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迷宮の中の草原

22.06.28修正しています。

 大型のクロスボウ(バリスタ)の設置が終わった荷馬車を受け取った僕たちは、前回同様野営をしながら『風の丘の迷宮』を目指した。

 移動中『大狼』のような厄介な魔物には遭遇しなかったものの、前回以上多くの魔物と出くわすこととなる、島内に出現する魔物が増えているのも迷宮攻略が停滞していることが原因なんだろう。

 ただ数が増えた分魔物の質は落ちている。

 いま僕が昼食用に捌いているノネズミなんか魔物というよりは動物だ。

 エリクセン家で不死の魔物(アンデッド)に関する知識ばかり教え込まれたせいで、魔物と動物の違いはよく分からない。

 小動物は魔物の餌になることが多いため、これだけ小さな生き物の骨を手に入れる機会はそう滅多にない。ノネズミの骨は研究用に捨てずに手元に置くことにした。


 多くの魔物と遭遇したせいだろう『風の丘の迷宮』のキャンプ地に到着したのは、町を出てから五日後のことだった。

 キャンプ地は相変わらず人が多く、この前に比べると冒険者の姿が多い。

 その夜迷宮攻略の話し合いとして各パーティーの代表者が集められたが、僕らのチームからはロレンツォさんが参加することとなった。初級冒険者が顔を出すより元中級冒険者でもあるロレンツォさんが参加した方が舐められないだろうと思ったからだ。


 中級冒険者たちが乗る軍馬(ウォーホース)が牽く馬車を使った作戦すら失敗したのだ。初級冒険者だらけの部隊、しかも馬車を牽くのは最弱の魔物スケルトンである。

 分かりやすいくらいに見下されている。

 食事を受け取りに行った際も〝こんなガキどもが作戦の要って、俺たちも安く見られたものだ〟わざと聞こえるような声のボリュームで嫌味を言われた。ここにいる冒険者の多くは格上の中級もしくは上級冒険者だ。喉から出掛けた言葉を呑み込み急いで自分たちのテントに戻る。


 話し合いが終わりロレンツォさんが戻ってきた。なかなかに険しい表情だ。

 彼がこのような表情になった原因は話を聞いてすぐに理解できた。現在『風の丘の迷宮』は危険な状態にあり、迷宮の周囲、島内への魔物の出現頻度も大きく上がっている。

 一日でも早く攻略が必要だと熱弁したこのキャンプ地の責任者は、たいした作戦も立てないまま明日の朝の作戦決行を決断する。

 ロレンツォさん曰く、ハナから僕らが成功するとは思っておらず失敗するなら早い方が良い、失敗すれば次の作戦に素早く移行できると考えたのではないかとのことだ。

 これに対しても言いたいことはあるが、もし僕が逆の立場なら初級冒険者でしかも二流職技能(セカンドクラス)の骨遣いを核にして作戦を練ろと言われても、その時間すら無駄になると考えてもおかしくない。

 作戦と呼んでいいかは分からないが、僕らは『皇帝鷲』を地上に落とすことに集中。冒険者たちは僕らの動きに合わせて動く、なんとも行き当たりばったりなものだ。

 ロレンツォさんがこんな顔になるのも頷ける。

 明らかに僕らを見下しているというかバカにしている。


「ロレンツォさん、このキャンプ地の責任者ってどんな方なんですか?」

「どんなか……俺もよくは知らないんだが、確か副ギルドマスターの片腕とか言われてたんじゃないかな」


 考えすぎかもしれないけど副ギルドマスターは立場的に、僕が失敗した方が喜びそうだ。ただ失敗は死に直結しそうなので生き残るためにも必死に抵抗するつもりだ。


 こうして新たな疑念も抱きながら、何も解決しないまま僕らは作戦当日を迎えた。


 『風の丘の迷宮』の入口は丘の上にある大きな光の扉だ。

 馬車に乗ったまま他の冒険者同様に光の門を潜る。目の前には三百六十度見渡す限り草原が広がる。空には魔物が飛び地上にも狼の魔物の姿がある。

 『風の丘の迷宮』は魔物を倒すことで、この迷宮の主である『皇帝鷲』が現われる。

 僕たちは他の冒険者が魔物を倒すのを眺めながら『皇帝鷲』が姿を見せるまで待機だ。あちこちで既に戦闘がはじまっている。

 参加賞ではないが、冒険者には小型のクロスボウが配られている。もちろん僕らも受け取っている。

 ポルックたち三人は、町にいる時からエルメラさんの指示でクロスボウを使った射撃練習に参加していたそうだ。『風の丘の迷宮』攻略に僕を巻き込むための水面下の動きは着々と進んでいたんだろう。


