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差出人不明の手紙

 新しく見つかった迷宮にはまだ名前がないそうだ。

 迷宮の形はダンジョン型で、地下三階には巨大な地底湖がある。

 その地底湖が邪魔をして探索はそこで止まっている。

 数十年ぶりに見つかった新しい迷宮ということでキャンプ地も設営されており、そこに集められたボートを馬車を使い地下三階まで運んでほしいというのが僕たちへの依頼だ。

 結局、冒険者ギルドが僕に期待しているのは、迷宮にも怯えず入ることが出来る動く骸骨(スケルトン)のロバや馬を使役していることなんだろう。

 入口~地下一階、地下一階~地下二階、地下二階~地下三階へは階段ではなく緩やかな坂道のため、地底湖までは馬車で行くことが出来る。

 当日は迷宮の調査で集められた冒険者パーティーが、地底湖への道中にいる魔物の駆除を引き受けてくれるそうなので、僕たちは魔物と戦わずボートを運ぶのに集中できるだろうというのが冒険者ギルドの見解である。

 新迷宮への出発は二日後だ。


 僕は久々に港近くの保養地(リゾート)区画にある、手切れ金として受け取った別荘に向かい歩いていた。

 この辺りにある屋敷の多くは、大陸で暮らす貴族や大商人といった金持ちが家主となっている。

 冒険者とそれにまつわる英雄譚は、貴族たちにも人気があり迷宮島に別荘を持つことは彼らにとってステイタスでもある。

 それに迷宮島での発言権を得るために、実の子や養子を迷宮島に送る貴族も多い。

 実の子といっても大半は四男や五男といった継承権の低い子供たちだ。

 迷宮島は貴族に対する規則も厳しい。

 一度目の援助は許されるが、それ以降の援助は許されておらず、実家に帰省した際に多少の金銭を受け取ることも出来るが、冒険者資格を持つ者は出入国の際いろいろと検査されるそうで、出国時と入国時の持ち物に大きな差がある場合は島への入場を断られることもあるそうだ。

 ただ、島外での冒険者活動で獲得した金銭や道具に対しては、依頼を受けた冒険者ギルドで手続きをすることで除外をしてもらえることもあるという。


 頻繁に目にするわけではないが、いい身なりをした冒険者もこの島には多い。

 案外身近なところに王子様やお姫様がいるのかもしれない。


 さて、別荘に到着すると郵便受けを確認した。

 一通の手紙が入っている……差出人は今回も白紙で、明らかに怪しさ満載の手紙である。

 状態異常に耐性がある腕輪(ブレスレット)が壊れていないか確認してから、手紙を持ったまま家の中に入る。

 家の中は荒らされた形跡はなく、長く人が入っていないせいか少し物悲しくも感じた。

 洗脳魔法の魔道具の在り処が分かれば、この家も使えるんだけど……借りた家に運ばずにそのままにしてある椅子を探し、腰を下ろすと手紙を開けた。


『キミの元兄がもうじきこの島にくるだろう、この家には当分近付かない方がいい、朝の散歩も控えた方がいいだろう。エリクセン家はキミのスケルトンに興味があるようだ、注意しなさい』


 スケルトンに興味がある……エリクセン家では動く死体(ゾンビ)やスケルトンしか使役できない死霊術師はバカにされていた記憶がある。

 家門の弟子として長くエリクセン家で働きたいのなら、せめて幽霊(ゴースト)級の不死の魔物(アンデッド)の使役が必要だった。

 そう言えば以前父から『使役術式の上書き(リ・ワード)』の魔法で亡霊(ファントム)と契約したという話を聞いたことがある。

 スケルトン以外の『不死の魔物の創造(クリエイトアンデッド)』は使えなかったけど、『使役術式の上書き(リ・ワード)』の魔法でなら、僕でもスケルトン以外のアンデッドを使役することが出来るんじゃないだろうか?


 考えが逸れてしまった……エリクセン家がスケルトンに興味があるとしたら、例の儀式に使う馬のスケルトンを作れる人材が父以外に見つからず、僕が作ったスケルトンを『使役術式の上書き(リ・ワード)』で横取りしようとか、そんな理由だと思う。

 あの兄たちなら、自分では努力せず平気で僕のスケルトンを奪いにきそうだ。

 アンデッドの譲渡は使役者の同意が必要という規則(ルール)が一応はあるのだが、あくまでこれは常識の問題であって、やったからといって罪に問われるようなものでもない。あの兄たちに常識があるかと聞かれれば……ないよな……。

 何より、国王ですら特権が認められず平民と同等の権利しか許されない迷宮島で、あの我儘いっぱいの兄たちが文句を言わずに過ごせるのだろうか?


 冒険者の死霊術師嫌いはかなりのものだ。

 仮に町中で腐臭たっぷりのゾンビなんて連れて歩いた日には、宿屋どころか酒場や食堂すら出入り禁止になるだろう。

 僕は念のため、兄たちが無断でこの別荘に入らないように、工房(アトリエ)区画で顔見知りとなった大工の親方にお願いして、別荘の扉と鍵をすべて交換してもらうことにした。

 親方もはじめのうちは僕が保養地(リゾート)区画に家を持っていることを不審がっていたが、『風の丘の迷宮』の攻略者だということを思い出し〝流石今一番勢いのある冒険者カイルだな〟と勝手に勘違いして納得した。

 この町での冒険者の扱いを再認識した。

 この町では成果を上げた冒険者は、様々な場面で優遇してもらえるのだ。

 なぜ親方が、僕が『風の丘の迷宮』を攻略したことを知っているのか尋ねたところ、


「あ゛どうして知っていたかだって……この島には冒険者新聞っていう冒険者の活躍を載せた新聞が出回っているんだぜ、大半の町の人たちは読んでいるぞ!特にカイル、お前は最近注目の新人十選にも選ばれた人気者だ。朝にスケルトンの馬?を連れて散歩しているのはちょっと引いちまうが、工房(アトリエ)区画ではちょっとした有名人ってわけさ、もし家の改築の希望があったら俺を指名してくれよな」


 と愉快そうに笑う。

 迷宮島には、僕の知らないことがまだまだ沢山あるらしい。

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