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友達

 カイルは冒険者ギルドで、黒髪眼鏡の受付嬢サラサさんと個人面談中である。

 どうしてこうなったのか……。

 あれほどパーティーに入りたいと募集を探していた僕が、ポルック、リュリュ、ミレーの三人から一緒にパーティーを組もうと誘われたにも関わらず、優柔不断な態度のまま答えを保留していることに、僕の上司でもあるエルメラさんが一肌ぬごうとサラサさんに声をかけたそうだ。

 彼女が選ばれた理由は、冒険者ギルドの中で彼女が一番僕と仲が良さそうだったから、毎回サラサさんの窓口にしか並んでいないんだからそうなるよね?


 で僕とサラサさんは、冒険者ギルドにある相談部屋と呼ばれる個室で話している。

 パーティーを組むことに、決心がつかない理由は単純だ。

 長い間洗脳魔法にかかっていたせいで、僕は十二年間自分が自分でないような不思議な感覚の中で生きてきた。

 それもこの島に来てから気付いたんだけど……それに、暴力と人を見下すことしか知らない兄たち以外、家に話す相手がいなかったことで人との付き合い方がよく分からないのだ。

 洗脳のお陰で他人というか使用人の顔色を窺って生きる術は磨かれたようで、浅い付き合いであればいくらでも人に合わせることが出来るのは、ちょっとした自慢である。


 でも……ポルック、リュリュ、ミレーの三人と友人関係になったことで気が付いてしまった。

 パーティーを組めば、今まで分からなかったお互いの嫌な部分も見えてくるだろうと、僕は臆病な人間なんだ……初めて出来た友人を失いたくないんだ。

 必死にこのことを頭の中で整理しながら、パーティーを保留にしているのは、今までまともな友人が出来たことが無く、せっかく初めて友と呼べる仲間が出来たのに万が一パーティーを組むことでその関係が崩れてしまうのが怖いと、サラサさんに正直に打ち明けた。

 話したのは失敗だったのかもしれない、目の前にいるサラサさんが会ってはじめて見る今にも涎をたらしそうな……若干興奮気味で、とても奇妙な顔をしている。


「ふーんカイルくんって大人びて見えていましたが、年相応なところもあるんですね。せっかく友人が出来たのに失うのが怖いって、フフフフ可愛い理由じゃないですか」


 どこか意地悪そうに笑うサラサさんを見て、僕は不満そうに視線をずらした。

 少し話過ぎたのかもしれない……僕は間に一枚壁のあるサラサさんとの距離感が気に入っていた。受付嬢と冒険者は、お互い仕事だけの関係なのだから当然なんだけど、それが何故か急にフレンドリーな態度に変わり、餌付けか!と突っ込みたくなるくらいぐいぐいクッキーを差し出して来る。

 食べるけど……。

 そして何度か見ている〝お姉さんに任せなさい〟とばかりに無い胸を張りながらのドヤ顔、からの〝カイルくんの悩みは私が解決してあげますね〟と、片目を瞑りつつ決め台詞!こうしてサラサさんの本性を垣間見た個人面談は終了した。


 数日後――。工房(アトリエ)区画に借りている家の郵便受けに手紙が届く。

 島に来てからは二通目の手紙だ。

 一通目は差出人不明の、父から貰った別荘に〝洗脳魔法がかけられているという告発文〟いまだに差出人は不明である。

 誰も来ないとは思うけど、別荘の郵便受けくらいはたまに見に行った方がいいのかもしれない。

 新しく届いた手紙の差出人は、冒険者ギルドのエルメラさんからだった。

 内容は……日時指定有の冒険者ギルドへのお呼び出しと面談のお知らせだ。

 冒険者ギルドからの呼び出しは余程の理由がない限り断ることが出来ない。

 冒険者をやめてもいい、この島から出て行ってもいいとかなら無視してもいいのだが、日々楽しくなっていくスケルトン研究の素材を手に入れる手段をみすみす手放す気は毛頭ない。


 呼び出し日、当日――。

 冒険者ギルド入ると、近くにいたギルド職員に手紙を見せ奥に入る許可をもらう。

 そのまま手紙に書いてある番号の部屋まで行くと、扉を叩いた〝開いているわよ〟エルメラさんの声を聞き部屋の中へ。


 部屋にいる面々を見て一瞬動きを止める。

 ポルックにリュリュにミレーの三人がエルメラさんと向き合うように座っていたのだ。

 ポルックの横の席が空いており、恐らくあそこが僕の席なんだろう。しかも、三人はなぜか少しにやけていた。

 

「カイルさんよく来てくださいました。空いている席に座ってください」

「はー……」


 椅子に腰かけながら三人をチラ見すると、三人とも僕の方をニヤニヤと凝視していた。

 嫌な予感しかしない……悪寒が走り背中に汗が滲む。


「今日みなさんに集まっていただいたのは、カイルさん、ポルックさん、リュリュさん、ミレーさんの四人でチームを組んで、是非攻略に参加していただきたい迷宮があったからなんです」


 なんだろう……エルメラさんはパーティーを組むことに踏み切れずにいる僕の背中を押してくれようとしているのだろうか、優しくて世話好きな女神のような人だな。

 そう思った自分を、次の言葉で呪いそうになった。


「そうだカイルさんサラサから聞きましたよ。パーティーを組むことでお互いの嫌なところが見えて友人関係が崩れるのが怖い、だからパーティーを組むことに躊躇している。カイルさんって結構子供ぽいところがあるんですね」


 エルメラさんの一言で思わず顔が赤くなる。


「カイル俺たちはずっと友達だぜ、確かに骨を持ちながらブツブツ独り言を言っている時は少し怖いけど、そこもカイルの良さだよな」

「そうっすよ嫌なところがあるくらいでカイルのことを嫌いになったりしないっすよ、ロレンツォさんの話のようにカイルが豹変してあたしに襲い掛かったとしても、責任さえとってくれたらOKっす」

「私たちはずっと友達ですよ、カイルの家に私の調合器具を置いてくれたらもっと仲良しになれる気がします」


 エルメラさんだけじゃなくポルックやリュリュやミレーも、みんなニヤニヤしながら鼻息荒めで冗談まで言ってくる。恥ずかしくて顔があげられない。

 その後も僕は四人に揶揄われ続けた……。


 僕の生命力が尽きる寸前、ようやく僕をイジルことに飽きたのか依頼の(まともな)話に戻る。


 依頼内容は数十年ぶりに見つかったという新しい迷宮の調査。

 迷宮は、最奥にある、もしくは特定の魔物を倒すことで現れる『迷宮の宝珠』に触ることで攻略となり、入口を閉じて眠りにつく、そして一定期間眠り、また目覚めるように入口を開ける。

 迷宮が活動を止める期間を冬眠と呼ぶのだが、冬眠期間は迷宮それぞれで異なり、眠りが浅い迷宮だと一週間前後、中には数百年眠り続けるような迷宮もある。

 迷宮島リーゼガントにある迷宮は、どれも一度は口を開けたことがある迷宮だと考えられていた。

 それが今回記録にない未知の迷宮が口を開いたのだ。

 最初の調査でその迷宮が生まれたばかりの新しい迷宮だということが分かったそうだ。


 現在、冒険者ギルドが選んだ初級以上の五組の冒険者パーティーが調査を行っている。

 思ったほどの成果をあげられておらず、冒険者ギルドは冒険者の増員を決めたのだという。

 そこに僕ら四人が選ばれたというわけだ。

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