 空より一際大きな鷲が姿を現す。『皇帝鷲』だ。

 笛が鳴らされた。


 大き過ぎないか……本当にあんな化け物を地上に落とすなんてこと出来るんだろうか。


「ロバくんたち、あの大きな鳥を追いかけてくれ」


 広大な草原を『皇帝鷲』を追いかけて走る。馬車から振り落とされないように全員が車体と自分の体をロープで固定する。

 その時だ『皇帝鷲』が鳴いた。思わず両耳に手を当てる。

 『精神干渉』や『錯乱』などの追加効果があるかもしれない、状態異常に耐性がある腕輪(ブレスレット)をポルックたちにも配っていて正解だった。

 少しずつ『皇帝鷲』との距離も近くなる、僕も御者台から荷台へと移動した。

 スケルトンの馬やロバに手綱は必要ない、馬車に並走し走る狼たちにクロスボウを使いボルトを放つが馬車が揺れるため命中率も悪い。


 ロレンツォさんは大型のクロスボウ(バリスタ)を『皇帝鷲』に向ける。ハンドルを回し滑車を巻き上げロープの付いたボルトをセットする。

 命中率が悪いのなら数を撃てばいい。

 当たらなかったボルトに付いたロープは邪魔にならないように素早くナイフで切る。

 何射目か……ついにボルトが『皇帝鷲』に命中した。ボルトの先には返しが付いており、多少暴れたくらいでは外れることはない。

 攻撃の手は休めない。二発目のボルトが当たった。馬車と『皇帝鷲』とを二本のロープが繫ぐ、さながら釣りである。一向に『皇帝鷲』は地面に落ちてくる気配はない、それどころか馬車の方が二度、三度宙に浮き僕らは一斉に悲鳴を上げた。

 明らかに他の冒険者たちから引き離されていく。


「なーロープ切った方がいいんじゃないか、あんな大きな鳥を地上に落とすなんて無理だよ」


 小人族のポルックが馬車にしがみ付きながら弱音を吐く。


「何か方法があるはずだ。今回失敗すれば何が起こるか分からない」


 ギルド職員でもあるロレンツォさんはこのチャンスを逃したくないんだろう。

 方法を思いついた僕は木箱に手を伸ばす。骨についていた肉が腐りかけていたようで蓋を開けた瞬間、嫌な臭いが鼻をくすぐり思わず顔を顰めた。


「それって一昨日食べたノネズミの骨っすか」


 猫人族と人間の混血の少女リュリュが鼻をつまみながら聞いてきた。


「うん、まさかこんなに早く役に立ってくれるとは思わなかったよ『動く骸骨の創造(クリエイトスケルトン)』」


 四体のノネズミのスケルトンが起き上がる。そこにボルトの矢尻だけを外した物を四つ置き『骸骨製作(スケルトンビルド)レベル一』、ノネズミの鼻先に鋭い矢尻が付いた。


「カイル、ノネズミさんたちを私の近くに移動してもらってもいいですか」


 人間で薬師の少女ミレーの言葉に従いノネズミのスケルトンを移動する。

 ミレーは自分の背負い袋から急いでゴーグルを取り出すと更にその上に目出し帽と呼ばれる目元だけが開いた調剤用の布の袋を頭から被る。

 他にも怪しい液体の入った瓶と筆も取り出した。


「体内に入らないと効きにくい麻痺毒なんです。目に入ると失明の恐れはありますのでみなさんは少し離れてください」


 ミレーは麻痺毒をネズミたちの鼻先に一体となった矢尻へと筆を使い丁寧に塗っていく。

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