いや店番など町から一歩も出ることもなく終わる依頼ばかりだ。

 冒険者らしい依頼といえば町の近くに自生する薬草採取くらいだろう。

 誰かと一緒にパーティーを組むのも初めてだし、命懸けの戦闘なんてものも今回が初めてである。

 お陰で昨晩は緊張して眠れなかった。

 日の出前にベッドから出て忘れ物がないかと六度目の確認をする。

 辺りが徐々に明るくなってきた。

 僕は母屋の隣にある物置へと向かった。物置には大小さまざまな形をした木箱が並べられている。

 スケルトンはバラバラにもなるので、こうして木箱に入れて並べておけば思いのほか収納場所も困らない。木箱に貼られたラベルを確認して目的のスケルトンが入っている箱を探して蓋を開ける。


「出ておいでロバくん」


 僕の言葉に反応するように、箱の中から飛び出してきた骨が組み上がり形となる。

 四本の脚と長い首、僕の背丈と変わらない高さに頭があるロバのスケルトンだ。

 名前は『ロバくん』。

 スケルトンはゾンビよりも動きが早い、早いといっても人間の全力ダッシュには到底及ばないのだが。

 しかし四つ足の獣のスケルトンであれば、人間の全力ダッシュにも負けないのだ。

 これならパーティーで遅いと怒られることもないだろう。

 ロバくんの背中に鞍を乗せ別のスケルトンが入った木箱三つと荷物を乗せた。


 この町では、朝の六時から十八時まで一時間おきに鐘が鳴る。

 本当は時計があれば細かい時間も分かるのだが、時の神の法具でもある時計は庶民が手を出せる代物ではない。

 はじまりの六時の鐘が鳴ってから少し時間が経っていることから、僕はロバくんと一緒に集合場所である西門へと急いだ。

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